CA694 – ADONIS1991年に商業サービス開始 / 山口和之

カレントアウェアネス
No.134 1990.10.20


CA694

ADONIS 1991年に商業サービス開始

ADONISドキュメント・デリバリー・システム(雑誌論文をCD-ROMに蓄積しておき,求めに応じて全文をレーザープリンタに打ち出し,提供するという実験的な文献提供サービス)は,2年間の試験サービス期間を経て,1991年より商業サービスを開始することになった。試験サービスの結果について,大手出版社で構成されるコンソーシアムは次のように報告している。

2年間の試験期間に生物医学分野の219誌から約199,440件の論文や抄録などが84枚のCD-ROMに収録され,10カ国の13の参加機関(図書館などの文献提供機関)で5万件以上の打ち出しが行われた。印刷物からの複写と比較すると,品質および費用の点で有利であった。職員の作業時間は大幅に短縮され,検察ソフトウェアの改良の結果,いくつかの機関では50%もの経費が削減された。さらに,保管(84枚のCD-ROMの保管は1.1mの書架ですむのに対し,印刷物では40mが必要)および製本費用も削減された。反面,ADONISで使用された機器は一般事務用機器を利用していたため連続使用に十分耐えられず,特にレーザープリンタは使用の頻度の多い機関で問題を生じた。また,ADONISでは各記事の識別のために独自のADONIS番号(ISSN番号と出版年の下2桁および各年の一連番号と検査用数字から構成)を付与し,1万件以上の文献で試験を行った。その結果,より桁数の多いSAID番号(米国で作成された逐次刊行物収録論文の固有番号)よりADONIS番号のほうが検索に便利であったと結論している。抄録・索引作成機関ではオンライン検索と文献発注を結び付けるものとして,ADONIS番号の導入に興味を示している。

以上の試験サービスの結果をふまえて,ADONIS理事会は1991年刊行の雑誌から商業サービスを開始することを決定した。当初は欧米の40社以上の大手製薬会社の購読雑誌のリストに基づく400以上の雑誌でサービスが開始されるが,収録誌数はさらに増加していく見込みである。収録分野は生物学19%,化学11%,医学47%,薬学16%,物理学2%,獣医学1%,科学一般1%である。現在収録対象誌を発行している出版社とADONISへの収録について交渉を行っている。計画では,CD-ROM1枚当たり約1万2千−1万5千ページが収録され,当初7日−10日おき(印刷体発行後2週間以内)に送付される。年間にすると400誌以上の目次と30万件の記事(70万−百万ページに該当)が配布される。試験サービスでは特別仕様の機器も開発されたが,切迫した図書館予算での新たな経費負担を避けるため,現在図書館で使用されている標準的機器の採用が決定された。ADONISで必要な機器は,MS-DOS(OSと言われる,コンピュータを動かす基本ソフトの一種)が利用可能なパーソナル・コンピュータおよびハードディスク装置,CD-ROMドライブ装置,レーザープリンタである。高精度ディスプレイ装置およびジュークボックス装置(多数のCD-ROMを収容する,ジュークボックスのようなドライブ装置)も付加できる。ネットワーク上の利用や,MS-DOS以外のUNIXあるいはApple社のOSのサポートも予定されている。なお,ADONISのサービスおよびそのための検索ソフトウェアは場所を限定したライセンス契約のもとで利用される。

ADONISの参加図書館は適度な年間予約購読料のほかに著作権使用料を支払うことになっている。各出版社が独自に決定する著作権使用料には2段階あり,印刷体の雑誌を予約購入している図書館には低率の使用料,それ以外の図書館には高率の使用料が課される。記事の打ち出しあるいはネットワーク上の送信を自動的にADONIS番号で記録し,それに基づいた著作権使用料を出版社に代わってADONISが徴収することになっている。なお,単に画面上で見ることに対しては著作権使用料は課されない。ADONISは図書館と出版社の著作権論争に終止符を打つかのように見えるが,参加図書館における複写は著作権法ではなく,ADONISとのライセンス契約のもとで行われることになるだろう。

山口和之

Ref: Compier, Henk C. J. Document delivery the ADONIS way. NFAIS Newsletter 32 (7), 85-87, 1990.
ADONIS electronic journal delivery system starts in 1991. Information Media & Technology 23 (2), 52-54, 1990.