英・リバプール大学図書館と英・リバプール大学出版局による単行書のオープンアクセス出版プロジェクト(文献紹介)

2021年1月20日付で、英国逐次刊行物グループ(UKSG)が刊行するInsights誌に、英・リバプール大学図書館の職員と英・リバプール大学出版局(LUP)の職員による共著論文“Collaboration across campus: open monograph insights from a library and ‘old’ university press partnership”が公開されています。

同館とLUPが連携して実施した、単行本のオープンアクセス(OA)出版プロジェクトについてまとめられています。同プロジェクトは、2つの単行本をOA出版し、その知見や経験を同館とLUPで共有することを通して、同大学の研究者への支援を行うことを目的として実施されました。

プロジェクトに関わったのは、単行書の出版経験をほとんど持たない著者でした。論文では、今回のプロジェクトを通して、OA出版のオプションの有無ではなく出版社の評判が重要な判断材料となっている、出版に関するコストをあまり知らない、図書館よりも同僚の研究者に相談する等、人文・社会科学の研究者のOAや出版に関する知識・経験を知る機会を得られたと述べています。また、支払と納入は同一会計年度とするという同大学の財務上の規則が、出版までに複数年を要する単行書にはなじまず、書籍の出版方法に影響を及ぼす可能性があると指摘されています。その他、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのCC BYでの出版を基本とするものの、CC BY-NDが適切な可能性もあり、著者の希望に応じて変更する必要があること等がまとめられています。

結論の箇所では、LUPにとっては、出版に関するコストやプロセスを可能な限り公開することの重要性を知る機会となり、同館にとっては、単行書の出版プロセスやコストに関する理解を深め、特に若手の研究者をはじめとした論文著者により良い案内、支援が行えるようになったことを挙げ、図書館と出版者の連携は両者にとって利益があると述べています。

Barake, Sarah Roughley.; Welsby, Alison. “Collaboration Across Campus: Open Monograph Insights from a Library and ‘old’ University Press Partnership”. Insights , 2021, 34 : 2.
http://doi.org/10.1629/uksg.533

参考:
英UKRI、新たなオープンアクセス方針の草案を公開 オープンアクセス化の対象をモノグラフ等の図書に拡大
Posted 2020年2月17日
https://current.ndl.go.jp/node/40257

OAPEN、単行書のオープンアクセス出版に関する理解を深めるためのツールキット“OAPEN Open Access Books Toolkit”を公開
Posted 2020年10月1日
https://current.ndl.go.jp/node/42145

人文・社会科学分野のオープンアクセス(OA)の単行書の出版を促すイニシアチブ“Toward an Open Monograph Ecosystem(TOME)”のウェブサイトが公開
Posted 2019年12月5日
https://current.ndl.go.jp/node/39674

Ithaka S+R、大学出版局において単行書出版にかかるコストを分析したレポートを公開
Posted 2016年2月15日
https://current.ndl.go.jp/node/30737

※本文の一部を修正しました。(2021/1/25)