カレントアウェアネス
No.124 1989.12.20
CA638
ソ連に図書館協会創設の動き
ソ連の図書館界に全国的な連合の気運が高まっている。ペレストロイカの社会的・文化的理念である民主化・グラスノスチがようやく図書館界にも波及し,不十分な人員政策,極めて低い賃金,経済的・技術的基盤の未発達,利用者の図書館離れ,図書館学理論の貧しさ,著しい中央集権・官僚主義等々,図書館の現状が抱える問題を克服するために全国の図書館員の力を結集し,図書館員の自覚と社会的地位を高める最も重要な手段のひとつとして,全ソ図書館協会創設の必要性が叫ばれ始めたのである。
すでに一昨年,チェルカッシで図書館の民主化に関し開催された全ソ図書館会議の総会は,職業的社会団体としての図書館協会設立に支持を表明し,これを受けてソビエト文化省が図書館協会の基本理念を提出,国立レーニン図書館が「ソビエト図書館協会規約案」を作成した。その全文が「ビブリオチェーカリ(図書館員)」誌1989年6月号に掲載されている。
この規約案は,「通則」,「任務と機能」,「会員」,「組織」,「財源」等について定めたものであり,それによると,「ソビエト図書館協会(協会)は,自由意志に基づく職業的社会組織である」。また,「協会員の資格を有するものは,地域,専門分野,館種,利用者の区分等に応じて,あるいは単独の国家レベルの大規模図書館の内部で,あるいはその他の基準によって組織された,自主的な,独立した図書館団体(あるいは協会の任務遂行に関係を有する図書館団体以外の団体)である」。目下,全ソ図書館会議事務局,レーニン図書館,ソビエト文化省等が中心となって,創設大会開催を目標に,広汎な世論の支持と各地域における図書館団体の設立を呼びかけているところである。
規約案からもわかるとおり,「協会」創設の前提であるのは,構成メンバーとして,より下位のレベル(各共和国,州,都市)における多様な形の図書館(員)団体が存在することである。ソ連では,昨年1月からIFLAに加盟しているエストニア図書館協会をはじめとして,沿バルトの三共和国で,すでに図書館協会が活動しており,5月には,レニングラード図書館協会が発足した。モスクワの図書館員,文化人および一般市民の間でも,同様の動きが出始めている。
しかし,そういった地域レベルの図書館団体は,今のところまだごく少数である。一方では,社会全体が,これまで中央からの行政的指令に盲従することに慣れ切ってしまっていたこともあり,拙速を恐れる警戒心や,下からのイニシアチブを発揮しにくい体質が依然として根強いように思われる。たとえば,ウズベク共和国では,ひと足先に独自の図書館協会設立の準備を実務上すすめていたにもかかわらず,全ソ的な図書館協会創設の話が具体化すると仕事を中断してしまった。独力でやるよりも,「協会」の成立を待って,その指導に従ったほうがいいということらしい。
「スターリン期とその後の停滞期の間に歪められ,政治的論理によってイデオロギーの道具とされてきた図書館」(レニングラード図書館協会発起人グループ)が本来の社会的使命を回復するために,「協会」にかけられる図書館界の期待は非常に大きい。しかし,「協会」の実現は,まず第一に,全国の図書館員たちがそれぞれの地域においてどれだけイニシアチブを発揮できるかにかかっている,と言えそうである。
岩澤 聡
Ref. Nauch.i tekhn.b-ki SSSR (4) 3-4, 1989.
Bibliotekar' (5) 4, 1989., (6) 4-10, 1989., (7) 14-16, 1989.
本号の校正中に,ソ連邦科学技術図書館協会が結成の運びにあることがわかった。昨年2月に設立の決定がなされ,モスクワのソ連邦国立公共科学技術図書館のイニシアチブで,同年12月にモスクワでの創立大会開催が予定されている。規約案も同時に公表された。
Ref. Nauch.i tekhn.b-ki SSSR (9) 54-57, 1989