論文における「引用のハッキング」のサイン(記事紹介)

2020年8月14日付けのNature誌オンライン版で、”Signs of ‘citation hacking’ flagged in scientific papers”と題された記事が公開されました。記事では、研究者間での事前の交渉、あるいは査読において追加で論文を引用することを要求することで、引用を稼ぐ行為を「引用のハッキング(”citation hacking”)」としており、米国・オクラホマ医学研究財団(Oklahoma Medical Research Foundation)のJonathan Wren氏とConstantin Georgescu氏の取り組みを中心として、引用のハッキングの抽出について述べられています。

引用のハッキングは問題となっており、約20%の研究者が査読者から不要な参考文献を追加するように要求された経験があるとしています。また、2019年にエルゼビアは、エルゼビアが出版している学術雑誌の査読記録の検査に続いて、被引用数を稼ぐために故意に査読プロセスを操作した疑いのある研究者を調査していると述べています。引用ハッキングの疑いによって、2020年2月には米国の生物学者が複数の学術雑誌の職を解かれています。

Wren氏とGeorgescu氏は、PubMedで公開されている論文を使用して20,000人の著者の引用パターンの分析を行い、8月13日に分析の結果をbioRxivに投稿しました。プレプリントでは、約80人の研究者に参考文献リストの操作の疑いがあるとしています。また、16%の著者が、参考文献リストの操作に関与している可能性があるとしています。

Wren氏とGeorgescu氏は、引用のハッキングのインジケータとして、他の研究者の論文でその研究者の論文がまとまって引用がなされていること、その研究者が特定の学術雑誌に偏って引用を得ていることを挙げています。また、これらのインジケータと相関する主要な指標が、研究者が他の研究者の論文から得た引用の分布における偏りまたは不平等に関する指標であることを発見しました。例えば、一部の研究者がわずか数件の論文で異常に多くの被引用数を得ていることが観察されたとしています。

分析はあくまでも異常な引用のパターンを検出するだけで、その研究者が引用のハッキングを行ったか判断することはできないとしています。Wren氏は、偏った引用パターンをさらなる調査の必要性を判断するためのマーカとして見なしています。

引用のハッキングを防ぐために、Wren氏は、編集者や査読者は、査読プロセスで追加された参考文献のリストのデータベースを開発することが望ましいとしています。また、オランダ・ライデン大学のLudo Waltman氏とカナダ・モントリオール大学のVincent Lariviere氏は、査読レポートのさらなる透明化がこの問題を解決する可能性があることを指摘しています。

最後にWaltman氏は、この問題の背景には、単純な被引用数によって研究者が評価されていることがあると述べており、この習慣を変える必要があるとしています。

Signs of ‘citation hacking’ flagged in scientific papers(Nature, 2020/8/14)
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02378-2

Jonathan D. Wren, Constantin Georgescu. Detecting potential reference list manipulation within a citation network.
https://doi.org/10.1101/2020.08.12.248369