CA820 - 情報化社会における紙の未来 / 鈴木恭子

カレントアウェアネス
No.155 1992.07.20


CA820

情報化社会における紙の未来

情報化社会の中にあって,紙のはたす役割はどのように変わって来たであろうか。電子機器の発達の過程と紙との係わり合い,将来の展望について,2,3の文献をもとに紹介する。

ニューメディアが私達の前に登場し,職場にワープロ,パソコンといったOA機器が導入され始めたのは,70年代の終わりから80年代にかけてであった。当時は機器の導入によって繁雑な文書類を紙を介さずに管理できる“ペーパーレス時代”の到来が期待されていた。

予想通りOA機器の職場への進出はめざましかった。電子部品,特に半導体・集積回路部門の技術開発により,記憶容量は飛躍的に向上し,従来の大きなコンピュータに匹敵する性能を持つ安価で操作性のよいオフコンやパソコンが普及する結果となった。以前と比べ,日常利用しているTVやラジオでも,装置が小型化し,画像・音質共にきわめて精度の高いものが市場に出回っている。

さらに,コンピュータにおけるデータ管理上の安全性はどう改善されたか? データ管理対策についてはハッカーやコンピュータウイルスといった点を別にすれば,バックアップシステムなど,データの機密・消失の危険に対してかなり信頼性が増した。

それでは,紙の消費は減ってきたのであろうか。私達の回りでも紙は相変わらず健在で,紙ゴミは前より多くなった気さえする。

古くから紙は文化のバロメーターといわれ,文化や工業の発展とともに,消費は着実に伸び続けてきた。紙の使用の増加は木材資源の枯渇,森林環境の破壊につながる。製紙工業の生産工程では,従来の化学パルプより収量効率が良く,廃液の汚濁を最小限に防止出来る,機械パルプによる製造が主流となっている。機械パルプ法は増量剤や顔料の調合によって印刷に最適な紙質を保持し,原料の使用を少なくする事が可能なため,広く普及して来た。さらに,高速の抄紙機械は紙の品質を損なわず,より薄い紙を高速度で生産することにより,紙の原価を抑える効果があった。

このような状況のもとで,情報機器・印刷技術の発達と相まって,目的に応じた多種多様な紙の生産はむしろ増大している。種々の統計から見る限り,欧米諸国における紙の消費量は,80年代においても着実に増加している。

電子メディアは情報をリアルタイムで蓄積し,かつ通信網で広い範囲に伝えることが出来る点で優れたものであるが,一方で紙の利点もまたあなどり難い。紙から得る情報量は他のメディアと比較しても充分多く,どんな場所でも簡便に利用可能であり,特別な装置や検索手段を必要としない。情報のとらえかたにしても自分の理解にあわせ前に立ち戻る,あるいは先に進む,重要な部分は下線を引くなどの手段が取れるため,心理的に満足感が得られる。TVやラジオでは,スイッチを入れる,あるいはチャンネルを回すことで情報量が変わり,必要な情報を得られない事もある。メディアから得る情報は膨大で,めまぐるしく変化し,充分分析し理解すること無く記憶から消えてしまいがちである。文書の信用性について考えると,重要な文書にはやはり印刷体で確認し署名する事によって正式な文書として通用する例もあり,こうした行為は今後共継続していくと思われる。

紙の生産は将来環境問題を抜きにしては論じられなくなるであろう。生産プロセスをとっても,漂白剤である塩素の使用を避け,紙中のダイオキシンの含有率を減らす無公害プロセスの検討や,原料中の再生繊維の使用割合を増やす動きがある。日本やドイツでは古紙回収率が良く,最近かなりの増加をみている。再生紙利用の紙は仕上がりの光沢や白さは多少劣るが,それほど支障なく使え,資源の保全に役立っている。しかし一方では,印刷業界の事情から,雑誌やダイレクトメールなど広告関連分野では,印刷の美しさから高品質なパルプを使った特殊紙の需要があるなど,資源保護とは相反する現象も多い。

電子メディアは技術的な進歩を続け今後ますます発展するであろうが,決して印刷媒体に替わるものではなく,情報伝達をよりスムーズに進めるための補助手段であり,紙は将来的にも情報伝達の方法としてその地位を確保していくことであろう。

鈴木恭子(すずきゆきこ)

Ref: Paulapuro, Hannu. The future of paper in the information society. Electoronic Library 9 (1) 135-143, 1991
ペーパーレス時代の幻〈特集〉 科学朝日 9 (11) 104-114, 1989