CA700 – オンラインサービスは抄録誌・索引誌を図書館から駆逐しているか? / 森田倫子

カレントアウェアネス
No.135 1990.11.20


CA700

オンラインサービスは抄録誌・索引誌を
図書館から駆逐しているか?

米国航空宇宙局(NASA)は,抄録誌Scientific and Technical Aerospace Reports(STAR)の発行を,1989年12月号をもって突如中止した。STARデータベースは今後も維持するとのことであった。これに対し,米国専門図書館協会(SLA)はNASAに抗議するとともに,SLAが発行するニュース誌Specialistに「この問題に関心ある読者のために」NASAの問い合わせ先を掲載した。その後,経緯は今のところ不明だが,結局STAR誌は晴れて1990年8月から発行再開が決定した。

一方,ケンタッキー州立マレー大学ウォーターフィールド図書館のウォール(Wall)らは,図書館における抄録誌・索引誌の購入中止にオンラインサービスの存在が影響を与えているかを調査した(1990年)。これは学生数1万以下の中小大学図書館1167館を対象としたアンケート調査である。アンケートではまず,呈示された26の抄録誌・索引誌の各々について,所蔵の有無,購入を中止したか(もしくは中止を計画中か)等を答え,購入中止(計画中)のタイトルについては,中止する最大の理由を選ぶようになっている。

これによると,購入中止(計画中)の理由として第1位に「価格」があげられたものは26誌中9誌,「利用がない」が1位なのが14誌,「価格」と「利用がない」が同率で1位なのが1誌,「価格」「利用がない」「オンラインサービスが有効」が同率1位なのが2誌という結果であった。例えば,74%の館が所蔵しているChemical Abstracts誌は,うち55%の館が購入を中止(計画中を含む)しており,理由の内分けは「価格」約59%,「利用がない」約13%,「オンライン」約19%となっていた。America: History & Life誌(所蔵約62%,うち購入中止(計画中)約39%)は,DIALOGなどの主要なベンダーを通じてデータベースを利用できるにもかかわらず,購入中止の理由は「価格」と「利用がない」が約39%ずつ,「オンライン」は約19%であった。

購入中止には様々な要因があるにしろ,影響の大きいのはオンラインサービスよりはむしろ価格や利用度のようだと結論している。これは1981年にランカスター(Lancaster)らが米国の各種図書館に対して行った調査結果(購入中止の理由にオンラインサービスの影響以外をあげた館が約60%を占めた)と類似している。なおランカスターの調査では抄録誌・索引誌とオンラインサービスを併用している館が多いことも示されている。

以上を考え合わせると,図書館は未だオンラインサービスと並んで冊子体の抄録誌・索引誌が刊行されることを望んでおり,冊子体の購入を打ち切るのは予算面で苦しい場合なので,利用の少ない高価なものから対象としているといった状況が浮かんでくる。

ただし,ウォールらのアンケートでは抄録誌・索引誌からCD-ROMへ切り換えたという回答が20ほど出現したので,今後はCD-ROMの影響にも注目すべき,としている。

ところで,オンライン化した場合の問題の一つは検索費用を誰が負担するかであろう。ウォールらのアンケートはこれについても尋ねている。それによると,図書館側が全額負担していると回答したのは,オンライン検索実施館全体(586館)のうち約32%(181館)であったのに対し,抄録誌・索引誌の購入を中止してオンライン検索を実施した館(259館)では約66%(170館)であった。抄録誌・索引誌の購入を中止するとオンライン検索費を全額負担する傾向がうかがえる。それまで無料が当然だったものを有料化するのはフェアでない,ということらしい。

森田倫子(もりたのりこ)

Ref. Morton, S. Publications ceased by State Department and NASA.Specialist 13 (6) 1-3, 1990.
Wall, C., et al. Hard copy versus online services: Result of a survey. College & ResearchLibraries 51 (3) 267-276, 1990.
Lancaster, F. W. et al. The impact of online services on subscriptions to printed publications. Online Review 5 (4) 301-311, 1981.