学術図書館のラーニングコモンズは学生のニーズへどのように応えているか(文献紹介)

2020年6月15日付で刊行された、カナダ・アルバータ大学のラーニングサービス部門が出版するエビデンスに基づいた図書館及び情報実践を扱った季刊誌“Evidence Based Library and Information Practice”の第15巻第2号に、米・ネブラスカ大学リンカーン校のErica DeFrain准教授らの研究に基づく論文“Interiors, Affect, and Use: How Does an Academic Library’s Learning Commons Support Students’ Needs?”が掲載されています。

DeFrain准教授らは、学術図書館のラーニングコモンズを利用する学生の学習ニーズ・満足度、好む傾向等を明らかにすること、特にラーニングコモンズによる共同作業を促進するような環境作りが、集中した研究への取組等の支援という学術機関の目的に合致しているかどうかを明らかにするための研究を実施しました。研究は質的量的アプローチを組み合わせた混合研究法によって実施され、9,249人・59時間分の行動観察記録と302人の学生に対するアンケート、10人の学生への3回の半構造化フォーカスグループインタビューが行われています。

研究の結果として次のようなことが報告されています。

・行動観察とアンケートの結果によれば、学生はラーニングコモンズについて概ね満足しており、与えられた課題の完了を支援する環境であるととらえている
・ラーニングコモンズの75%の空間は共同作業を意図して設計されているが、アンケート回答者の50%が空間内で実施する主な作業として1人で行う作業を挙げ、行動観察でも76%が1人で作業を実施しているなど、設計意図と学生の実際の使用との間に不一致が見られた
・フォーカスグループインタビューにおけるディスカッションでは、ラーニングコモンズが活気や共同作業を促進するような環境作りを実現している点が高評価であった一方、集中して研究を行うためにはラーニングコモンズではなく、より静かな別の空間に「退避」しなければならない、という意見が挙げられた

DeFrain, E.; Hong, M. Interiors, Affect, and Use: How Does an Academic Library’s Learning Commons Support Students’ Needs?. Evidence Based Library and Information Practice. 2020, 15(2), p. 42-68.
https://doi.org/10.18438/eblip29677

参考:
CA1804 – 研究文献レビュー:学びを誘発するラーニング・コモンズ / 米澤誠
カレントアウェアネス No.317 2013年9月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1804

E1713 – 『ラーニング・コモンズの在り方に関する提言』
カレントアウェアネス-E No.289 2015.10.01
http://current.ndl.go.jp/e1713