カレントアウェアネス-E
No.210 2012.02.23
E1267
研究者のニーズ変化に対応する図書館員に必要なスキルとは
2012年1月付けで英国研究図書館コンソーシアム(RLUK)が“Re-skilling for Research”と題するレポートを公開した。このレポートは,研究者の情報ニーズの変化に対応するために,サブジェクトライブラリアン等に求められるスキルや知識,そしてそれらを身につける研修機会等について,現状と課題を分析したものである。
導入の第1章に続き第2章では,研究文献と23のRLUK加盟図書館へのアンケート等の結果をもとに,研究者の情報ニーズと情報探索行動,それを支援するサブジェクトライブラリアンの役割がまとめられている。この結果,研究者の情報ニーズ等は個々の学問分野に応じて様々であることが示されたという。したがって,サブジェクトライブラリアンは既存のサービスの型に研究者の行動を合わせるのではなく,研究者の行動を常に意識し,サブジェクトライブラリアン自身がそれに合わせたサービスを提供する必要があるとしている。例えば,研究者支援サービスの本質が,これまでのような情報提供から研究データ管理に力点が移りつつあることが指摘されている。
第3章では,22のRLUK加盟館のサブジェクトライブラリアン169名とその管理者からの回答をもとに,研究者支援を担当するサブジェクトライブラリアンにとって必要とされるスキルと知識が32項目でまとめられている。特に,現在十分でないが今後必ず求められるスキルとして,研究成果の保存,データマイニング,メタデータ利用,プロジェクト記録の保存等の9項目に関して助言等を行なうのに必要な知識や能力が挙げられている。
第4章では,図書館による研究者支援サービスのモデルやそのサービスを担当するサブジェクトライブラリアン等の職務内容等について論じられている。また第6章では,著作権管理や機関リポジトリ,学術出版や研究者向けの研修プログラム等の提供等,図書館以外で研究者支援サービスを担当する学内部署に焦点が当てられている。図書館以外の研究者支援サービスの登場の中で図書館が生き残るためには,そのような「競争相手」と協同関係を築き,危機をチャンスに変える必要があるとしている。
第5章では,研究者支援に必要なスキルや知識を身につけるための研修等がどのように行われているかについて,RLUK加盟館のほか,研修を提供している欧州や北米,オーストラリア等の18の図書館情報学大学院の回答をもとにまとめられている。それによると,研修内容としては,いわゆるコアスキルや伝統的な研究支援法をテーマとしたものが多く,これから求められるサブジェクトライブラリアンのスキルの向上に繋がるものは多くはないという。また,図書館情報学大学院では,程度の差はあれ,必要とされる全ての知識を学生に教えていたが,特に研究者支援を担当するサブジェクトライブラリアンに焦点を当てたものとはなっていなかったとされている。
最後に第7章では,研究者支援を行う図書館および図書館員は,現在の危機をチャンスと捉え,研究者のニーズの変化に対応し,研究者支援サービスの新たな地平を切り開いていってほしいと結んでいる。
Ref:
http://www.rluk.ac.uk/files/RLUK%20Re-skilling.pdf
http://www.rluk.ac.uk/content/re-skilling-research