E1020 – 分野やキャリアによる学術コミュニケーション手法の違い

カレントアウェアネス-E

No.166 2010.02.17

 

 E1020

分野やキャリアによる学術コミュニケーション手法の違い

 

 米国カリフォルニア大学バークレー校の高等教育研究センターは,2010年1月に,学術コミュニケーションの将来についての調査“Assessing the Future Landscape of Scholarly Communication”の最終報告書を公表した。考古学,宇宙物理学,生物学,経済学,歴史学,音楽,政治科学の7分野について,45機関の研究者160人にインタビュー調査をした結果に基づくもので,研究者の学術コミュニケーションの手法等を,キャリア形成も絡めて分析している。報告書の内容は多岐にわたるが,その一部を紹介する。

 研究成果等の発表形態については,学問分野ごとの違いが見られるとしている。具体的には,分野ごとの特徴として,次のような例が示されている。

  • 物理学では,学術雑誌と並んで分野固有のリポジトリが重要な発表手段となっている。
  • 経済学ではワーキングペーパーリポジトリや個人のウェブサイトも使用されているが,最終的な成果の発表形態としては学術雑誌が中心である。
  • 単行書を用いた研究の多い人文科学でも,短報や書評等の目的で学術雑誌が用いられている。
  • 音楽研究では単行書,評論,百科事典執筆など多様な発表形態がある。
  • 生物学では,競争が激しく研究成果が商業的利益にもつながるため,学術雑誌が支配的であり,公表前の情報共有のためのプラットフォームは存在しない。

 研究でのソーシャルメディアの活用については,携帯端末やソーシャルネットワークに馴染んだ「2000年世代」 (millennials)が学術世界の様相を変えるという考えに対して,否定的な見解が示されている。まず,調査によれば,情報技術に詳しいとされる大学院生・博士研究員・助教などの若い研究者も,そのキャリア形成のためには,指導者達の行動,規範,勧めを受け入れるということが一般的である。また,ピアレビューの重要性などを鑑みると,ウェブ2.0のプラットフォームによる研究成果の早期公開やデータ共有はまだ進まないであろうとしている。さらに,情報技術の活用は,終身在職権や昇進といった厳しい現実とは分けて考えなければならないと指摘し,概して若手は保守的で,地位を確立した研究者の方が発表形態については自由であることを指摘している。

 学術コミュニケーションの今後の課題に関しては,分野横断的に統一的な意見があったわけではないとしつつ,今後の取組みが必要な点として,新たな昇進考査の方法,ピアレビュー制度の再検討,高品質で手ごろな価格の雑誌・単行書の出版プラットフォーム,多様なメディアを掲載できる新しい出版モデル,新たな研究手法への支援,の5点があげられている。

Ref:
http://escholarship.org/uc/cshe_fsc
http://cshe.berkeley.edu/research/scholarlycommunication/index.htm