『カレントアウェアネス』300号への道程 / 北克一

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日

 

『カレントアウェアネス』300号への道程

 

 本記事を執筆するにあたって、机上に開いたファイルに少しセピア色を帯びた『カレントアウェアネス』No.272(2002.6.20)がある。冒頭の巻頭言に次の記事が掲載されている。初代図書館協力課長として関西館事業部に着任された児玉史子氏の執筆である。少し長文になるが、当時の息吹を伝える内容であり、引用したい。

本年4月、国際子ども図書館の全面開館、関西館の開庁のため、当館では大幅な組織改編を行いました。それに伴い業務の再編を行い、本誌の編集業務は新たに設置した関西館事業部図書館協力課が担当することになりました。ここに新編集体制による『カレントアウェアネス』272号をお届けします。

 これより解説機能に重点をおいた冊子体(季刊)とメールマガジンである『カレントアウェアネス-E』の2形態での発行は今に続いている。私自身の『カレントアウェアネス』への編集企画員としてのかかわりもこのときからである。

 ちなみに発足間もない関西館事業部図書館協力課(現:関西館図書館協力課)の2大特命事項(?)は、総合目録ネットワーク(通称「ゆにかねっと」)事業の推進と『カレントアウェアネス』を核とした図書館研究関係事業の円滑な継続・発展であった、と仄聞した記憶がある。

 新生『カレントアウェアネス』は、その早い時期から、一般記事、小特集、動向レビュー、研究文献レビューの区分で構成され、これは現在も継承されている。

 『カレントアウェアネス-E』は、その後『カレントアウェアネス・ポータル』(Current Awareness Portal:図書館に関する情報ポータル)(1)というポータル・サイトへと発展的に展開し、現在では、各記事への年間トータル・アクセス件数がページビュー・カウントで約210万件/年間を超える、日本語の図書館情報学関係の情報提供サイトとしては日本有数のサービスに成長している。提供メニューは、「カレントアウェアネス-R」(CA-R:図書館に関するニュースブログ)、「カレントアウェアネス-E」(CA-E:図書館及び図書館情報学に関する最新記事のメールマガジンのウェブ版)、「カレントアウェアネス」(CA:「カレントアウェアネス」冊子体版のウェブ版)、「図書館調査研究レポート」(図書館や図書館運営に関してNDLが実施した調査研究成果レポートのウェブ版)、「図書館研究シリーズ」(NDLが実施した図書館に関するシンポジウム等の内容や研究成果をまとめた報告書のウェブ版)、「(図書館情報学関係)雑誌新刊目次」がある。

 一方、この足掛け7年間の間に図書館を取り巻く社会情勢や情報環境は大きく変化し、携帯電話やスマート端末を始めとするモバイル・コンピューティングの普及、インターネットのコモディティ化と広帯域化、ネットワーク情報資源の爆発的増大、SNS(Social Networking Service)やCGM(Consumer Generated Media)のネット社会での地盤確保、Ajax(Asynchronous JavaScript + XML)に代表されるWeb 2.0の潮流、ビジネス社会でのHaaS(Hardware as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)の定着と進行など激しい変化が続いている。足元の『カレントアウェアネス・ポータル』も、そのような潮流のひとつであるオープンソース・ソフトウェア・システム(OSS)で構築されている。また、「カレントアウェアネス-R」はブログ機能を導入し、RSS配信にも対応している。近い将来には、クラウド・コンピューティング体制への移行も個人的には夢想している。

 一方、社会情勢の変化を受けて、NPM(New Public Management)の思考や行政手法が、図書館の機能と役割の見直しを迫っている。これらの急速な変化は進行中であり、今後のさらなる加速を感じさせられる。

 しかし、激変する情報環境、知識情報社会の進展の中にあって、図書館という存在の根源的意味はなにか。

 その公共性の意味を問う時に、不安定な時代にあってこそ、世界の他の図書館や図書館コンソーシアムは何を考えているのか、どのような実証実験プロジェクトが進行しているのか、図書館界の新しい標準化の志向動向は如何などなど、関心/心配事の種は尽きない。海図のない世界への旅立ちは、危機と機会の両面を持つヤヌスである。隠者を決め込んでも、果敢/無謀な挑戦を行っても、いずれにせよ時代は進む。本質的な図書館の役割と存在について、時には動揺し、時には高揚した頭/胸で思い悩む多くの図書館関係者にとって、『カレントアウェアネス』一族は、小誌『カレントアウェアネス』を中心として、小規模ながらあたかも羅針盤のような役割を一定限は果たしてきたといえるのではあるまいか。

 また、新生『カレントアウェアネス』以降に掲載されている「文献レビュー」は、取り上げられた各主題を新しく研究される後学の方々にとって、対象分野の近年動向の予備知識や必読文献への手がかりを提供している。

 今回の『カレントアウェアネス』300号を一道程として、ますますの『カレントアウェアネス』一族の豊かな情報発信を期待したい。

 なお、日々の膨大な情報の中から適切な記事候補を整理し、時の話題を取り上げ、原稿依頼や編集等の優れた裏方の任に当たってこられた歴代の関西館(事業部)図書館協力課、取り分け調査情報係の方々への感謝を併せてこの機会をお借りして申し上げておきたい。個別のお名前は省かせていただくが、彼/彼女らの営為なくしては、現在の『カレントアウェアネス』一族はなかったであろう。

 最後に個人的な想い出として、『カレントアウェアネス』の全記事中で、「図書館ねこデューイ」(E574参照)が最も印象に残ることを告白しておきたい。後に刊行された単行書(E881参照)もお勧めである。

大阪市立大学:北 克一(きた かついち)

(1) 国立国会図書館. カレントアウェアネス・ポータル. http://current.ndl.go.jp, (参照 2009-02-27).

 


北克一. 『カレントアウェアネス』300号への道程. カレントアウェアネス. 2009, (300), p.8-9.
http://current.ndl.go.jp/ca_no300_kita