E1055 – スタンフォード大学,本のほとんど無い図書館を計画

カレントアウェアネス-E

No.172 2010.06.10

 

 E1055

スタンフォード大学,本のほとんど無い図書館を計画

 

 2010年5月,本のほとんど無い(bookless)図書館を新たに設置するというスタンフォード大学の計画が複数のメディアで報じられた。同大学の工学図書館(Engineering Library)と物理学図書館(Physics Library)を閉館し,資料をほとんど排架せず電子リソースの提供をサービスの中心とする工学図書館を新たに開館するというものである。新しい工学図書館は2010年7月に移動等の準備作業を行い,8月に開館する予定とされている。

 新しい工学図書館には,現行の工学・物理学両館の資料の中から利用頻度の高い図書2万冊と雑誌50タイトルのみが排架され,それ以外の資料は“SAL3”と呼ばれる遠隔地の保存書庫に移管される。工学図書館では,2007年7月から2010年3月までの間にすでに資料96,000冊をSAL3に移しており,雑誌については一部の例外を除き電子版のみの提供へと移行し,レファレンスブックについても電子媒体での提供が準備されている。

 新しい工学図書館のスペースは,現行の工学図書館の半分ほどになるが,資料の排架スペースを減らし利用者のためのスペースを増やすとのことである。利用者スペースには,柔らかいシートの個人閲覧席やグループ学習エリア,RFIDを使った自動貸出機,ホワイトボード,電子掲示板,電子書籍リーダーの“Kindle 2”などが設置・提供されるほか,3名の主題専門家が配置される予定である。

 計画の背景には,大学全体で年間10万冊の図書館資料を購入していることによる資料の排架スペースの不足がある。資料を保存書庫に移し,本のほとんど無い図書館を作る場合には,ブラウジングを必要とする人文社会科学や研究に電子書籍を用いるのが難しい数学ではなく,理工学系の図書館が適しているとの判断から,今回の計画に至った模様である。

 この計画に対して,理工系の学生は,資料の多くをオンラインで入手することができるため,「紙」に対してノスタルジーを感じることはほとんどないようである。また,物理学図書館の館員は,「変えることはつらいものだ。過去の教職員らが寄贈した資料の蔵書票や時々ある書き込みを見ると喜びを感じる」としながらも,「新しいものを作り出す機会であり楽しみにしている」ともコメントしている。

Ref:
http://www.mercurynews.com/breaking-news/ci_15114502
http://www.sacbee.com/static/weblogs/ticket/archives/2010/05/stanford-univer.html
http://lib.stanford.edu/engineering-library/newlibrary
http://lib.stanford.edu/engineering-library/update-new-engineering-library-and-jen-hsun-huang-engineering-center
http://lib.stanford.edu/files/new_eng_library_brochure.pdf
http://lib.stanford.edu/engineering-library/2010-new-engineering-library-odyssey
http://cbs5.com/video/?id=65452@kpix.dayport.com