カレントアウェアネス-E
No.190 2011.03.17
E1156
米HarperCollins社,電子書籍の貸出回数に上限を設定
2011年2月,米国の出版社HarperCollins社は,2011年3月7日以降に購入された電子書籍を対象に,図書館での貸出回数を1冊につき26回までとする新たな条件を設定することを関係者に通知した。紙の書籍の耐用期間に倣って貸出回数に上限を設けたとのことで,図書館が上限に達した電子書籍を引き続き貸出提供をするためには,その電子書籍を再度購入しなければならないようである。この新たな条件に対して各方面から様々な反応があったため,HarperCollins社は2011年3月1日に同社のブログにオープンレターを掲載した。それによると,今回の新たな条件を設定するために図書館員や図書館関係機関と協議するなど,数か月以上前から準備をしてきており,26回という数字は最も利用される書籍の年間貸出回数から算定(1年52週 / 1回2週間)しているとのことである。
図書館等に電子書籍を提供するOverDrive社は,HarperCollins社の新たな条件の設定を受けて,注文に係るプロセスを変更し,2011年3月7日からHarperCollins社の電子書籍コンテンツ及び目録を他の出版社のコレクションと分けて提供するという対応をしている。OverDrive社のブログに掲載された同社CEOのコメントによると,HarperCollins社の電子書籍を提供しないという選択肢も検討したものの,各図書館が選択できるようにするためにこのような対応を行ったとのことで,図書館に対する影響を見極めるまではこの対応を維持するという。
オクラホマ州ノーマンの図書館コンソーシアム“Pioneer Library System”は,2011年3月1日付けのプレスリリースで,HarperCollins社が紙の資料の耐用期間を基に条件を設定したことに対して,紙の資料の買い直しは貸出回数ではなく,資料の状態によるものであり,また,電子ファイルのフォーマットもいずれ陳腐化する,と指摘し条件を見直すよう求めている。さらに,同コンソーシアムの図書館が所蔵するHarperCollins社の紙の書籍が,26回以上貸し出されても依然として良い状態に保たれていることを動画付きで紹介している。
Library Journal誌は,2011年3月7日付けの記事で,上記のノーマンのコンソーシアムのほか,複数の図書館コンソーシアムがHarperCollins社の電子書籍の購入を見合わせる決定をした,と報じている。オレゴン州のコンソーシアム“Oregon Digital Library Consortium”は2011年4月に行われる役員会で検討する予定で,それまでは購入しない意向とのことである。マサチューセッツ州中西部やニューヨーク州,ミズーリ州のコンソーシアムは,コンソーシアムのポリシーに反する,上限に達して再購入する予算的余裕はないなどとして,HarperCollins社の電子書籍の新規タイトルを購入しないことを決めている。
米国図書館協会(ALA)では,関連する2つのタスクフォースを立ち上げ,電子書籍をはじめとするデジタルコンテンツへの公正なアクセスに関する情報を提供するウェブサイトを開設するほか,米国出版社協会(Association of American Publishers)と話し合いの場を設ける予定となっている。
Ref:
http://harperlibrary.typepad.com/my_weblog/2011/03/open-letter-to-librarians.html
http://overdriveblogs.com/library/2011/03/01/a-message-from-overdrive-on-harpercollins-new-ebook-licensing-terms/
http://www.pioneer.lib.ok.us/pls/111-Press/2423-open-letter-to-harpercollins-a-readers-of-ebooks
http://www.youtube.com/watch?v=Je90XRRrruM
http://www.libraryjournal.com/lj/home/889582-264/library_consortia_begin_to_vote.html.csp
http://www.cwmars.org/node/386
http://connect.ala.org/node/133120