E1112 – 科学データ電子インフラの整備に向けた欧州委員会のビジョン

カレントアウェアネス-E

No.182 2010.11.04

 

 E1112

科学データ電子インフラの整備に向けた欧州委員会のビジョン

 

 2010年10月6日,欧州委員会(European Commission:EC)の情報社会・メディア総局の下で協議を続けてきた「科学データに関するハイレベルグループ」(High-Level Group on Scientific Data)が,最終報告書“Riding the wave:How Europe can gain from the rising tide of scientific data”を公開した。これは,欧州内の大学や研究機関等における研究の過程で生み出される科学データの共有と再利用のために,電子的なインフラ整備に向けたビジョンとそのための課題を指摘したものである。

 報告書では,2030年までのビジョンとして次の8つを示している。(1) 研究者から政府機関,そして一般市民に至るまでのすべてのステークホルダーが,信頼できる科学データを保存し共有することの重要性を認識する。(2) どの分野の研究者でも必要な科学データにアクセスし利用することができる。(3) 科学データの作成者がそのデータを公開して利益を享受し,信頼できるリポジトリへのデータ登録を選択するようになる。(4) 科学データの電子インフラを整備するための公的資金を増額する。(5) 公的機関と私企業との間で科学データを交換させるために,産業・ビジネス界でのイノベーションパワーを活用する。(6) 一般市民が科学データを利用できるようにする。(7) 政府関係者が,信頼できる科学データに基づいた政策決定を行えるようになる。(8) 科学データの世界規模での連携協力の促進を行う。

 報告書では以上のビジョンを現実のものとするために,EUおよび関係機関に対して,次の6点からなるアクション・プランが示されている。

1. ECは,「協同データインフラ」(Collaborative Data Infrastructure)の構築に努めること。これは,企業,研究機関,大学や政府等が交流を行うための,幅広い概念的な枠組みであると同時に,フレキシブルなものでありながら信頼性が高く安全で,かつオープンであるような科学データの電子インフラである。

2. 欧州理事会(European Council)はこれまで以上に科学データの電子インフラ整備のための資金を拡大すること。

3. ECは産業界や大学研究者,国際機関と協同で,科学データの価値を査定する方法を研究すること。

4. ECは主要な大学で次世代のデータサイエンティストの育成を促進し,EU加盟国はデータマネジメントとそれに対するガバナンス配慮を,中等教育の授業カリキュラムに組み込むこと。

5. 欧州の各政府機関は,科学データの電子インフラの整備において,環境問題に配慮すること。

6. ECは,世界的規模での科学データの電子インフラの整備計画に向けたハイレベル協議の場を設定すること。

 ハイレベルグループの委員長であるウッド(John Wood)氏は,報告書がいわゆるビッグサイエンスのみを対象としているのではなく,人文学を含むあらゆる研究を対象にしていると述べ,もし欧州の研究が世界の最先端であり続けようとするのであれば,直面している課題に取り組むことが必要であると指摘している。

Ref:
http://cordis.europa.eu/fp7/ict/e-infrastructure/docs/hlg-sdi-report.pdf