2019年12月20日付のNature誌のNewsにおいて、“Rumours fly about changes to US government open-access policy”と題した記事が公開されています。
同記事は、米国政府が政府助成研究の12か月以内の公開を定めた現行の方針について、全ての研究を即時オープンアクセス(OA)化する内容に改訂することを検討しているという風説の出版関係者等への影響を紹介したものです。出所は不明ながら、広範囲で議論されている風説によると、トランプ政権は出版慣行の変更を要求する大統領令の草案を作成しており、その内容は政府助成研究を自由に利用可能なライセンス条件により即時OA化することを義務付けるなど、欧州で始まったPlan Sに倣ったものである、とされています。出版関係者らはこの風説に対して様々な反応を示しています。
2019年12月18日に、米国出版協会(AAP)と国際STM出版社協会はそれぞれ、査読プロセスを妨害し、革新を妨げ、出版業界に混乱をもたらすものである、として政府助成研究の即時OA化に関するいかなる方針にも反対する旨の書簡を米国政府に対して提出しています。AAPの書簡には米国化学会(ACS)・Elsevier社・Wiley社など125を超える出版社等が署名しています。一方、Springer Nature社、Science誌などを刊行する米国科学振興協会(AAAS)はこの風説に関するコメントを拒否し立場を明らかにしていません。
研究者の間では、オバマ政権の下で導入された12か月以内のOA化は十分ではないという立場をとる支持派と、即時OAが実現すると学術出版事業の持続可能性が失われるという反対派で論争が発生していることが紹介されています。
米・SPARCは、2019年12月19日付で、米国内の210以上の大学図書館・研究図書館を代表して、現行の方針を改訂し不要な12か月のエンバーゴを撤廃することに強い支持を表した書簡をトランプ大統領宛に提出しています。
なお、米国大統領府科学技術政策局(OSTP)の広報担当官であるKristina Baum氏は、政府が方針の変更を検討しているかどうかに関して、コメントすることを拒否しています。
Rumours fly about changes to US government open-access policy(nature.com,2019/12/20)
https://doi.org/10.1038/d41586-019-03926-1
COALITION OF 135+ SCIENTIFIC RESEARCH AND PUBLISHING ORGANIZATIONS SENDS LETTER TO ADMINISTRATION(AAP,2019/12/18)
https://newsroom.publishers.org/researchers-and-publishers-oppose-immediate-free-distribution-of-peer-reviewed-journal-articles/
STM writes to the US Office of Science and Technology Policy [PDF:2ページ](国際STM出版社協会,2019/12/18)
https://www.stm-assoc.org/2019_12_18_STM_letter_to_Dr_Droegemeier.pdf
SPARC Letter to the White House Regarding Rumored Open Access Policy(SPARC,2019/12/19)
https://sparcopen.org/news/2019/sparc-letter-to-the-white-house-regarding-rumored-open-access-policy/
参考:
米国政府、公的助成研究成果のパブリックアクセス拡大に向けた計画案の策定を政府機関に指示
Posted 2013年2月25日
https://current.ndl.go.jp/node/22967
米国で新たなパブリックアクセス方針成立 研究に費やされる税金のうち半額以上分がパブリックアクセスの対象に
Posted 2014年1月21日
https://current.ndl.go.jp/node/25291
米SPARCとジョンズ・ホプキンス大学図書館、連邦政府機関のパブリックアクセスプランを追跡・比較・理解するためのウェブサイトを公開
Posted 2016年4月19日
https://current.ndl.go.jp/node/31382
米OSTP、OA指令の対象となる22の連邦機関すべてがパブリックアクセス方針を策定・公開したことを報告
Posted 2017年1月17日
https://current.ndl.go.jp/node/33271