カレントアウェアネス-E
No.164 2010.01.20
E1009
JISC,リポジトリ等開発支援プログラムの最終評価報告書を発表
英国情報システム合同委員会(JISC)が2006年4月から2009年3月にかけて実施してきた“Repositories and Preservation Programme”(RPP)の最終評価報告書が,2009年12月にウェブ公開された。RPPとは,デジタルリポジトリとそれに関連する活動の開発を支援する多様な取組みに,総額1,400万ポンド(約20億円)を援助するプログラムで,RPPのウェブサイトによると,合わせて91のプロジェクトが助成を受けている。
本報告書の目的は,多様なソースから収集したデータを取りまとめ,RPPの最終評価を行うことである。RPPでは,実現を目指す21の利益(benefit)を定めており,最終評価では,助成したプロジェクトの成果を例示しながら,RPPの運用によってこれらの利益が達成されたか,あるいは達成されうるかどうかを確認することを目指した。なお報告書によると,評価を実施する中で,基準となるデータの欠如,「利益」の意味のあいまいさ,利益間の重複,データの入手可能性における限界といった制約が生じたため,評価結果は,RPPがJISCコミュニティにもたらす効果を実際よりも少なく見積もっている可能性があるという。
報告書は,先述の21の利益のうち達成できたものを,「学習と教育のためのコンテンツ拡大」「リポジトリのコンテンツへのアクセス拡大」「機関のインフラの改善」「スキルと知識の向上」「リポジトリの影響力の拡大」「基準と相互運用性」「リポジトリ開発を支援するツールの提供」「共有インフラサービスの開発」「コンテンツの長期管理・長期保存」「将来に渡る
コンテンツの作成・利用能力の拡大とリポジトリネットワークの構築」というテーマに分けて整理し,解説している。利益達成に寄与したプロジェクトの例としては,「リポジトリ開発を支援するツールの提供」では“SWORD”(CA1690参照),「共有インフラサービスの開発」では“SHERPA/RoMEO”(CA1639参照),「コンテンツの長期管理・長期保存」では“LIFE2”(CA1696参照)などが挙げられている。
続いて報告書は,RPPの課題として,下記の4点を挙げている。
- リポジトリへのデポジット増加等のRPPの目標を完全に達成するためには,ステークホルダーの行動や文化を大幅に変革する必要があり,3年間のプログラム実施期間では不十分である。
- プログラムの焦点が,研究文献に関連する活動に偏っている。
- プログラムの途中で,Web2.0の登場と普及といった情報環境の大幅な変化に見舞われてしまった。
- プログラムの過程で生み出される知識の利用が,プログラム期間中に留まっている。プログラム期間を超えて,得られた知識を活用できる環境を整える必要がある。
報告書は,こうしたRPPの課題を認めつつも,このプログラムがJISCやJISCのコミュニティにもたらした成果を肯定的に評価しており,報告書の最後で,RPPが将来のJISCのプログラムの礎となること,これからも引き続きRPPが関係者に利益をもたらし続けることへの期待を表明している。
Ref:
http://www.jisc.ac.uk/whatwedo/programmes/reppres.aspx
http://ie-repository.jisc.ac.uk/435/
CA1639
CA1690
CA1696