CA889 – 電子雑誌:過去・現在・未来 / 小林一春

カレントアウェアネス
No.167 1993.07.20


CA889

電子雑誌:過去・現在・未来

最初の電子雑誌の実験が始まってから10年以上になるが,この間の技術進歩の割に商業電子雑誌の発展は遅いようである。QUARTET計画関係者の一人であるマクナイト(Cliff McKnight)氏が,これまでの電子雑誌関係のプロジェクトのいくつかを概観し,将来に向けての問題点を指摘している。

BLEND計画:実験的な電子雑誌Computer Human Factorsを創刊。原稿の提出から読後の意見交換に至る全ての通信が中央のコンピュータを介して行われ,参加者はネットワークで結ばれた端末からシステムにアクセスする。読者間で,記事にコメントを付して交換できるという利点がある一方,通信速度や画像情報の点などで限界があった。

QUARTET計画:プロジェクトの一環として,世界初のハイパーテキスト型電子雑誌Hyper BITを試験的に創刊。いつでも個人のデスクトップで見られること,本文もサーチ可能で,関連記事を同一画面内で相互参照できることなどの長所があるが,画像情報の解像度が紙に印刷されたものにはるかに劣るのは否めない。

ADONIS:情報技術を利用して利用者に安価に文書配布することを主眼として,冊子形態の雑誌の内容を画像情報としてCD-ROMに収めて刊行している商業サービス(CA694参照)。従って,本来電子雑誌とは呼べないものだが,将来個々の利用者にCD-ROM形態で配布するようになる可能性もあるので,ここに含めた。高解像度画面を使用しているが充分とは言えず,書誌事項は検索できても本文はできないという難点がある。

LISTSERV:一種のソフトウェアの名前で,これを載せたシステムがいくつかあり,それぞれ電子雑誌を刊行している。中央コンピュータが予約者リストを保持し,新しい号が出るたびにその目次と抄録を送付する。予約者がそれを見て特定記事を要求すると,自動的に送られて来る。やりとりはいずれも電子メールの形である。雑誌全体でなく希望記事のみの配布なので,ネットワークの有効利用と言える。

CORE計画:アメリカ化学会,CAS(Chemical Abstracts Service)など5機関の共同実験プロジェクトで,化学分野に限定したもの。アメリカ化学会が20誌を提供している。記事はテキストと画像の両方の形で保持されており,インタフェースもいろいろと研究されている。

TULIP計画:エルゼビア社が42誌を提供し,米国の15大学が参加する実験プロジェクト。経済的,法的問題も検討される。ADONISと同様,画像情報として入力されるので,文書レベルのサーチに限界がある。

OJCCT:AAAS(American Association for the Advancement of Science)とOCLCとが創刊した実用の電子雑誌The Online Journal of Current Clinical Trialsのこと。電子雑誌の地位の低さを反映してか,投稿論文数が少なく,期待されたほど発展していない。

IOPP/LUT計画:英国のInstitute of Physics Publishingとラフバラ工科大学とによる実験プロジェクトで,様々な経済的,技術的問題を調査する。参加図書館はペーパー版,電子版ともに無料で雑誌の提供を受ける。

電子雑誌の未来にとって技術的課題は,コストの問題以外にはあまりない。むしろネットワークの有効利用,送付先(エンドユーザーか図書館か)など,技術をいかに利用するかが問題である。著作権や料金体系も問題となる。これらを解決した上で,最後には質量ともにペーパー版に優るとも劣らない情報内容を提供できるかどうかに成否がかかっていると言えよう。

小林一春(こばやしかずはる)

Ref: McKnight, Cliff. Electronic journals-past, present…and future? Aslib Proc 45 (1) 7-10, 1993