カナダ最高裁が2021年7月30日に判決を下した、著作権使用料の支払いとフェア・ディーリングをめぐる訴訟について、当事者を含め各団体が声明を発表しています。
当該の訴訟は、カナダ・ヨーク大学と、カナダの著作権管理団体であるアクセス・コピーライト（Access Copyright）との間で争われました。カナダ最高裁がまとめた訴訟の概要（Case in Brief）によれば、経緯と判決は次のとおりです。
・1994年から2010年まで、ヨーク大学とアクセス・コピーライトはライセンス契約を結んでおり、著作権使用料の支払いと引き換えに、アクセス・コピーライトの著作権管理下にある著作物を、ヨーク大学の教員らがコピーすることを認めていた。
・2010年、ヨーク大学とアクセス・コピーライトは契約更新の交渉を行った。契約の有効期限が近づいてきたため、アクセス・コピーライトはカナダ著作権委員会に暫定的な著作権使用料の設定を求めた。暫定使用料は2011年1月に発効し、ヨーク大学は2011年7月まで使用料を支払っていたが、その後支払いを取りやめた。
・ヨーク大学は、暫定使用料には強制力がなく、カナダ著作権法の「フェア・ディーリング」の規定により、アクセス・コピーライトの著作権管理下にある著作物でも無料でコピーできると主張した。
・2013年、アクセス・コピーライトは暫定使用料の支払いを求める訴訟を提起し、ヨーク大学によるコピーはライセンスを得たものでなく、フェア・ディーリングの規定によっても保護されていないと主張した。
全員一致で下された最高裁の判決では、ヨーク大学がアクセス・コピーライトとの契約を結んでいない以上、暫定使用料の支払いは強制的なものではなく、ヨーク大学側に支払いの義務はないとしました。フェア・ディーリングの問題については、同じく両者の契約が結ばれていないため、本件において著作権侵害を主張できるのは著作権を所有する著者・出版社のみであるとし、適切な当事者を欠いていることからフェア・ディーリングかどうかについての判断は行われませんでした。
ヨーク大学は、2021年7月30日付けで声明を発表し、最高裁が暫定使用料を強制的なものではなく、また、教育機関側がアクセス・コピーライトでない別のソースからライセンスを取得できると認めたことを歓迎しています。また、フェア・ディーリングについても、判断は行われなかったものの、教育における利用者側の権利を実現する上で、フェア・ディーリングが依然として重要であることが判決で強調された、と述べています。
アクセス・コピーライトも同日付けで声明を発表しています。教育機関による無料コピーがもたらす著作者・出版社への経済的損害が法廷で証明されたと述べ、最高裁が本件においてフェア・ディーリングとの判断を下さなかったことを強調しています。
訴訟の当事者以外にも、Internet Archive（IA）やカナダ出版社協会（ACP）、カナダ研究図書館協会（CARL）、カナダ図書館協会連盟（CFLA）といった複数の関連団体が声明を発表しています。例えばIAは、判決において「芸術的及び知的作品へのパブリックアクセスと普及」が「著作権の主要目的」であるとされたことを称賛しています。
York University v. Canadian Copyright Licensing Agency (Access Copyright)（SUPREME COURT OF CANADA, 2021/7/30）
https://decisions.scc-csc.ca/scc-csc/scc-csc/en/item/18972/index.do
https://www.scc-csc.ca/case-dossier/cb/2021/39222-eng.aspx
※一つ目のリンクが判決文、二つ目のリンクが訴訟の概要（Case in Brief）です。
York University Statement on the recent Supreme Court of Canada decision in Access Copyright v. York University（York University , 2021/7/30）
https://news.yorku.ca/2021/07/30/york-university-statement-on-the-recent-supreme-court-of-canada-decision-in-access-copyright-v-york-university/
Supreme Court of Canada refuses to legitimize uncompensated copying by the education sector（Access Copyright, 2021/7/30）
https://www.accesscopyright.ca/media/announcements/supreme-court-of-canada-refuses-to-legitimize-uncompensated-copying-by-the-education-sector/
Supreme Court of Canada Reaffirms Public Access as a “Primary Goal of Copyright”（IA, 2021/8/3）
http://blog.archive.org/2021/08/03/supreme-court-of-canada-reaffirms-public-access-as-a-primary-goal-of-copyright/
Canadian publishers call for urgent reform of the Copyright Act（ACP, 2021/8/3）
https://publishers.ca/wp-content/uploads/2021/08/210803-York-AC-SCC-Decision-final.pdf
CARL Applauds Supreme Court’s Copyright Ruling on the Application of Tariffs and Fair Dealing（CARL, 2021/7/30）
https://www.carl-abrc.ca/news/reaction-supreme-court-decision-on-york-case/
Unanimous Supreme Court of Canada Decision is a Major Win for Education and Libraries in Canada: Confirms Tariffs Not Mandatory and Reiterates Users’ Rights and Fair Dealing Principles（CFLA, 2021/8/11）
http://cfla-fcab.ca/en/copyright/unanimous-supreme-court-of-canada-decision-is-a-major-win-for-education-and-libraries-in-canada-confirms-tariffs-not-mandatory-and-reiterates-users-rights-and-fair-dealing-principles/
関連：
外国著作権法 カナダ編（公益社団法人著作権情報センター）
https://www.cric.or.jp/db/world/canada.html
※公益社団法人著作権情報センター（CRIC）のウェブサイト上で公開されている、2016年8月1日現在のカナダ著作権法の翻訳です。
参考：
カナダ出版者協会（ACP）及びアクセス・コピーライト、新型コロナウイルスの感染拡大をうけ“Read Aloud Canadian Books Program”を開始：加盟出版社の本を用いた教員・図書館員によるオンラインでの読み聞かせにおける著作権使用料を免除
Posted 2020年4月9日
https://current.ndl.go.jp/node/40738
