CA1984 – 動向レビュー:「おはなし給食」の近年の動向 / 中山美由紀

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カレントアウェアネス
No.345 2020年9月20日

 

CA1984

動向レビュー

 

「おはなし給食」の近年の動向

立教大学学校・社会教育講座司書課程:中山美由紀(なかやまみゆき)

 

はじめに

 近年、学校給食と学校図書館のコラボレーション活動が各地で行われている。このような取組には、食材や地産地消、郷土料理・和食などの地域や文化、さらに保存食や栄養といったテーマでの連携の取組もあるが、本稿では、その一つである「おはなし給食」の動向を紹介したい。「おはなし給食」「図書給食」といった様々な名称のもと行われている取組(1)であり、絵本や物語・小説の中に出てくる料理やその物語の世界を表現した料理を給食の献立に登場させて、食育と読書活動の双方の充実を図る活動と定義できる。保育園などでの取組もあるが本稿では学校給食に限定して取り上げる。

 1章において現状とその背景を探る。2章において、その内容や実施にあたっての注意点を筆者の経験も踏まえて紹介する。最後にまとめにおいて、今後の課題を述べる。

 

1. 「おはなし給食」の現状と背景

 まず、図書館や栄養教諭・栄養士によって行われている本取組の現状を知るため、インターネット上の情報や雑誌記事の調査を行った。

 

1.1. 現状

 国立国会図書館による図書館界の最新情報を紹介するブログ「カレントアウェアネス-R」では、すでに埼玉県春日部市の「図書館リストランテ」(2)(2019年)、奈良県生駒市の「図書給食」(3)(年2回夏冬実施、2017年~)と福岡県小郡市の「ものがたりレシピをいただきます」(4)(4月23日子ども読書の日実施、2011年~)が取り上げられているが、東京学芸大学学校図書館運営専門委員会の「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」には、それより以前の事例として、「お話し給食」(5)(東京学芸大学附属小金井小学校、11月読書週間、2007年~)が掲載されている。このような取組は、近年はマスコミにも取り上げられ、インターネット上で話題になっている。朝日小学生新聞には給食の日を特集して『「給食コラボ」でおいしく 本に出てくる料理を再現』(2019年1月22日)という見出しで、東京都杉並区立久我山小学校とさいたま市立泰平中学校の事例を紹介している。久我山小学校図書館ではインターネット上の情報を参考に給食コラボを提案したという(6)

 『食育フォーラム』という学校給食の栄養士・栄養教諭を対象とした雑誌には、2008年に毎月1回給食実践・「図書シリーズ」を行った東京都荒川区立ひぐらし小学校の実践(7)、および、2010年11月の1か月間を毎日、「読書週間給食」にしたという東京都千代田区立千代田小学校の実践(8)が掲載されている。また「食育ブックジャーニー」というコラムで2011年4月号から2013年4月号までの2年間、本のソムリエ団長が本の中に出てくる料理について紹介をしている。その他、2012年1月号に「食育授業づくりの窓Vol.05 食の絵本から生まれる授業」(9)、2012年7月号では光村図書出版の国語教科書に登場する食べ物や料理が出てくる題材のリスト(10)が掲載されていた。本稿執筆時点で、2019年4月号から小学校給食は「おはなし給食」(11)として東京学芸大学附属世田谷小学校の事例が、同5月号から中学校給食は「読書と給食」(12)として東京都新宿区立牛込第一中学校の事例がほぼ交互に連載中である。

 2019年の第60回全国栄養教諭・学校栄養職員研究大会(岐阜)では、岐阜県美濃加茂市学校給食センターの給食献立を活用した効果的な連携として、年4回の「図書献立」の研究発表(13)があった。また、大会配布資料の中には岐阜県笠松町学校給食センターの「名作おはなし給食」の実践資料(14)があり、会場で実践のポスター展示も行われた。

 全国の栄養士のためのコミュニティサイトである「給食ひろば」(15)の「給食トピックス」に紹介されているものは多数ある。仙台市では2013年から「全国学校給食週間」に合わせたフェアを毎年開催しているが2020年は「教科書や絵本に出てくるメニューを給食で再現する絵本給食はどんなものか興味がある」という市民の要望に応えて「絵本給食」を特集したこと、北日本新聞では「恋愛小説給食」を富山県氷見市立西部中学校で行ったことを報道したという記事が目を引いた。

 一方、図書館業界の文献ではほとんど見ることがなく、『学校図書館』2008年6月号の投稿欄「ひととき」に筆者が投稿した東京学芸大学附属小金井小学校の「おはなし給食」の事例と、『みんなの図書館』2013年8月号の掲載記事で小郡市が2011年から毎年4月23日に実施している「ものがたりレシピをいただきます」における学校と市立図書館が連携してのおはなし会の実践が確認できた(16)のみで、直近の2018年の第41回全国学校図書館研究大会(富山・高岡大会)でも、食育に力を入れている地域にもかかわらず取り上げられることはなかった。各地区での実践としては唯一、福岡県八女市の「とびだせレシピ」の実践(17)を確認することができた。

 筆者が長年学校図書館や公共図書館に勤める人たちに聞くも、広く認知されているとは言い難く、実施が確認された地域も全国に点在し、継続しているところも多くはない。それでも関心を寄せる人や地域を中心に少しずつ広がりを見せているものと思われる。

 

1.2. 「おはなし給食」の背景

 では、このような取組が始まった背景は何だろうか。実践例の実施意図や実施体制からその背景を考察したい。

 食育基本法が成立・施行された2005年から栄養教諭の配置が始まっており、学校給食を通じた食育が各教科・領域における授業や教育活動と連携・協力して盛んに行われるようになっている。2005年以前からの事例も散見されるものの(18)、「おはなし給食」もその流れの一端ではないかと、先の『食育フォーラム』の特集や記事の傾向からもうかがえる。

 食育基本法との関連を確かめるため、先に紹介した笠松町の計画(19)を見てみよう。「名作おはなし給食」について、「図書館にある本や国語の教科書に登場する物語の中に出てくる料理や食べ物を給食の献立に登場させ、図書館教育と食育の双方の教育効果をねらった活動」と解説する。その前文には、「笠松町内の小中学校では、子どもたちが読書を通して、心を耕し、本に親しむ心豊かな児童の育成を目指した図書館教育が行われて」おり、「学校における食育では、生涯にわたり望ましい食習慣を身に付け、よりよい食生活を実践し健康で豊かに生きる力を付けることを目指し、学校教育活動全体で連携を図り、進めていくことを大切にして行って」いると説明し、双方の教育効果をねらった活動として「おはなし給食」を位置づけ、献立全体を表現として「お話の世界に入り込める」工夫をするとあった。

 一方、2011年から小郡市が行っている「ものがたりレシピをいただきます」では、「平成23年度読書の街づくり事業」の「子ども読書の日」記念行事として小郡市立図書館から提案され、「絵本に出てくるメニューを給食に1品取り入れる」献立で、子どもの読書の日である4月23日に市内全小中学校対象に提供されている(20)。同館としてはそれをきっかけに、題材となった絵本の読み聞かせを市長や教育長にも協力校で行ってもらい、本の展示、ポスターの掲示、関連本の紹介リーフレット配布などを行った。公共図書館・学校図書館が進めるこの事例は普段は本になじみのない子どもや子どもにかかわる大人にも関心を持ってもらおうとする、読者層の拡大のための契機としている。

 同様に、生駒市の「図書給食」も2017年12月の第1回メニューから第5回まで1作品につきイメージできる料理1品が入った献立となっていて、教育委員会から報道向けにプレスリリースがされている。生駒市では2011年に全校配置となった学校司書と、学校司書の活動を支援する公共図書館、給食センターとのトリプルコラボレーションとして2017年に「図書給食」がスタートした。センターの作る献立の1品と子どもだけでは選べないよりよい1冊を図書館の専門職として学校司書が結び付けるようにしており、生駒市図書館でも同時展示を行うと親子の会話も弾み、よく借りられるという(21)

 学校図書館では1997年に12学級以上の学校での「司書教諭」配置の義務化と2014年「学校司書」の法制化があり(CA1902参照)、新たに学校司書配置をした地方公共団体ではその存在アピールと読書推進計画にのっとり活動している実践アピールが共にできるチャンスとなっている。

 「おはなし給食」は2008年前後と2017年前後の2回のブームを筆者は実感するが、2005年の食育基本法と栄養教諭制度の開始、2010年の国民読書年、2014年学校司書法制化といった動きと無関係ではないと思われる。

 

2. 「おはなし給食」の実際

 学校給食における「おはなし給食」の実際の展開と留意点について、筆者の経験も含め紹介する。

 

2.1. いつ実施されるか

 最も多いのが、学校の読書週間に合わせてであり、次に全国学校給食週間(1月24日から30日)で、特別メニューとして数日連続で実施される。

 読書週間は10月27日から11月9日の国民読書週間にあわせた秋がスタンダードだが、6月や12月、2月などの学校の定める読書週間が年に2、3回設定されその時期に合わせているところもある。4月23日子ども読書の日の単発実施(小郡市)や、毎月1回(荒川区、八女市)、読書週間を含む1か月間は毎日実施(千代田区、東京学芸大学附属世田谷小学校)という例もみられた。

 

2.2. 企画と選書-コラボレーションのありよう

 食育と読書がテーマとなる「おはなし給食」は、自校給食の場合、栄養教諭・栄養士と司書教諭・学校司書のコラボレーションになる。センター給食の場合は学校図書館部会や学校司書部会と給食センター、そして公共図書館が加わる組織的なコラボレーションとなる。

 食育推進側(栄養教諭・栄養士)からか読書推進側(司書教諭・学校司書)からかどちらかの提案でまずはスタートするが、双方の「おはなし給食」に対するイメージや実施の方法などは共有できるとよい。すでに1.2.で述べたように、食育推進側からの提案では献立の料理を通じて物語の世界をまるごと楽しめるような〈心のありよう〉を図る傾向があり、読書推進側の企画では本の中の食材や料理の再現を不読層の開拓ができる〈よい機会〉ととらえる傾向にある。

 3か月前には食材や栄養、カロリーの計算や調理法などを考えて献立をつくる栄養教諭・栄養士は、スタート時点ですでにいくつかの切り口をもっていることが多い。学校図書館では食育推進側からレファレンスをうけると、国語の教科書で扱われている作品が入った本、みんなが知っている詩が入った本、最近読み聞かせした本、今子どもたちに人気の本、映画になった本などについて相談され、学校図書館側から資料提供すると、栄養教諭・栄養士によって多様な要素を組み合わせて献立がつくられていく。

 両者が一緒に本棚から選書すると発見も多い。東京学芸大学附属小金井小学校の2015年「おはなし給食」で、当時同校に勤務していた筆者の経験したレファレンスは栄養教諭からの「一緒に探してほしい」という依頼だった。選んだ本を互いに確認しあっていったが、絵本『けんかのきもち』(柴田愛子/文、伊藤秀男/絵、ポプラ社、2001年)では視点の違いを受け取ることができた。同書の主題はもちろん「けんか」である。主人公の気持ちのたかぶりと収束の変化が見事な絵本だが、栄養教諭からすると、この絵本は「餃子の本」だと言われた。そもそもこの物語のスタートは子どもたちの餃子づくり画面から始まっている。けんかの後の気持ちをほぐそうとそれまでみんなで作っていた餃子を持ってこられても、食べようとしない主人公が、最後には食べることでけんかの気持ちを収めている。主人公の心情の変化を「餃子」が引きだしていくという、栄養教諭ならではの指摘だった。タイトルに料理名がなくとも「食」が重要な要素になっている「おはなし」はあるのだと知ることになった。自校給食だからできると言ってしまえばそれまでだが、多くの学校の実践を共有していくことで積み上げは可能である。上記実践はインターネット上(22)で公開している。

 センター給食でも栄養教諭・栄養士が図書館を頼りとするのは選書である。長野県松川村は隣の池田町と一緒のセンター給食となっているが、各学校の希望を募ることもあり、11月末の読書旬間に行う「おはなし給食」を実施している。栄養教諭からの選書依頼(秋の野菜という指定がついたことも)が学校にあって、学校司書が応えている(23)。センター給食では、1 校にとどまらず、実施範囲が担当地域全体の学校であることが利点であり、その機会をどういかすかということと、継続して毎年行うことの2点を図ることで効果が期待される。

 

2.3. 当日の活動を支えるコラボレーション

 実施にあたっては、どのような物語か、それが献立にはどのように表現されているかの何らかのメッセージを児童・生徒に伝える。関連する情報と共に、その日の給食見本やランチルーム・学校図書館での本の展示・掲示、リーフレットの配布、ポスターの貼付、スピーチや放送、読み聞かせなどの活動は欠かせない。児童・生徒の給食委員や図書委員、放送委員の活動として、行われる場合もみられる。

 鳥取県岩美町では、センター給食のため町内一斉に実施されるが、小学校各クラスに読み聞かせボランティアが入り、中学校では図書委員が関連本を紹介するにあたり、町立図書館が購入・相互貸借を通じて全面的に支援している(24)

 1.2.で取り上げた小郡市や生駒市の事例に見られるように、「おはなし給食」に公共図書館も加わるとより充実する。上述のように、センター給食の場合は給食センターと学校とさらに公共図書館も加わる組織的なコラボレーションとなる。公共図書館の支援は心強い。「おはなし給食」関連展示を公共図書館でも行うと、より多くの人の関心を呼び、地域での食育・読書啓発の機会となる。地方公共団体の子ども読書推進計画の一端を担う活動と位置付けることも可能である。

 

2.4. 「おはなし給食」の献立の実際 ―東京学芸大学附属小金井小学校実践―

 ここで、12年継続して「おはなし給食」の実践をしている、筆者も勤務していた小学校での例を挙げ、日常と実際の献立について述べる。

 2007年に同校に着任した横山英吏子栄養教諭は、学校のさまざまな活動とコラボレーションをした献立をすぐに始め、学校図書館にある本と国語科の教科書のおはなしから考える「おはなし給食」も、11月の読書月間に実施した。以来毎年、〈その年のテーマ〉を決めて継続して行っている。

 日常的には、食堂入口の献立見本の隣にはその日の献立のテーマに関連する本を毎日、学校図書館から2、3冊選んで展示している。横山氏は食材や産地、調理法や郷土料理、世界の料理、行事食、先生の思い出給食の関連本など、知識の本だけでなく創作絵本や物語まで、毎朝借りに来る学校図書館のヘビーユーザーである。子どもたちはその献立見本の横にある本をよく見ていて、普段から食で体験したことをすぐに本で深めたりひろげたりするようになっている。これらを「食育と図書のコラボレーション」だとすれば、毎日行っていることになる。

 「おはなし給食」は、その延長と取れなくもないが、年に1回の読書週間に4、5日間連続して行われ、献立に関する知識ではなく「おはなし」の世界を想像力でまるごと楽しむという読書活動を意図しているので日常のそれらとは一線を画すものである。

 2017年「おはなし給食」の献立例は表のとおりである。紙幅の関係で3つの献立しか取り上げていないが、和食と洋食、本のジャンルも、教科書にも採用されていた日本文学、キャラクターも知られている海外文学、楽しい絵本とさまざまに組み合わせてバランスを取っていることがわかる。また、それぞれの献立は1つのまとまった世界を表している。『くまのパディントン』の事例では、パディントンの物語の世界がおはなしに出てきた料理とお話の舞台である英国風の献立で統一されている。

 

表 2017年 東京学芸大学附属小金井小学校「おはなし給食」の献立例
          献立/横山英吏子 選書/松岡みどり

日にち 書名 献立 写真
11.17(金) 安房直子『雪窓』(偕成社、2006年)
「三角のプルプルっとしたやつください。」というたぬきの注文は、口に入れた時の触感を想像でき食べたくなる。ホカホカしていておいしそうな挿絵から、だいこん、焼き豆腐や卵など、どんな味でどんな食感かとワクワクする。心がポッと温かくなるお話と体がポカポカ温まるおでんを楽しんでほしい。 ご飯
雪窓おでん
まぐろと大豆の甘みそ和え
ゆず大根
キウイーフルーツ
牛乳
11.20(月) マイケル・ボンド作、松岡享子訳、ペギー・フォートナム画『くまのパディントン』(福音館書店、1967年)
本の中に登場した料理
(食パンとオレンジマーマレード、ベーコンエッグ、キャロットラペ、グレープフルーツ)とスープはイギリス料理(スコッチブロス)を組み合わせた。
 外国のおはなし給食は、全員の児童が外国の食文化に触れることができ、英語科ともコラボレーションができる。
食パン
オレンジマーマレード
スコッチブロス
(大麦と野菜のスープ)
ベーコンエッグ
キャロットラぺ
グレープフルーツ
牛乳
11.21(火) 山崎克己『うどんドンドコ』(BL出版、2012年)
もともと面白い話だが、共食の温かさがある。なかよしの手ながざるとぶたとかめがにこやかに食事をし、二百羽のしろうさぎが一緒に食事をしている挿絵や、うどんを食べる音から、仲間との食事の楽しさが描かれる。今夜は私も誰かと一緒にうどんを食べたい、何のうどんにするかを決めるのも楽しいだろう。 うどんかいじんのてんぷらきつねうどん
 筑前煮
 ブロッコリーのごま和え
 牛乳

 

 2013年の「おはなし給食」の時には「読み聞かせしてもらった本」がテーマだった(25)が、『サラダでげんき』(角野栄子/作、長新太/絵、福音館書店、2005年)では「りっちゃんサラダ」とともに病気回復時のおすすめメニューとして栄養もあって消化の良いけんちんうどんを主食としている。『こんとあき』(林明子作、福音館書店、1989年)では、こんが列車の停車途中で買いに行くお弁当のスタイルにして鳥取県の食材をつかい、二人が出かけた「さきゅうまち」に誘う内容となっている。横山氏の献立はさまざまな切り口があり表現も豊かで、子どもたちの感性に響く給食となっている。

 現在「おはなし給食」の相談を受ける松岡みどり学校司書は単に料理が出てくる本ではなく、物語の中に食材なり料理が意味を持って登場している作品を意識して探すようにしているという(26)

 年に1回でも4、5日様々なバリエーションの「おはなし給食」を展開すると、子どもたちの気づきや発見も広がっていくようである。

 

2.5. 子どもたちの参加

 「おはなし給食」も毎年続けていくと、子どもも楽しみにしていて、読書力や食を通じた感性が育っていく様子がうかがえる。先の東京学芸大学附属小金井小学校の事例だが、子どもは「おはなし給食」当日の展示もよくみて、友だち同士でも物語や献立の話をする。「レシピを教えてほしい」という要望があったり、献立表が配られた時点で公共図書館にも記載された本を借りにいって予習し家族で料理名から食材や調理法を予想したりする者まで現れた。事後の感想をわざわざ栄養教諭に届けに行く子も大勢いた。9年目の2016年には、児童図書委員会の企画として全校児童から献立を募っての「おはなし給食」となっている(27)。実践後の横山栄養教諭は、入賞した児童の言葉を引用しながら、次のように振り返っている。

 『農場の少年―インガルス一家の物語5』を題材にして献立をたてた4年生児童の感想に、「本に食べものが出てくると、仲直りしたり、団らんの場面になったりして、話が動きます。今年はリクエスト献立で、自分のものが選ばれてとてもうれしかったです。実さいも、おいしくて、何度もおかわりをしました。」とありました。食事は、人と人を繋ぐ大切なものでもあるということを、本を通しても感じることができるのだと、描写を読み取る力、場面の変化に食事が関係していることに気がつく子どもの力に驚きました。また自分(児童)のたてた献立が給食に登場した喜びも伝わってきました(28)

 図書館側からは「食を通して物語の理解」ができるのだという手応えを感じる。「おはなし給食」が物語を料理に表現して献立を作成する主体的な活動を引き出すところまでできるのだということを教えてくれる実践であった。

 子どもたちの参加事例は、長野県塩尻市立丘中学校にもあり、図書委員会と給食委員の共催で「冬の読書祭りコラボ給食」が2019年12月に行われた。『ドラえもん短歌』(枡野浩一/選、小学館、2011年)にでてくる、魚の骨やスルメ、大福が入る「ジャイアンシチュー」の再現に生徒たちと「給食の方」の間で、「いかに本家のジャイアンシチューに忠実で、かつ美味しくを目指」すか、熱いやり取りがあったことが記録されている(29)

 

2.6. 図書館活動としての支援

 「おはなし給食」に関する、図書館側からの支援活動をまとめると、次のようになる。

 

  • 1)献立作りのための資料・情報・アイディア提供
  • 2)利用者への図書の展示、ポスター掲示、お便り配布
  • 3)読み聞かせ活動(の支援)
  • 4)図書案内の放送、集会活動(の支援)
  • 5)上記活動をする児童・生徒・関係者への支援
  • 6)児童・生徒の献立づくり参加の支援

 

 一番苦労するのは、先の塩尻市立丘中学校にもあったように、選ばれたおはなし・物語の中の「食」が、安全のために食材や調理の制約の多い給食で実現可能かどうかである。しかし、互いの専門性を出し合って乗り越えたいコラボレーションの成果の見せどころでもある。選書と献立作成の段階のやりとりは丁寧に、食材1つを話題にするだけにとどまることなく、その作品の世界やストーリー、献立丸ごとを味わうものになるような工夫と努力が必要だろう。「おはなし給食」が子どもたちの心身の成長にもたらすものが何であるか、可能性をも考えて取り組む必要がある。

 

3. まとめ

 食育推進の手法の一つとして「絵本の活用」について研究した堤千代子らは、フィクション・ノンフィクション含めて「食育の視点による絵本の分類」を次のような9項目とした(30)

 

  • 1)食品の知識を得る
  • 2)料理・調理の楽しさを学ぶ
  • 3)食物連鎖や命、栽培、環境を学ぶ
  • 4)食べ物と健康の関係を知る
  • 5)伝統行事や行事食を知る
  • 6)郷土料理を知る
  • 7)食事のマナーを知る
  • 8)食べ物に感謝する心を育てる
  • 9)人との関わりを育てて食べ物と心の関係を知る

 

 絵本のみならず、学校図書館が食育を題材とした給食や授業とコラボレーションをする時、同様の視点で情報・資料を提供し、活動することができる。「学ぶ」、「知る」、「調べる」という営みでは〈知識の本〉ノンフィクションが活躍する。これに対して、「おはなし給食」は、9)の項目である「人との関わり」「心の関係」に至ることができる。絵本、物語、小説というフィクションの作品をとおして、想像力豊かに登場人物の行動や心情に思いをはせて給食を楽しむ、あるいはその献立をとおして物語の世界に誘なわれる感性豊かな営みとなる。

 「おはなし給食」の子どもへの効果は以下のようにまとめられる。

 

  • 1)給食献立による読書啓発
    • 本を手に取るきっかけを生む
    • 諸感覚から物語の理解を深める
    • 料理が物語解釈の表現になることを知る
  • 2)読書による食育啓発
    • 食への関心のきっかけを生む
    • 食が物語の展開の大切な要素の1つになると気づく
  • 3)食と「おはなし」を楽しむ
    • 献立の料理を楽しみ同時に物語をまるごと楽しむ
    • 友達同士・家庭で食と物語の話題を楽しむ
    • 「おはなし献立」レシピで料理を作って楽しむ
    • 主体的に「おはなし給食」を創作して楽しむ

 

 これまで見てきたように、栄養教諭の配置、司書教諭・学校司書の配置、自校給食かセンター給食か、地域によって条件は様々ではあるが、如何にして実施できるかを各地で工夫を凝らしていることがわかった。また、栄養教諭・栄養士の世界では、コラボレーションすべき相手をよく研究してきていることもわかる。学校図書館や公共図書館の方でも見習うべき姿勢であろう。

 「食」は日常の営みでありながら、健康と命を保つ重要な営みであり、だからこそ昔話をはじめ、絵本や物語、小説にもさりげなく、しかし実は重要なモチーフとして登場する。今年度の1学期は新型コロナウイルス感染防止策の講じられる中、給食も制限を余儀なくされ、校外で子どもたちが食する子ども食堂の閉鎖も相次ぐ一方、家庭では子どもとともにおやつ作りや料理作りが行われて、一時小麦粉やスパゲティなどが品薄になったという。食に対する関心が通常よりも高まっているのではないだろうか。学校では三密を防ぐ方法を講じての学校再開で、これまでと同じような活動ができる日はいつになるのか、新たな形が探れるのか、給食でも図書館でも悩ましい日々は続く。子どもの「食」に対する主体的な関わりをつくっていく営みを栄養士・栄養教諭とともに学校図書館も公共図書館も担えることを自覚し発信していく必要がある。

 本稿の執筆にあたっては、多くの方々に情報提供・資料提供をしていただいた。この場を借りて御礼を申し上げたい。

 

(1) 学校給食と学校図書館のコラボレーション活動として名付けられた活動名を別表にまとめた。

 

学校給食と学校図書館のコラボレーション活動として名付けられた活動名をまとめた別表。おはなし・絵本の活動。おはなし給食(岐阜県笠松町、長野県松川村、千葉県成田市、東京都杉並区、神奈川県厚木市ほか)、絵本給食(岩手県一関市)、絵本から飛び出した給食(石川県かほく市)。メニュー・レシピの活動。とびだせ!レシピ(福岡県八女市)、図書献立(岐阜県美濃加茂市)。おはなし・絵本とメニュー・レシピの活動。ものがたりレシピ(福岡県小郡市)、絵本メニュー給食(鹿児島県霧島市)。コラボの活動。給食コラボ(東京都杉並区)、読と食のコラボ給食(鳥取県岩美町)、図書コラボ給食(東京都八王子市)、本となかよし給食(山梨県甲斐市)、読書祭りコラボ給食(長野県塩尻市)。メニュー・レシピとコラボの活動。本とのコラボメニュー(新潟市)。(図書館×食)の活動。図書給食(奈良県生駒市、東京都目黒区)、給食ライブラリー(福岡県春日市)、図書館給食(岩手県奥州市)、図書館リストランテ(埼玉県春日部市)。

 

(2) 国立国会図書館関西館図書館協力課調査情報係. “春日部市(埼玉県)、学校図書館・学校給食が連携して物語に出てくる料理を給食で再現する「図書館リストランテ」を市内中学校・義務教育学校で実施:関連展示も実施”. カレントアウェアネス-R. 2019-11-06.
https://current.ndl.go.jp/node/39431, (参照 2020-07-08).

(3) 国立国会図書館関西館図書館協力課調査情報係. “生駒市(奈良県)、学校図書館と学校給食のコラボ『図書給食第4弾!』を実施”. カレントアウェアネス-R. 2019-07-04.
https://current.ndl.go.jp/node/38507, (参照 2020-07-08).

(4) 国立国会図書館関西館図書館協力課調査情報係. “絵本のメニューいただきます、福岡県小郡市の「ものがたりレシピ給食”. カレントアウエアネス-R. 2012-04-24.
https://current.ndl.go.jp/node/20703, (参照 2020-07-08).

(5) 横山英吏子. “給食の献立を考えるのに、絵本や物語の中の料理を取り入れたものにしたいので、参考になる本を紹介してほしい”. 先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース. 2009-12-05. A0020.
http://www.u-gakugei.ac.jp/~schoolib/htdocs/index.php?action=pages_view_main&block_id=26&active_action=multidatabase_view_main_detail&content_id=25&multidata-base_id=1&block_id=26#_26, (参照 2020-06-28).
なお、先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベースのサイト内検索に「給食」と入れると東京学芸大学の附属学校すべての給食事例がヒットする。

(6) 新聞記事当時の学校司書に始まりのきっかけをインタビューした(2020年7月6日)。

(7) 宮島則子. 読書と給食を連動させて本の好きな子どもに育む. 食育フォーラム. 2009, 9(10), p.10-19.

(8) 鈴木映子. 特集, 食育と言葉のあそび:1カ月続けた「読書週間」給食. 食育フォーラム. 2011. 11(1), p. 10-19.

(9) 藤本勇二. 食の絵本から生まれる授業. 食育フォーラム. 2012, 12(1), p. 66-71.

(10) [鈴木映子]. 特集, 国語で食育!:教科書の食べ物リスト.食育フォーラム. 2012, 12(7), p. 25-29.

(11) 金澤磨樹子,今里衣. おはなし給食 小学校. 食育フォーラム. 2019, 19(4), p. 8-9.

(12) 服部恵子,鈴木映子.鈴木裕二. 読書と給食 ティーンのためのおいしいブックガイド. 食育フォーラム. 2019, 19(5), p. 6-7.

(13) 藤井千穂. “食の楽しさを感じ、食を実践する児童生徒の育成~栄養教諭の専門性を生かし、学校とつながる食育をめざして~”. 第60回全国栄養教諭・学校栄養職員研究大会報告, 2019, p. 36-40.

(14) 笠松町立笠松小学校,下羽栗小学校,松枝小学校,笠松中学校. “名作おはなし給食~子どもたちの豊かな心を育む図書館教育と食育の連携~”. 岐阜県の食育実践資料集~岐阜から発信 学校給食でつながる ふるさと・人・未来~. 2019, p. 17-18.

(15) 全国の栄養士のためのコミュニティ 給食ひろば.
http://www.kyushoku.jp, (参照 2020-07-12).

(16) 田實亜依子. 特集, お話会のイマ事情:おはなしをお届けします① 4月23日子ども読書の日お話し会. みんなの図書館. 2013, (436), p. 19-23.

(17) 生活に広げる活動 とびだせレシピの取り組み. 福岡県学校図書館協議会研究報告:平成29・30年度研究委員会紀要 授業に生かし生活に広げる図書館づくり~学校司書との連携・協同を通して~. 2019, (2019.7), p.17-18.

(18) 1998年1月には富山県高岡市で国語教科書に掲載されていた『ごんぎつね』や『スイミー』などの献立を実施(前職が同市である東京学芸大学附属小金井小学校栄養教諭横山英吏子氏への聞き取り、2020年5月30日)、1988年から1991年にかけて富山県婦中町(現在は富山市婦中行政区)の給食週間に『童話の国の料理特集』が実施されていた(当時の婦中町学校給食研究会の清水由紀子氏他2名からの確認と聞き取り、2020年8月10日)。1980年小学校入学で児童としての経験者もいた(長野県南信地区司書への聞き取り、2020年7月5日)。

(19) 笠松町立笠松小学校,下羽栗小学校,松枝小学校,笠松中学校. 前掲.

(20) 田實. 前掲.

(21) 生駒市立図書館への聞き取り(2020年7月7日)。

(22) 横山英吏子. “読書月間のお話し給食を作るにあたり、子どもたちの人気の本で、料理の出てくるものを一緒に探してほしい”. 先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース. 2016-04-04. A0254.
http://www.u-gakugei.ac.jp/~schoolib/htdocs/index.php?key=mu7x46vgd-26&search=1#_26, (参照 2020-07-15).

(23) 松川村図書館への聞き取り(2020年7月6日).

(24) 岩美町立図書館への聞き取り(2020年7月10日).

(25) 横山英吏子“秋の読書週間に合わせて「お話し給食」にするので、「読みきかせした本」を教えてほしい。それをもとに、献立を考えたい”. 先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース. 2014-02-21. A0180.
http://www.u-gakugei.ac.jp/~schoolib/htdocs/index.php?action=pages_view_main&block_id=26&active_action=multidatabase_view_main_detail&content_id=198&-multidatabase_id=1&block_id=26#_26,(参照 2020-07-15).

(26) 松岡みどり氏への聞き取り(2020年7月15日).

(27) 横山英吏子. “読書月間のお話し献立を児童の応募から作ろうと思うので、児童図書委員会と協力したい”. 先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース. 2017-02-17. A0277.
http://www.u-gakugei.ac.jp/~schoolib/htdocs/index.php?action=pages_view_main&block_id=26&active_action=multidatabase_view_main_detail&content_id=297&-multidatabase_id=1&block_id=26#_26, (参照 2020-06-29).

(28) 入賞児童は入学以来、毎年出る「お話し給食」の大ファインで、予想や感想メモを色鮮やかなイラストとともに描いて製本し、ためている。新聞社の学校給食の取材の際に取り上げられた
おいしく学ぶ. 読売新聞. 2018-10-07.朝刊[都民版], p. 23.

(29) “コラボ給食”.塩尻市立丘中学校. 2019-12-06.
https://www.shiojiri-ngn.ed.jp/oka-j/2019/12/06/12479, (参照 2020-06-29).

(30) 堤千代子ほか. 絵本の中の食育. 中国学園紀要. 2005, 7, p. 177-188.
http://id.nii.ac.jp/1640/00000803/, (参照 2020-07-03) .

 

[受理:2020-08-20]

 


中山美由紀. 「おはなし給食」の近年の動向. カレントアウェアネス. 2020, (345), CA1984, p. 16-22.
https://current.ndl.go.jp/ca1984
DOI:
https://doi.org/10.11501/11546854

Nakayama Miyuki
Actually Eating the Food in a Story during School Lunch