CA2008 – 紀要論文等の書誌情報流通における課題と「文化財論文ナビ」の取組 / 持田 誠, 高田祐一

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カレントアウェアネス
No.350 2021年12月20日

 

CA2008

 

紀要論文等の書誌情報流通における課題と「文化財論文ナビ」の取組

浦幌町立博物館:持田 誠(もちだまこと)
奈良文化財研究所:高田祐一(たかたゆういち)

 

1. はじめに

 良い悪いは別として、インターネット上で見つけられない資料は、世の中に存在しないも同然といった感覚が一般化しつつある。また、紙媒体を持たない定期刊行物も増加してきている。そうした中、「全国遺跡報告総覧」(1)CA1936参照)や「文化財論文ナビ」(2)は、灰色文献(CA1952参照)の宝庫であった博物館紀要や文化財報告書に光を当て、誰の目にも留まりやすい形とした。その成立にはどのような背景があり、どのような設計思想によって築かれてきたのだろうか?

 本稿では最初に、市町村立博物館が置かれている状況と、紀要論文等の書誌情報流通における課題を確認する。その上で、課題への取組として文化財論文ナビを例にとり、開発の背景等や他分野での応用可能性について述べる。なお、第1章から第3章は持田が、第4章から第6章は高田が執筆を担当した。

 

2. 「博物館」の定義と「博物館紀要」

2.1 日本の「博物館」の多くは市町村立

 博物館法は、第2条で博物館を定義し、そこでは「資料に関する調査研究をすることを目的とする機関」で「登録を受けたもの」と定めている。

 このうち、いわゆる公立博物館については、第19条において、設置者である地方公共団体の教育委員会(又は首長部局)の所管に属するものとされている。博物館法が求める要件にあてはまる博物館だけが、申請によって「博物館登録原簿」に登録される。この「登録博物館」こそが、法律上の「博物館」ということになる。

 一方、国立博物館や大学博物館、さらには教育委員会(又は首長部局)の所管ではない公立博物館は、博物館法が定める「登録博物館」の要件にあてはまらない。それらは、申請によって「博物館の事業に類する事業を行う施設」すなわち「博物館相当施設」に指定されている。

 登録博物館数は2018年10月現在で全国に914館ある(3)。この中には県立博物館や私立博物館も含まれるが、圧倒的に多いのは市町村立の博物館である。

 

2.2 「博物館」は相手にされていない

 上記のように、「博物館」は調査研究をする機関と定められている。その成果として「紀要」を刊行し、国立国会図書館(NDL)に納本している。ところが、収集した雑誌からNDLが作成している記事データベース「雑誌記事索引」(4)は、採録誌選定基準で「市町村刊行物」を対象外としてきた。

 市町村は一律に採録しないのかというと、市立大学の紀要は採録対象とされている。大学の紀要は採録するのに、博物館の紀要を採録対象としないのは、博物館を調査研究機関とみていない、つまり軽く見られているのだ、と受け止めている。

 「雑誌記事索引」に採録された論文は、データ連携により国立情報学研究所(NII)運営の学術情報データべ―ス「CiNii Articles」にも登載され、発見可能性が大きく高まる。自館の機関リポジトリを構築して、同じくNII運営の「学術機関リポジトリデータベース」(IRDB)と連携し、IRDB経由でCiNii Articlesに登載してもらうという方法もない訳ではない。しかし昨今の基礎自治体では、セキュリティ強化と、人員削減や業務委託化とも絡んだ組織系統の集約化もあって、博物館等が独自に機関リポジトリ等の情報発信環境を整備することがむしろ困難になってきている。

 このような事情から、日本では「博物館の事業に類する事業を行う施設」である国立などの博物館紀要に収録された論文以外は、主要な学術情報データベースで探しづらい状況に置かれている。市町村立の「博物館」は、学術情報の世界で相手にされていないのだ。いまから10年前の2012年、あの手この手で紀要を雑誌記事索引経由でCiNii Articlesへ登載しようと模索していた筆者(持田)は、行き詰まって個人のブログで叫んだことがある(5)

 

2.3 時代は進んだ

 博物館法上は等しく公立博物館であるのに、都道府県立と市町村立の間で差をつけられているのはおかしい。そこで2013年11月に、日本博物館協会からNDLへ、採録基準改訂の要望書を出してもらった(6)。NDLは真摯に課題を受け止めてくれ、その方法について協議したいと博物館業界へ返答をしてくれている。いま、博物館業界は、どのような方法がとれるのか検討している。

 納本によって雑誌記事索引へ採録され、CiNii Articlesへの登載が連動する体制は、こうした脆弱な情報基盤に依拠するしかない小規模な市町村立博物館には、もっとも現実的な方法と考えていたのだが、そんな悠長なことをしている間に、時代は進んだ。全国遺跡報告総覧や文化財論文ナビの登場によって、少なくとも文化財に関する情報発信は、今後飛躍的に進むことが予想される。

 だが一方で、市町村立博物館からみた学術情報拠点としての博物館の役割は何か?といった、本質的な課題がなお取り残されているのである。紀要の問題とも無縁ではないと思われるため、あえて取り上げておきたい。

 

3. あらためて考える市町村立博物館の調査研究

 研究機関認定を受け、学芸員個人も科学研究費補助金の申請資格を持つ「研究職」である都道府県立博物館と、「事務吏員」として採用され、ややもすると一般行政職との間での異動すらもあり得る市町村の博物館、さらには正規職員がおらず非正規雇用だけで学芸運用しているような博物館とでは、同じ「博物館」でも調査研究環境が大きく異なる。「博物館」といっても一括りに出来ない実態が、こうした問題を抱えてしまう要因なのである。

 だが、ここに線引きをするならば、法律上なんの根拠もない「県立か?町立か?」といった設置主体別ではなく、「登録博物館かどうか?」を判断基準にすべきではないか。そもそも、「博物館」である以上、兼ね備えていなければならない基準を示しているものが、「博物館登録制度」であるはずだからだ。

 実は日本の「博物館」を名乗る施設の大半が、登録も相当施設の認定も受けていない法律的には幽霊で、「博物館類似施設」という。このような現状を変え、法の趣旨にあった博物館界を築いていくために、いま、博物館法は改正の議論を続けている(7)。この改正は、設置者の別を問わず、博物館の役割をどう位置づけ、博物館にどのような機能が備えられなければならないのか?を問いかける重要な改正になると思われる。

 

4. 文化財論文ナビ開発の背景

4.1 報告書内論文へのアクセス性の課題

 第2章および第3章において、博物館の現状が整理された。このような状況は、埋蔵文化財行政においても同様である。各地の埋蔵文化財センターや法人調査組織は紀要を発行しているが、雑誌記事索引の採録対象外である。また、基礎的な調査成果となる発掘調査報告書には、発掘調査の成果や意義を総括する論考や考察、自然科学分析や関連する事例報告等が報告書後半に付される。報告書は論文集ではないため、厳密には論文とは性質が異なるが、これらは調査研究においては必ず確認するべきものであり、論文に類するものとみなしてよい。しかしながら、当然このような論文類は、雑誌記事索引の採録対象外であり、そもそも専門分野ではない人間では採録も困難である。

 2017年から、奈良文化財研究所(以下「奈文研」)ではそうした論文類の書誌情報を収録した「遺跡報告内論考データベース」を公開している(8)。また、考古学系の雑誌においてもCiNii Articlesでは検索できないものが多数あることから、CiNii Articles未収録誌を対象とした「考古関連雑誌論文情報補完データベース」(9)を構築し、2014年から運用している。しかし、CiNii Articles等の外部データベースにデータ連携しておらず、情報の行き止まりであった。

 

4.2 「全国遺跡報告総覧」の課題

 奈文研が2015年に公開した「全国遺跡報告総覧」(以下「遺跡総覧」)は、文化財に関する刊行物をタイトル単位で登録するものである。発行機関自らが直接登録することが可能であるため、文化財分野の共同リポジトリともいえる。著者や発行機関など書誌データの検索も可能であるほか、一部刊行物については全文PDFも収録している。

 しかしながら、メタデータ項目として目次情報を持たなかったため、全文検索で目次のテキスト情報を検索するしかなく、膨大な全文検索結果から、ピンポイントで目次にアクセスすることは困難だった。そこで、奈文研をはじめいくつかの機関が、遺跡総覧に登録した刊行物の書誌備考欄に目次を入力し始めた。市町村立の博物館や埋蔵文化財センターの刊行物は、雑誌記事索引の採録対象外であるため、目次情報を少しでも流通させるための苦肉の策である。全文検索時の結果表示順では、システム的に本文テキストより書誌データに重みづけをしている。備考欄に含まれる目次は本文テキストより上位に表示されるため、合理的ではある。しかしながら備考欄の本来用途ではないため、抜本的な解決が必要であった。

 

5. 技術的方策

5.1 「文化財論文ナビ」の構築

 これらの課題を解決するために、まずは遺跡総覧の書誌データに目次情報を保持する項目を追加した。これにより、目次情報をデータベースとして扱えるようになった。そして、新たに遺跡総覧の一機能として論文データベース「文化財論文ナビ」を開発し、2021年3月に公開した(10)。各機関が遺跡総覧に報告書等の書誌データを登録する際に、論文情報も一緒に登録すれば文化財論文ナビから検索できるようになる上、各論文にはDOIも付与される。書誌情報のみを先に登録し、後から論文情報を追加することも可能である。2021年10月15日時点の論文データ件数は、1万7,571件に上る。

 遺跡報告内論考データベースのデータについては文化財論文ナビにデータ移行し統合を進めており、考古関連雑誌論文情報補完データベースのデータについても同様に統合を進める予定である。ただし、上述した書誌備考欄記載の目次情報は、情報源として必要な情報が不足しているため、現時点では特に対応を予定していない。各機関によって文化財論文ナビへの登録が必要である。

 

5.2 論文のアクセス性と検索性の向上

 遺跡総覧に登録されている刊行物の書誌データは、既に週次でIRDBによりハーベストされており、NIIが提供する大学図書館等の所蔵資料検索サービス「CiNii Books」およびNDLの統合検索サービス「国立国会図書館サーチ」に書誌情報を連携している。連携にはOAI-PMHを用いているが、その出力項目に文化財ナビに収録された論文情報を新たに追加することで、CiNii Articlesおよび国立国会図書館サーチで検索できるようになった。このことにより、論文情報のアクセス性が大きく向上した。

 また、文化財論文ナビでは、論文が対象としている文化財の所在地(都道府県)、時代、テーマ、種別等を自動及び手動で付与している。時代やテーマ等は自動判別が難しいため、奈文研が手動で遡及登録を進めている。検索時はこれらの属性ごとに検索可能である(11)。2021年6月には、既に登録されている論文データを対象に、タイトル・抄録(論文)・著者・主な時代から専門用語を抽出し、「登録キーワード・特徴語」項目に自動で用語を設定した(12)。論文ごとに特徴語を付与したことで、キーワードの被検索性が向上した。

 さらに、特徴語に基づき類似論文を自動提示する機能も実装した。遺跡総覧では既に実装済みの機能であったが、何が類似しているかわかりにくかった。そのため、どの特徴語によって類似しているかを共起ネットワーク図で可視化することより改善を図っている。膨大な論文から必要とする論文を探すための新たな方策となった。

 

図1 「文化財論文ナビ」開発前の課題

 

図2 「文化財論文ナビ」がもたらした効果

 

5.3 スキームの応用可能性

 遺跡総覧や文化財論文ナビのスキームは学術情報流通面の課題を抱える他分野にも応用可能である。単独機関ではリポジトリを運用できなくとも、ある機関が主題リポジトリを運用し、そこに参加機関がデータ登録する。集約したデータをIRDBがハーベストしCiNii Articlesと連携すれば、学術情報の流通促進は実現可能である。

 しかし、分野ごとの共同リポジトリは、以前から期待されているものの実現に至ったケースは少ないと聞く。本システムが順調に推移している背景の一つに、関係機関との協調や分野全体で取り組む機運がある。遺跡総覧は当初は、全国の国立大学附属図書館による「全国遺跡資料リポジトリ・プロジェクト」であり、現在も島根大学附属図書館と共同で推進している。文化庁を中心に各地の地方公共団体とも一緒に進めていく体制を整えている。全国的な文化財情報を集約し、発信するという取り組みは奈文研の役割のひとつであり、それに合致する本事業は予算や人員等を投下できる公式の事業と位置付けられている。

 他分野においても中核的な組織と連携する機関があれば、十分に実現が可能であろう。ただし、各分野の専門家が、従来の専門知識に加え、成果発信や情報流通にも関心を持ち、機運を醸成し、当該分野全体でリテラシーを高めていくことが必要となる。

 

6. おわりに

 本稿では、学術情報流通において博物館紀要や文化財報告書等が直面する課題と、文化財分野での課題への取組として文化財論文ナビを紹介した。上述のとおり、文化財論文ナビのスキームは他分野でも応用可能であり、これまで十分に光が当てられていなかった学術情報を流通させる上で有効な解決策となりうる。

 ただし、雑誌記事索引において、博物館や埋蔵文化財センターの紀要は等しく重要な学術資源であるにも関わらず、都道府県立と市町村立で扱いに差がつけられているという課題は解決されていない。情報流通促進のための様々な取組は並行して進めつつも、雑誌記事索引がそれらの機関を採録の対象とする日まで改善の働きかけは継続する必要がある。

 

(1) 全国遺跡報告総覧.
https://sitereports.nabunken.go.jp/ja, (参照 2021-10-15).

(2) “文化財論文ナビの公開 -全国の博物館・埋文センターの論文情報にアクセスしやすくする-”. なぶんけんブログ. 2021-03-17.
https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/2021/03/articlenavi.html, (参照 2021-10-15).

(3) “博物館数の推移”. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/shinko/suii/,(参照 2021-10-15).

(4) “雑誌記事索引について”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/sakuin/index.html, (参照 2021-11-11).

(5) “博物館紀要ってなんだろう?ジレンマを感じる今日この頃”. 活動日誌. 2012-03-13.
http://sapokachi.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-3bb5.html, (参照 2021-10-15).

(6) 雑誌記事索引採録誌選定基準の改定等に関する要望書. 公益財団法人日本博物館協会, 2013, 1p.
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/zassikiji.pdf, (参照 2021-11-11).
持田誠. 博物館と生態学25:いま市町村の博物館紀要が直面している課題.日本生態学会誌. 2016, 66(1), p. 265-270.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitai/66/1/66_265/_article/-char/ja/, (参照 2021-10-15).

(7) “文化審議会博物館部会 法制度の在り方に関するワーキンググループ”. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hoseido_working/index.html, (参照 2021-11-11).

(8) 遺跡報告内論考データベース.
https://www.i-repository.net/il/meta_pub/G0000556isekironko, (参照 2021-10-15).

(9) 考古関連雑誌論文情報補完データベース.
https://www.i-repository.net/il/meta_pub/G0000556ronko, (参照 2021-10-15).

(10)“文化財論文ナビ”. 全国遺跡報告総覧.
https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/search-article, (参照 2021-10-15).

(11)文化財論文ナビの論文属性設定は、2021年10月時点においては遡及登録中である。すべての属性登録はできていない。

(12)“全国遺跡報告総覧:文化財論文ナビの機能およびメタデータの追加”. なぶんけんブログ. 2021-06-02.
https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/2021/06/articles0602.html, (参照 2021-11-05).

 

[受理:2021-11-17]

 


持田 誠, 高田祐一. 紀要論文等の書誌情報流通における課題と「文化財論文ナビ」の取組. カレントアウェアネス. 2021, (348), CA2008, p. 2-5.
https://current.ndl.go.jp/ca2008
DOI:
https://doi.org/10.11501/11942241

Mochida Makoto
Takata Yuichi
Overcoming Issues in the Circulation of Institutional Proceedings with “Japanese Cultural Heritage Papers”