カレントアウェアネス-E
No.168 2010.03.24
E1034
米国メリーランド大学図書館長による講演
2010年3月9日,米国メリーランド大学図書館長パトリシア・スティール(Patricia A. Steele)氏による講演会「これからの大学図書館:グーグル化する世界と将来展望」が,国立国会図書館で行われた。同館の東京本館と関西館(中継)の2会場合わせて139名が参加した。スティール氏は,2005年8月にインディアナ大学図書館長に就任し,同大学を含むコンソーシアム“Committee on Institutional Cooperation(CIC)”とGoogleとの共同で行われる書籍デジタル化事業の立ち上げに尽力した。2009年9月にはメリーランド大学図書館長に就任し,Googleのプロジェクトへの参画の交渉を進めている。
講演は,メリーランド大学図書館が現在取り組んでいる,「プランゲ文庫」のデジタル化の紹介から始められた。プランゲ文庫は,1945年から1949年までに日本で刊行された出版物の最も網羅的なコレクションである。スティール氏は,どの図書館も直面している,経済不況の中で利用者のニーズにいかに応えていくか,という問題を挙げ,図書館としての戦略や蔵書のコンセプトの必要性を指摘した。Googleなどの検索エンジンを通して基本的で中核的な資料にユビキタスにアクセスできる世界で,図書館が特色を示すことを可能にするものとして,特別コレクションのデジタル化があり,メリーランド大学図書館ではプランゲ文庫がそれに当たるという。
スティール氏がインディアナ大学図書館長在任中に実施した大量デジタル化プロジェクトを通して,自分たちでプロジェクトを維持するには予算上の限界があることがわかったという経験談も語られた。デジタル化は専門機関に任せるべきであり,そのような専門機関とのパートナーシップが重要であると指摘した。一般的な資料のデジタル化をパートナー機関に任せられれば,図書館は得意とする特別コレクションのデジタル化に集中することができるという。また,最近の学生らがビデオゲームを通して多くの経験を得ているため,大教室での講義よりもスタジオベースの問題解決型の学習を好むとの調査結果が出されており,彼らのニーズに応えることも必要になると指摘した。「全ての書籍を全ての言語で,包括的で,検索可能な,ヴァーチャルなカード目録を作成する。それによってユーザは新しい図書を,出版社は新しい読者を発見することができる」という目標を掲げているGoogleは,一般的な資料のデジタル化を任せられる良きパートナーであり,かつ利用者のニーズに応えるための戦略的回答となる,との評価が与えられた。図書館がGoogleと同様のプロジェクトを行うことは予算等の制約により困難なため,Googleのプロジェクトの一部になるのがよいと述べられた。
スティール氏は,パートナーシップの例として,インディアナ大学が参加していたCICとGoogleとの連携や,米国の大学による共同デジタルリポジトリ“HathiTrust”を挙げ,印刷媒体では可能となっている,将来にわたってのアクセスの保証をデジタル媒体でも可能にすることが図書館に期待されていることを指摘した。最後に,デジタル化の進展によって,研究活動の形態は変化し,想像もつかない新しい世界が展開されるという展望が語られ,講演は終了した。
講演後に行われた質疑応答では,スティール氏がGoogleブックス訴訟の和解案(CA1702,E857参照)について述べた。そのほか,参加者から提示された,プランゲ文庫や,Googleブックスと著作権,研究者のデジタルデバイドに対する図書館員の役割,Googleブックスの市場独占の問題,Googleブックスの米国以外での利用についての質問に対して自身の見解を述べた。
Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/library/news/1188698_1484.html
CA1702
E857
E933