CA2107 – 東京大学アジア研究図書館の台湾漢学リソースセンター(TRCCS):設立の経緯と活動内容 / 板橋暁子

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カレントアウェアネス
No.369 2026年9月20日

 

CA2107

 

東京大学アジア研究図書館の台湾漢学リソースセンター(TRCCS):設立の経緯と活動内容

東京大学アジア研究図書館:板橋暁子(いたはしあきこ)

 

1. TRCCSの概要

 台湾漢学リソースセンターとは、中国語(台湾華語)では「臺灣漢學資源中心」といい、英語ではTaiwan Resource Center for Chinese Studies、頭文字をとってTRCCSという(1)。中国語の「中心」は物理的な「中核となる設備、センター」を指す場合があるが、TRCCSの「中心」は物理的な設備そして空間も意味しつつ、総体としてはプロジェクトと称するのが妥当であると思われる。すなわち、台湾で培われてきた漢学(主に文学・史学・哲学分野の伝統的な中国学)と台湾学(前近代・近現代を含めた台湾に関する学術)を世界に広めるため、台湾の国家図書館が2012年に始動したプロジェクトである。概要としては、このプロジェクトの協定機関は、TRCCSのためのスペース(主に書架)を機関内部に設置し、国家図書館から図書の寄贈や電子リソースの提供を受けるとともに、学術イベントを合同で開催するというものである。

 2026年6月現在、TRCCS(後述のTADRCを含む)協定機関は世界全体で56にのぼる(2)。大学が多数を占めるが、なかには国立図書館や研究機関も含まれている。

 東京大学は、アジア地域では4番目、日本国内では初のTRCCS協定機関として、2014年12月10日付で国家図書館との間に協定を締結した。日本のTRCCS協定機関としてはほかに京都大学がある。また、TRCCSと同一ではないが、同じく国家図書館が主導してデジタル学術リソースを提供する「台湾学術デジタルリソースセンター」(臺灣學術數位資源中心 / Taiwan Academic Digital Resource Center:TADRC)協定が、2026年6月17日に筑波大学と国家図書館の間で締結された(3)。

 国家図書館が運営するTRCCSウェブサイト上に、協定機関側に求められる条件が掲載されているが(4)、その要点は次のとおりである。国家図書館と東京大学が締結したTRCCS協定上の条件も、概ねこれに準じている。

  • TRCCS業務全般を担当する人員を配置する。
  • TRCCS専用の閲覧スペースを提供し、かつ当該スペースにTRCCSの標識を設置する。
  • 毎年1回以上、台湾漢学リソースを普及させるための活動を実施する。
  • 協定機関ウェブサイト上にTRCCSの関連情報およびTRCCSウェブサイトへのリンクを掲載する。
  • 漢学研究に関連する出版物や灰色文献を提供するとともに、国家図書館が海外で実施する漢学研究関連学術活動・専門的活動や漢学研究書誌の収集を支援する。

 

2. 東京大学TRCCS設立の経緯

 東京大学にTRCCSが設立された契機は、2013年6月、国家図書館から東京大学附属図書館総務課宛に送られた、「東大の図書館にTRCCS(当時の略称はTCSRC)を設置する意向」についての問い合わせメールであった。この問い合わせを承けて、同年6~7月、当時の附属図書館館長である古田元夫氏から川島真氏(大学院総合文化研究科准教授(当時))に打診があり、川島氏が中心となって国家図書館と交渉する体制が構想されることになった。同年9月、TRCCS設立への対応は可能という方針が東京大学側でまとまり、川島氏が台湾に渡航して国家図書館側の担当者にヒアリングをおこなうなど、先方の構想を具体的に把握する段階に至った。2014年に入ると、2月に開催されたアジア研究図書館設立関連の会合にて、国家図書館が協定機関に対して希望する設備面の条件をアジア研究図書館が満たすことは可能という結論に至り、これ以降、東京大学と国家図書館との間でTRCCS設立に向けて具体的な話が進行することとなる。同年6月、国家図書館からは2014年中に設置開始の希望が寄せられたが、この時点ではアジア研究図書館は開設されていないため、TRCCSのためのスペースは暫定的に駒場図書館の一角に配置する方針を東京大学側で決定した。また、TRCCS協定成立に伴い東京大学側で必要となる選書体制として、川島氏と松田康博氏(東洋文化研究所教授)および若干名から構成される小委員会の設置が構想されるに至った。同委員会は、2026年現在、TRCCS選書委員会として活動を継続している。そして2014年12月10日、当時の国家図書館館長である曾淑賢氏が来日し、古田氏とともに覚書(MoU)に署名したことで、TRCCS協定が成立し、東京大学附属図書館にTRCCSが開設された。

 以上の流れからは、東京大学ではTRCCS開設に至るまで大きな障害はなかったようにみえるが、実際のところ2013年当時は、アジア研究図書館の設立計画が進行中であるとともに、アジア研究図書館が物理的に配置される予定の総合図書館にて改修工事も進行中であった。東京大学が国家図書館からTRCCS設立の打診を受けたのはその渦中の時期であったため、打診に応じて設立準備を進める過程において、学内での折衝が複雑化し、川島氏をはじめとする関係教職員が多大な努力を重ねた結果ようやく実現に至ったものである。一方、国家図書館からの打診の文言による限り、「数年後に東京大学でアジア研究図書館(Asian Research Library)という組織を新設すると聞いたので、そこにTRCCSを設置してほしい」という名指しの要望があったわけではなく、国家図書館側は当初、東京大学の包括的な図書館組織(メール原文では「The Library of the Tokyo University」)をTRCCS設置受入の主体として構想していたようである。また、国家図書館と実際に協定を結んだ東京大学側の組織も、その当時開設されていなかった東京大学アジア研究図書館ではなく、東京大学附属図書館(The University of Tokyo Library System)であり、そのまま現在に至っている。

 

3. TRCCS関連活動(1):国家図書館から提供されるリソース

 ほかの協定機関と同じように、東京大学におけるTRCCS関連の重要な活動として、まずは年1回の選書がある。順序としては、毎年5~6月ごろに国家図書館から各協定機関へ向けて、「受贈を希望する図書を指定し、期日までにリストを提出するように」との通知がある。協定機関側における選書の方式としては、①国家図書館から送付される候補リストの中から選ぶ、②一定の金額内において自由に希望を出す、の2種類があるが、アジア研究図書館は基本的に毎年②の方式で選書をおこなっている。具体的には、前述のTRCCS選書委員会における協議を経て図書リストを確定のうえ、国家図書館へオンラインで提出する。国家図書館はできるだけ各協定機関の希望に準じて図書一式を揃え、おおむね年末までに発送を完了する。寄贈書を受領した協定機関は、所定のスペースに配架をおこなう。東京大学の場合、アジア研究図書館の開架フロアすなわち総合図書館4階の一角にTRCCS専用の書架1台を設置しており、寄贈書は原則としてそこに配架される。毎年度の受贈の結果、当該書架に余剰スペースがなくなってからは、受け入れ時期が早い順に地下の自動書庫へ移動させている。アジア研究図書館の選書方針としては、基本的に、(1)台湾史、(2)中国前近代史、(3)中国近現代史、(4)中台横断、という4分野でバランスをとることに努めている。

 TRCCS寄贈資料の特色は、漢学・台湾学を問わず「台湾で刊行された学術文献」を一体性を保って配架できるという点であり、台湾学界の研究動向や学術出版の状況を知る上で有用な、一定の体系性をもっている。また、台湾人文学者の作品集や前近代・近現代台湾に関する大部の史料集など、日本国内で当館にしか所蔵がない資料も200点近くあり、今後も増える見込みであることから、国内の台湾研究の発展に寄与することが期待される。なお、学外者が来館の上でTRCCS資料を利用するには、東京大学総合図書館・アジア研究図書館所蔵の一般資料を利用するのと同様の手続きが必要になる(5)。図書館間貸出(ILL)による貸借・複写も可能である。

 国家図書館からTRCCS協定機関が提供を受けられる「漢学リソース」として、紙の図書のほかに電子リソース(主にデータベース)がある。TRCCS協定にもとづき東京大学が国家図書館から提供を受けているデータベースの一覧は、アジア研究図書館ウェブサイト内ページ「TRCCS(台湾漢学リソースセンター)」(6)にて確認できる(学外利用には制限あり)。

 

4. TRCCS関連活動(2):国家図書館と協定機関が共催するイベント

 TRCCSの協定機関同士は、現在までのところ、相互交流や相互連絡の機会がきわめて少ない。ゆえに、国家図書館運営のTRCCSウェブサイトに掲載される記事を除けば、国内外を問わず他の協定機関がTRCCS協定に基づきいかなる活動をおこなっているかを知る手段は乏しいため、本節では基本的に東京大学TRCCSの経験を述べる。

 東京大学はTRCCS設立以来、「台湾漢学講座」というシリーズ講座を、本郷もしくは駒場キャンパスにて、コロナ禍の時期を除きほぼ隔年で開催してきた。第1回から第4回までの開催時期とテーマは下記のとおりである。

  • 2015年11月27日 第1回「GISを用いた中国研究」(7)
  • 2017年10月13日 第2回「台湾史研究と公文書」(8)
  • 2019年7月1日 第3回「台湾の移行期正義と人権の実現」(9)
  • 2022年12月22日 第4回「『金雲翹伝』の世界への影響」(10)

 直近のTRCCSイベントとしては「日台における漢学・台湾研究の回顧と展望」シンポジウムがあり、これが第5回台湾漢学講座を兼ねる形になった。同シンポジウムは、東京大学総合図書館大会議室を会場として、2025年9月30日と10月1日の1日半にわたり開催された。プログラム詳細は当館ウェブサイト(11)に掲載されているが、1年以上の準備期間をかけて実現した、従来にない規模のイベントであった。国史館(12)館長である陳儀深氏による基調講演と5つのセッションから構成され、各セッションは東京大学TRCCS選書委員会の各メンバーが自身の専門分野に準じて報告者・コメンテーター・司会等を組織したものである。

 

5. むすび

 TRCCS協定機関は、①物理的な書架スペースの確保、②台湾刊行物のリサーチと選書、③学術イベントの開催準備と会場の提供、④これら①~③に伴う事務タスクの処理、等が継続的に求められるが、豊富な図書とデータベースから成る重要な学術リソースの提供を無償で受けることができ、また、学術イベント開催による人的交流も貴重であり、協定締結によりもたらされる恩恵は非常に大きいと言える。TRCCS関連活動の経費の大半は国家図書館側が負担するという構造があるため、協定機関側は基本的に受け身の活動(国家図書館から提案を受けて動く)になるが、一部寄贈書の配架先の変更など、協定機関側から交渉すれば柔軟な対応が期待できる面もある。他方、日本に置き換えてみると、たとえば“日本学の発信”のために図書館組織がこの規模の予算を確保しつづけることができるのか、そしてその活動は(時々の政治動向や世情に左右されない)自由で自律的な学術性を維持できるのか、自問すべき課題であるように思われる。

 

(1)臺灣漢學資源中心.
https://trccs.ncl.edu.tw/, (参照 2026-07-31).

(2)“個別簡介”. 臺灣漢學資源中心.
トップページのメニューの「中心簡介」にリンクあり。
https://trccs.ncl.edu.tw/, (参照 2026-07-31).

(3)“6/17台湾国家図書館と学術交流協定を締結しました”. 筑波大学附属図書館. 2026.
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/lib/ja/information/20260617, (参照 2026-07-31).

(4)“總簡介”. 臺灣漢學資源中心.
トップページのメニューの「中心簡介」にリンクあり。
https://trccs.ncl.edu.tw/, (参照 2026-07-31).

(5)“学外の方へ”. 東京大学附属図書館.
https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/general/user-guide/outside/gakugai, (参照 2026-07-31).

(6)“TRCCS(台湾漢学リソースセンター)”. 東京大学附属図書館アジア研究図書館.
https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/asia/trccs, (参照 2026-07-31).

(7)“【終了しました】TRCCS第1回台湾漢学講座のお知らせ”. 東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門.
https://u-parl.lib.u-tokyo.ac.jp/japanese/blog29, (参照 2026-07-31).

(8)“【報告】TRCCS第2回台湾漢学講座”. 東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門.
https://u-parl.lib.u-tokyo.ac.jp/japanese/report-20171013, (参照 2026-07-31).

(9)“【終了しました】第3回台湾漢学講座「台湾の移行期正義と人権の実現」”. 東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門.
https://u-parl.lib.u-tokyo.ac.jp/japanese/20190701, (参照 2026-07-31).

(10)“【終了しました】【12月22日】第4回 台湾漢学講座「《金雲翹傳》對世界的影響 (『金雲翹伝』の世界への影響)」”. 東京大学附属図書館.
https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/contents/event/20221222, (参照 2026-07-31).

(11)“【終了】「日台における漢学・台湾研究の回顧と展望」シンポジウム兼第5回台湾漢学講座(「臺日漢學與臺灣研究回顧與展望」學術研討會暨第5次臺灣漢學講座)”. 東京大学附属図書館.
https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/asia/event/20251001, (参照 2026-07-31).

(12)國史館は、中華民国草創期(1912年)に国務院のもとに創設され、1914年北京、1947年南京に設置されたが、中華民国政府の台湾移転以降、台湾に拠点を置くようになった国史編纂機構。檔案・史料および総統・副総統関連の文物を収集・保存・整理・刊行する。
國史館.
https://www.drnh.gov.tw/, (参照 2026-07-31).

[受理:2026-08-14]

 


板橋暁子. 東京大学アジア研究図書館の台湾漢学リソースセンター(TRCCS):設立の経緯と活動内容. カレントアウェアネス. 2026, (369), CA2107, p. 14-16.
https://current.ndl.go.jp/ca2107
DOI:
https://doi.org/10.11501/14990395


Itahashi Akiko
The Establishment and Activities of the Taiwan Resource Center for Chinese Studies (TRCCS) at the University of Tokyo Asian Research Library