E1038 – オープンアクセスによる人文・社会科学の単行書出版の現状は?

カレントアウェアネス-E

No.169 2010.04.14

 

 E1038

オープンアクセスによる人文・社会科学の単行書出版の現状は?

 

 人文・社会科学(Humanities and Social Sciences:HSS)分野の単行書のオープンアクセス(OA)を推進する欧州のコンソーシアム“Open Access Publishing in European Networks(OAPEN)”は2010年3月,HSS分野でのOAモデルによる単行書出版の現状を概観する報告書を発表した。

 報告書はまず,HSS分野でOAが注目されるようになった経緯等について一般的な解説を加えている。それによると,科学・生物・医学分野でのOAジャーナルの影響がHSS分野へも広まってきたこと,オープンソースソフトウェアやデジタル印刷技術の登場により,電子出版を試みるのが容易になったこと,従来の印刷版でのビジネスモデルがもはや持続可能ではないとの懸念が関係者の間に広まってきたこと,などが背景にあるという。

 続いてケーススタディとして,世界の32の出版社・局の取り組みを,出版モデルやビジネスモデル,OAの程度,査読方針,著作権方針,連携,などに焦点を当て,紹介している。

 さらに,ケーススタディの結果を分析し,下記のようなHSS分野のOA出版の特徴を指摘している。

  • 厳格な査読とクオリティ・コントロールの基準を有している,と強調する出版社・局が多い。また,透明性の高い査読プロセスを採用しているところもある。これらの一因としては,出版社・局がOAによる出版物は質が高くないというネガティブなイメージを払拭したいと考えていることがある。
  • 「学協会が設立した出版局」「図書館が設立した出版局」「大学図書館と大学出版局の連携」「学術関係者が設立した出版局」「大学出版局と商業出版社の連携」など,出版モデルが非常に多様化しており,効率性を高めるために複数の関係者が連携するモデルが多くみられる。こうした動きの一方で従来の出版モデル(大学出版局や商業出版社等)は新しいモデルと共存し,OA出版においても残り続けるだろう。
  • 多くの出版社・局が,オンライン版を無料,印刷版を有料とするビジネスモデルを採用している。その大半では,印刷版の販売収入だけでは採算が取れず,助成金,採算部門の利益の投資等の組み合わせによって資金を賄っている。
  • OAの電子ジャーナルに見られる「著者支払い型モデル」(E237参照)はほとんど用いられていない。
  • 著作権やライセンスのスキームが多様である。OAとは何かについての共通認識がなく,その理解が十分でない。多くのケースでクリエイティブ・コモンズ(CC)が利用されているが,OAの理念に適うCC-BYライセンス(原著作者のクレジットを表示すれば,複製,頒布,二次的著作物の作成を行うことができる)はほとんど用いられていない。

 報告書で明らかになったHSS分野でのOAモデルによる単行書出版の現状は,現時点のスナップショットでしかないとの認識から,OAPENは今後,プロジェクトのウェブページをwiki形式に変え,情報のアップデートを行うことになっている。

Ref:
http://www.oapen.org/
http://www.oapen.org/images/OpenAccessModels.pdf
E237