2021年3月にオンラインで刊行された“Journal of the Association for Information Science and Technologys”72巻4号(April 2021)に、中国・北京大学医学図書館のYingshen Huang氏および英・シェフィールド大学Information SchoolのAndrew M. Cox氏とLaura Sbaffi氏による論文“Research data management policy and practice in Chinese university libraries”が掲載されています。
2018年4月に中国国務院が、同国の行政機関・研究機関・研究データセンターにおける研究データ管理(RDM)の責任や、各機関におけるポリシー策定・研究データサービス(RDS)の実施を明記したポリシー「科学数据管理办法」を発出したことを受け、北米・欧州・オーストラレーシア(オーストラリア・ニュージランド等)では、大学図書館がRDM支援において重要な役割を果たしていることから、中国の大学におけるRDMの現状、特に、大学図書館がこの政策の前進にどの程度関与しているかを調査した文献です。
調査は、双一流(Double First‐Class)大学137校と香港の11大学・マカオの3大学における研究データに係るポリシーやサービスのウェブサイトを通じた分析(2019年1月から4月)、122館の大学図書館員を対象としたアンケート調査(回答は42館;回答率34パーセント)(2019年6月から11月)、図書館長5人・管理職3人・RDS担当者2人を対象とした半構造化インタビュー(2019年9月から12月)という3つの手法を用いて行われました
調査結果として、中国において、(1)大学図書館のRDMへの関与は初期段階であり、大学図書館員は他の部門の後に続くことを待つ「様子見」の状況であること、(2)研究データ管理計画(DMP)への助言といった支援サービスよりも、データリポジトリの開発といった技術面のサービスが盛んに行われていること、(3)各機関での研究データポリシーの策定は低調であること、を指摘しています。
また、その原因として、(1)データ集約型の研究分野では既に国家レベルでのデータ管理基盤が存在すること、(2)大学図書館員の専門性の欠如や組織的な影響力の弱さがあること、(3)中国国内の事情としてのオープンという考えへの反響が比較的弱いこと、をあげています。
そして、大学図書館が中国の大学のRDMを促進するための効果的な方法として、RDMの重要な推進力として研究者のニーズがあることから、サービスの利用を高めるためには図書館がそれらのニーズを分析したうえで導入すること、研究者のRDMの概念への理解を徐々に醸成するために、技術的サービスだけでなく助言サービスも増やすことが述べられています。
Yingshen Huang.;Andrew M. Cox.;Laura Sbaffi. Research data management policy and practice in Chinese university libraries. Journal of the Association for Information Science and Technologys. 2021, 72(4), p. 493-506.
https://doi.org/10.1002/asi.24413
関連:
北京便り【18-010】国務院「科学データ管理弁法」を交付(科学技術振興機構 Science Portal China,2018/4/13)
https://spc.jst.go.jp/experiences/beijing/bj18_010.html
国务院办公厅关于印发科学数据管理办法的通知(中国国務院,2018/4/2)
http://www.gov.cn/zhengce/content/2018-04/02/content_5279272.htm
参考:
研究データにDOIを付与するDataCiteに英国・中国の5機関が参加
Posted 2012年11月2日
https://current.ndl.go.jp/node/22226
中国、学術機関リポジトリグループCHAIR設立
Posted 2016年10月20日
https://current.ndl.go.jp/node/32768
CA1909 – オープンアクセスに関する中国の取組と科学技術雑誌の実態 / 李 穎, 田 瑞強
カレントアウェアネス No.334 2017年12月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1909