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カレントアウェアネス
No.321 2014年9月20日
CA1832
動向レビュー
教科「情報」と図書館
千葉大学アカデミック・リンク・センター:小野永貴(おの はるき)
はじめに
2003年に高等学校へ教科「情報」が導入されてから、11年が経った。日本の初等中等教育における初の本格的な情報教育として注目された本科目は、当初より図書館関係者からも関心が寄せられていた(1)。この11年の間には、全国的な未履修問題(2)や、科目としての存続を疑問視する要望書の提出(3)など、存続が危ぶまれる事態もあったが、2009年告示の学習指導要領において大幅な改善がなされ、2013年より実施の新課程においても発展的継続がなされることとなった。
教科「情報」と図書館のつながりについては、これまでも度々言及されてきたが、今回の学習指導要領改訂においては、図書館の取り扱いはどのように変わったのか。本稿では、教科「情報」のこれまでの経緯や実態をふまえながら、図書館との連携の可能性や課題について明らかにしたい。
1. 高等学校「情報科」の概要
従来から、初等中等教育における情報領域の授業は、複数の教科の中で部分的に取り扱われていた(4)。一方、社会の高度情報化に伴って体系的な情報教育への注目が高まり、臨時教育審議会等において議論がなされ、各種答申の中で言及されてきた(5) (6)。その成果が反映されたのが、1999年改訂の学習指導要領である。「総合的な学習の時間」が新設されたほか、中学校の技術・家庭科の技術分野では「情報とコンピュータ」として情報領域が拡充された。そして、高等学校にのみ新設されたのが「情報科」という必履修教科であり、2003年度入学生より年次進行で導入された。
情報科の目標は、学習指導要領において、(1)情報活用の実践力、(2)情報の科学的な理解、(3)情報社会に参画する態度の3点が掲げられた。全高等学校が対象となる普通教科「情報」では、「情報A」「情報B」「情報C」の三つの科目が設置され、1科目2単位が必履修とされた(7)。これらの科目は、いずれも上記三つの目標を達成することができるとしつつも、情報Aでは(1)を、「情報B」では(2)を、「情報C」では(3)に重点を置き、それぞれ異なった内容が含まれている。
具体的には、「情報A」は、コンピュータを用いた情報収集や文書表現から、画像・音声・動画等のマルチメディア処理、プレゼンテーションやWebページを通した情報発信まで、幅広く実習を行う。また、それらを安全に行うための社会的・倫理的知識として、知的財産権や個人情報の概念、情報モラルや情報セキュリティの動向なども学ぶ。
「情報B」は、コンピュータにおける演算やアルゴリズム、情報システムを構成するデータベース技術、社会事象や自然現象のモデル化やシミュレーション等を学習する。これらを通して、情報社会を支える情報技術の役割や影響を理解し、問題解決にコンピュータを活用する科学的思考を身につけることを目指している。
また、「情報C」は、情報社会におけるコミュニケーションやメディアの特性、情報通信ネットワークやWWWの仕組み、デジタル情報の表現や伝達手法等を学習する。さらに、社会調査や課題研究を通して一連の情報活用の統合的能力を習得し、最終的には望ましい情報社会の在り方を議論する。
なお、これらの内容は排他的ではなく、重要な部分が科目を横断して含まれている教科書も多い。現場教員においては、学校行事や開設年次等に応じてより独特な内容を含めることもあり、授業内容の実態は学校によって多種多様な状況である。ただ、いずれにせよ、コンピュータを活用した実習が前提とされているものの、決してパソコンの操作方法自体が重要なわけではなく、「未来の情報社会で生きる術」をあらゆる観点から包含する科目となっていた。
2. 2009年新学習指導要領における改訂点
2009年度の学習指導要領改訂において、3科目あった普通教科「情報」の科目構成は大幅に変更され、「社会と情報」「情報の科学」という2科目に集約された。この2科目は、それぞれ旧課程の「情報C」「情報B」を継承し、内容を発展させた新科目となっている。一番初歩的で最も多くの学校で開講されていた「情報A」については、教科創設時から約10年の間に小・中学校での情報教育が充実し、高校入学時点における生徒の情報活用能力が向上をしたことを見込んで、発展的に解消するという趣旨が学習指導要領解説に示されている(8)。「情報A」に含まれていた情報活用の実践力や情報モラルに関する基礎的内容は、双方の科目で実施されるよう共通して振り分けられたが、それでも小・中学校における一連の情報教育のなかで部分的に既習であることが前提とされており、情報社会の高度化に対応した教科のレベル底上げの意図が読み取れる。
授業の実施形態についても変更がなされている。旧課程では座学と実習の割合が規定されており、総授業時数に対する実習の配当時間数を情報Aで2分の1以上、情報B・Cで3分の1以上は最低限確保しなければならなかった。新課程においてはこの明示が撤廃され、学校の実習環境や生徒の前提レベルに応じて、教員の裁量で柔軟に授業形態を設計できるようになった。
その他、この改訂では、中学校の技術・家庭科や高等学校数学科など、他教科における情報教育に関連する内容も変化がみられる(9)。特に、新課程情報科の学習指導要領解説では「公民科及び数学科などとの関連を図るとともに,教科の目標に即した調和のとれた指導が行われるよう留意する」(10)と明示されるようになり、他教科連携が極めて重要視されたことも大きな特徴である。
3. 教科「情報」の授業実態と大学入試
学校現場の実態としては、必ずしも学習指導要領の趣旨を全て反映した理想的な授業が展開できているわけではない。
まず、どの科目を開設するかという点をとっても、学校間で偏りが非常に大きい。検定教科書の採択割合によると、経年によって少しずつ「情報B・C」が増加しているものの、新課程開始直前の2012年時点においても半数以上が「情報A」であった(11)。新課程における2科目集約化に際しては、科目間の偏りは生じないことが期待されたが、結果としては「社会と情報」が圧倒的多数という状況である(12)。また、学習指導要領上では「あらかじめ各学校でどちらか一方の科目に決めてしまうのではなく,いずれの科目も設定して生徒が主体的に選択できるようにすることが望まれる」(13)とされているが、選択科目の開講を実現できている学校は少ない(14)。開講学年についても、学習指導要領では同一学年での2単位開講が推奨されているが、入試科目でない情報科は他教科との調整の中で優先度が下がり、学年単位数に余裕のある高学年に分割して配置する学校も少なくなかった。ただし、科目横断的に必要な基礎的情報活用能力の育成という教科趣旨を鑑み、1学年へと集約する学校も増えてきている(15)。
授業内容や実習方法に関しても、学校ごとの裁量や現場教員の得意分野が反映される場合が多い。前述の通り、固有のソフトウェアの操作自体は本科目の趣旨ではないものの、現実的にはいわゆるオフィスソフトの利用が大部分を占めてしてしまう場合もあった。新課程の教科書においては、ますますソフトウェアの操作に関する説明は減少しており、本質的な活用や問題解決への応用実習が重視されるが(16)、一方でコンピュータ環境の整備が追いつかず、情報モラル等の座学を中心に行う学校もある。日常的なセキュリティアップデートやOS・機材の更新などにかかる金銭的・人的負担は大きく、陳腐化した学校のPCよりも生徒自宅の個人PCのほうが高性能ということも多々あり、理想的な情報教育環境を維持することは容易ではない。
内容的に大学の情報リテラシー教育に直結する部分も多く、大学初年次教育の円滑化が期待されていたが、学校によって実施内容が異なり、生徒の習得スキルや到達レベルの差が大きいため、全体的な底上げまでは至っていない。8年間にわたり大学新入生に対する継続的な調査を行っている神田らは、「大学における情報教育の負担を軽減するまでには至っていない」(17)と結論づけている。
このような格差の大きい状況を解消するために、大学入試に情報科を取り入れることで、一定の均一的な到達レベルを確保しようとする動きも盛んである。情報処理学会は情報科を大学入試センター試験に取り入れることを提言している(18) (19)ほか、情報入試研究会は試作問題を作成し模擬試験を実施している(20)。また、明治大学などの一部の大学は2次試験に情報分野の内容を独自に取り入れ始めている(21)。一方で、教育再生会議の第四次提言を発端に、中央教育審議会初等中等教育分科会高等学校教育部会で検討されている、大学入試センター試験に代わる「到達度テスト」においては、情報科が入試科目として一斉導入される可能性は引き続き低い見通しである (22)。
4. 教科「情報」における図書館の扱い
4.1 学習指導要領での扱い
新課程の学習指導要領やその解説では、全教科にわたって、学校図書館活用や言語能力向上に関する記述が増加していることが知られている(23)が、情報科に限っていえば、図書館が登場する箇所は多くない。
情報科新学習指導要領解説の「高等学校の他教科との関係」という節では、「学校図書館を計画的に活用しその機能の活用を図ることも大切である。書籍やDVD,ビデオなどの情報と情報手段を合わせて利用できるようにした学校図書館を,学習情報センターとして生徒の主体的な学習活動に役立てていけるように整備を図り活用していくことが必要である。」(24)と記載されており、旧課程でも同様の記述がなされていた。一方で、この表記のとおり、「情報手段」と「書籍やDVD,ビデオなど」は個別の概念として捉えられている。情報手段の有効活用は学習指導要領で極めて重視されており、上記の節以外でも各所で頻出する表現であるが、その主眼はコンピュータや情報通信ネットワークであり、図書館や図書館資料が情報手段の文脈で同等視されるまでには至っていないことが伺える。
また、各単元における具体例の題材として、図書館が例示に用いられている箇所が存在する。例えば、旧課程においては、「情報A」における「情報共有の工夫」の節で「図書館の蔵書と蔵書目録のような一次情報と二次情報の関係」の理解を求められていたり、「情報B」における「情報の蓄積・管理とデータベースの活用」の事例として「図書目録」が題材としてあげられている。新課程においても、「社会と情報」の「社会における情報システム」の節で取り上げるべき例として、「図書館での本の検索や予約」があげられているほか、「情報の科学」における身近なデータベースの例としても、引き続き掲載されている。
その他、学習指導要領中に図書館という単語の形で明記されていなくとも、問題解決や情報検索の一手段として、新聞や書籍、オンラインデータベースや電子百科事典の活用が促されている箇所は複数存在しており、検定教科書の該当単元においては、図書館を題材として解説されている場合も多い。
4.2 旧課程の検定教科書における取り扱い
藤間らは、旧課程情報科の各社の検定教科書について、本文に「図書館」「司書/司書教諭」といったキーワードが出現する回数を調査している(25)。その結果、図書館という単語が全く出現しない教科書も確認されたほか、複数回出現したとしても図書館の社会的意義に立脚した解説はなく、期待したレベルの記述は無いとしている。また、司書/司書教諭に関してはほとんどの教科書で一切の記述が無く重要な情報専門職として意識されていないことが指摘されている。また、後藤田も同様の調査(26)を行い、多くの教科書では「図書館で本を調べてみる」程度の記述が1度か2度ある程度で、例外的に相互貸借やレファレンスサービスに関する記述を行っている教科書でも、記述量は全体の1%にも満たないと問題提起している。
4.3 新課程の検定教科書における取り扱い
新課程の検定教科書における実態を把握するために、筆者は2014年現在出版されている全社の新課程情報科の教科書13種(27)から、図書館関連の記述箇所を抽出した。以下に、図書館関連の話題が掲載されていた例を、学習内容の場面ごとに整理して列挙する。
(1)情報社会におけるメディアの一つとして
新課程ではメディアリテラシーの指導が重視される傾向にあり、社会における多様なメディアの特性理解の内容が増加している。その中では、テレビ、ラジオ、インターネット等とあわせて、書籍や新聞・雑誌、もしくは人の話といった幅広い媒体も対象に比較されており、図書館や博物館・美術館も同様にあげられている場合もある。
(2)情報収集における情報源としての図書館やデータベース
新課程では問題解決の実習も重視され、そのための調査や情報収集のプロセスとして、図書館関係の情報源を題材に解説されているものも多い。多様な調査手法として、実験やフィールドワークとあわせて文献調査が紹介されている場合もあれば、具体的な情報源として学校図書館や公共図書館、専門図書館の活用に言及している場合もある。電子情報資源として、論文検索サービスや新聞記事データベース、百科事典等のオンディスクデータベースが紹介されていることも多く、特許電子図書館は知的財産権の単元でも頻出する。
また、新課程の教科書では、実在するWebサービスを掲載している場合も多く、Twitter等のマイクロブログやWikipedia等の集合知の事例が、スクリーンショットとともに実名で紹介されている場合もある。図書館に関しては、国立国会図書館「NDL-OPAC」や、国立情報学研究所の「CiNii」「Webcat Plus」、NPO法人連想出版の「新書マップ」を掲載している教科書が存在する。
(3)情報検索技術の習得の題材として
情報検索の単元では、いわゆるロボット型Web検索エンジンの仕組みだけでなく、情報を探しやすくする工夫の学習も含まれており、その例示として旧課程の時から図書館が多く用いられてきた。例えば、キーワード検索とカテゴリ検索の違いを解説するにあたり、後者の例示に日本十進分類法の抜粋が掲載されていることがある。また、論理演算子や各種検索オプションの活用のほか、シソーラス辞書を用いた統制語彙による検索など、高度な検索技法を取り上げている教科書もある。また、人に聞くことも有効な検索手段の一つとして、司書によるレファレンスサービスが取り上げられる場合もある。
なお、これらの内容は、旧課程においては学習指導要領上で「情報の検索と収集」という形で項目化されていたが、新課程ではこれに対応する項目が無いことに留意されたい(28)。実際に、教科書によっては記載量が大きく減少しているものもあり、情報検索の文脈で図書館が取り上げられる可能性は減少したとも捉えられる。
(4)情報社会の発展の歴史のなかの位置づけ
人間のコミュニケーションの本質に着目する新課程においては、紙媒体や口承での情報伝達の時代も含め、太古からの一連の流れとして情報通信技術の歴史を学ぶ。その中では、パピルス紙や活版印刷が必ずと言って良いほど触れられているほか、さらなる未来のメディアとして電子書籍が説明されているものもある。
(5)社会基盤の情報システムの一つとして
情報社会を支える公共的な情報システムの実例として、住民基本台帳ネットワークシステムやe-Govとあわせ、公共図書館の蔵書検索や予約システムが紹介されている教科書もある。
(6)著作権の権利制限規定の一つとして
個人情報や知的財産権等に関する情報倫理教育は、禁止事項の周知などのリスク抑止型の内容から、保護と活用のバランスを考える内容と移りつつある。例えば、著作権の単元では、複製権や公衆送信権といった支分権の理解や、それらの権利侵害となりうる違法行為の例を知るだけでなく、どうすれば安全に他者の著作物を利用できるかという観点を重視する。具体的には、著作権管理団体への許諾手続き、クリエイティブ・コモンズ等の著作権者による意思表示の理解のほか、私的複製、引用、教育機関での授業の過程での複製等の権利制限規定があげられる。そしてこの中で、公共図書館における複製や貸与について触れられている教科書も複数存在する。
(7)データベースの事例・RDBやSQLの実習題材として
「情報の科学」の科目では、データベース技術やデータベースシステムの構築の内容が必ず含まれているが、大半の教科書ではその題材として図書館システムが取り上げられている。図書館の蔵書目録や貸出システムを作るというテーマを掲げ、書誌事項の表や分類表、生徒名簿表などの例を示しながら、リレーショナルデータベースの正規化や関係演算の処理等が解説されている。また、教科書によっては、貸出履歴を分析して利用傾向を把握したり、図書館向上に活かすといった問題解決実習まで含まれるものもある(29)。
(8)その他の単元における例示
図書館は、高校生にとって身近な例示題材として捉えられているようで、上記以外の単元各所でも、関連項目として取り上げられていることも多い。例えば、ユニバーサルデザインやアクセシビリティに関する単元で「DAISY図書」が紹介されていたり、身近な情報の符号化の例として図書館のバーコードが挙げられているものもある。また、問題解決の実習例として、「図書館はなぜ利用されないか」という問題提起のもと、ブレーンストーミングやロジックツリー、MECEやテキストマイニング等、多様な問題解決プロセスを通して図書館活性化を図る事例もあった。
なお、各社それぞれの教科書に上記の内容が全て掲載されているわけではないことに留意されたい。これらの記載例のうちどの程度掲載しているかは、教科書会社によって大きく異なり、新課程においても図書館がほぼ登場しない教科書も存在する。また、図書館活用のことを体系的に学ぶ単元は相変わらず存在せず、期待されていたような図書館教育の一端を担うまでには至っていない。
一方で、上記の記載例をみると、図書館に関連する内容は教科書内各所に分散して、様々な単元に溶け込んでいると捉えることもできる。これは、新課程の情報科が単なるコンピュータリテラシーだけでなく、問題解決能力やアカデミックスキルの習得へと指向したことが反映された、必然の結果ともいえる。むしろ、現代の多様化するメディアの中で、図書館が自然に位置づけられていると解釈することもできるだろう。
5. 情報科と図書館の連携の難しさ
実際の授業としては、情報科と図書館が連携した実践はいくつか報告されている(30) (31)ものの、多くの学校現場では、情報科の授業で図書館が積極的に意識されているとは言い難い。情報科はコンピュータ教育であるという先入観はいまだに強く、特に他教科との連携においては、校内PCの基本操作やオフィスソフトの活用指導を期待されてしまうことも多い。また、近年においては、スマートフォン普及による中高生の問題事例多発により、情報モラル教育へのニーズも高まり、限られた授業時数の中で図書館関連単元の優先度を上げて授業を構成することは、難しい状況であったともいえる。
情報科の教員養成課程の問題も、情報科で図書館が重視されない一要因として指摘されている。教職課程には図書館に関する必修科目は無いうえ、情報科の教科教育法の授業でも図書館関連事項の優先度は高くないことが報告されている(32)。また、教科創設時は、数学・理科等の一部教科の現職教員が講習により情報科教員免許を取得し、教科兼任の情報科教諭が多数うまれたが、わずか15日間の講習で専門的知識を得ることは無理があったといわれている(33)。このように、そもそも図書館に精通した情報科の専門教員が輩出される体制が、確立されてこなかった。
その他、情報科教員や学校司書の多忙さゆえの連携の難しさや、コンピュータ室と学校図書館が離れているという物理的制約も、連携阻害要因として指摘されている(34)。情報科の創設年がちょうど学校図書館法改正による司書教諭配置義務化の年でもあったため、これらが融合した「学校図書館メディアセンター」のような連携に期待がされたが、学校図書館側からも明確な反応はなく実現しなかったとされており(CA1722参照)、現在でもこのような状況は大きく変わっていないだろう。
おわりに
高等学校「情報科」が取り扱っている内容は、いずれ中学校・小学校へと段階的に学習年次が下がっていくだろう。また、それらで取り扱う内容も、生徒を取り巻く情報社会の発展や、家庭環境における情報デバイスの変化に伴い、刻々と変わりうることは容易に予測される。学校全体としても、情報科の中での情報教育よりも、電子黒板やタブレットPC等を用いた一般教科指導におけるICT活用に注目が移りつつあり、情報科自体の位置づけや情報科教員に要求される資質も、今後大きく変化しうる。
つまり、現在時点での高等学校「情報科」という枠組みに限って図書館が繋がるポイントを探るだけでなく、小学校から大学まで続く一連の情報教育およびそれを支える学校情報環境の中で、図書館という存在をどのように位置づけるか、総体的な視点をもつことが必要である。
そのためにも、今後は情報科教員が図書館に関する研鑽を積むことはもちろん、学校図書館や大学図書館等の図書館関係者側も、日本の情報教育の体制や実情について理解を深め、相互に議論を重ねることに期待したい。
(1) 例えば、2004年の図書館総合展では、「『情報科』後の図書館利用教育 -変わる利用者をどう迎えるか-」と題したフォーラムが組まれた。
“JLA-CUE (JAPANESE): Library Fest. Seminar”. 日本図書館協会.
https://www.jla.or.jp/portals/0/html/cue/sogo6.html, (参照2014-05-01).
(2) “高校教科「情報」未履修問題とわが国の将来に対する影響および対策”. 情報処理学会.
http://www.ipsj.or.jp/12kyoiku/Highschool/credit.html, (参照2014-05-01).
(3) “教科「情報」の扱いなど全高長協会が要望 [KKS]教育マルチメディアニュース 2007”. 教育家庭新聞.
http://www.kknews.co.jp/maruti/2007/news/070413.html, (参照2014-05-01).
(4) 例えば、平成元年改訂の学習指導要領においては、中学校の技術・家庭科の一領域として設けられていた「情報基礎」や、高等学校の数学科における「計算とコンピュータ」「算法とコンピュータ」等の単元がそれにあたる。
(5) 米谷優子. 情報化と学校図書館 –デジタルメディアとの関わりから–. 園田学園女子大学論文集. 2013, (47), p. 17-37.
http://www.sonoda-u.ac.jp/tosyo/ronbunsyu/園田学園女子大学論文集47/017-037.PDF, (参照2014-05-01).
(6) 澤田大祐. 高等学校における情報科の現状と課題. 調査と情報. 2008, (604), p. 1-10.
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0604.pdf, (参照2014-05-01).
(7) これらの科目の他に、専門教科「情報」として11科目が設置されたが、これらは主として職業学科を設置する専門高校において開講されるものであるため、本稿では普通科高校において開講される普通教科(新課程では共通教科という呼称に変更)のみを対象とする。
(8) 学習指導要領解説では、次のように記述されている。『今回の改訂では、共通教科情報科の改訂の趣旨及びこの間の義務教育段階における情報教育の充実や成果を踏まえ、義務教育段階において情報手段の活用経験が浅い生徒の履修を想定して設置した「情報A」については発展的に解消し、「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」に関する内容を重視した基礎的な科目として「情報の科学」と「社会と情報」を新設することとした。』
文部科学省. 高等学校学習指導要領解説 情報編. 2010, p. 14-15.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/01/26/1282000_11.pdf, (参照2014-05-01).
(9) 中学校技術・家庭科の技術分野においては、旧課程では全体で2単元の内の1単元が情報領域とされていたものが、新課程では全体が「材料と加工」「エネルギー変換」「生物育成」「情報」の4単元に枠組みが変わり、相対的に割合は減少した。一方で、旧課程では一部選択であった内容が全て必修化され、中学校卒業時点での既習内容の均一化が図られたこともあり、高等学校情報科においても中学校までの成果を活かした連続的な教育が重要視されているといえる。また、高等学校数学科においては、これまで「数学B」における選択領域であった統計処理の内容が、「数学I」の単元「データの分析」として必履修になった。学習指導要領解説においては、「例えば表計算用のソフトウェアや電卓も適宜用いるなどして、目的に応じデータを収集・整理し(後略)」と記載されているが、このような実習は情報科との連携が期待される部分である。詳細は、以下の各教科の学習指導要領を参照されたい。
文部科学省. 中学校学習指導要領解説 技術・家庭編. 2008, p. 6-10.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/01/26/1282000_11.pdf, (参照2014-05-01).
文部科学省. 高等学校学習指導要領解説 数学編. 2009, p.25.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/06/06/1282000_5.pdf, (参照2014-05-01).
(10) 文部科学省. 高等学校学習指導要領解説 情報編. 2010, p. 9-10.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/01/26/1282000_11.pdf, (参照2014-05-01).
(11) 佐藤万寿美. 高等学校全体の教科「情報」の状況について. 大学教育と情報. 2012, 2012(1), p. 3-6.
(12) “平成 26 年度使用 都立高等学校及び中等教育学校(後期課程)用教科書 教科別採択結果(教科書別学校数)”. 東京都教育庁.
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2013/08/DATA/20n8m300.pdf, (参照2014-05-01).
(13) 文部科学省. 高等学校学習指導要領解説 情報編. 2010, p. 10.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/01/26/1282000_11.pdf, (参照2014-05-01).
(14) 生田茂. 教科「情報」における必履修科目の履修割合の変遷. 筑波大学学校教育論集. 2008, 30, p. 7-13.
(15) 生田茂. 教科「情報」の現状 : ホームページ上の教育課程表から. 筑波大学学校教育論集. 2007, 29, p. 1-4.
(16) 実際には、小・中学校段階まででのソフトウェア操作の習熟度のばらつきは大きく、高等学校情報科の導入としても最低限の操作説明をすることは避けられないため、検定教科書によっては、巻末資料として固有のソフトウェアの画面イメージを用いた操作解説を独自に掲載しているものも多い。また、代表的なオフィスソフトウェアの各製品に対応した利用ガイドの副読本が、教科書会社から販売されているものもあり、補助教材として採択する学校もある。
(17) 神田久恵, 西荒井学. 教科「情報」の修得内容と情報活用ツールについての実態調査 : 2006 年度から2013 年度までの新入生を対象として. 愛知淑徳大学論集 人間情報学部篇. 2014, (4), p. 47-61.
(18) “大学入試センター試験における教科「情報」出題の要望”. 情報処理学会.
http://www.ipsj.or.jp/03somu/teigen/kyoiku201104.html, (参照2014-05-01).
(19) “「達成度テスト」における情報科試験採用の要望”. 情報処理学会.
https://www.ipsj.or.jp/release/teigen20131211.html, (参照2014-05-01).
(20) “情報入試研究会 | Joho Nyushi Study Group”. http://jnsg.jp/, (参照2014-05-01).
(21) “2014年度情報コミュニケーション学部一般選抜入学試験 B方式”. 明治大学.
http://www.meiji.ac.jp/infocom/examination/generalb.html, (参照2014-05-01).
(22) 平成26年03月07日に公表された審議まとめ(案)の中で、「保健体育、芸術、家庭、情報及び専門学科の各教科は、実習等による幅広い学習活動によって評価される比重が高く、一般的にペーパーテストになじみにくいこと等に配慮し、引き続き専門的に検討。」と記されている。
“初等中等教育分科会高等学校教育部会審議まとめ(案)~高校教育の質の確保・向上に向けて~”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/047/houkoku/1346339.htm, (参照2014-05-01).
(23) “新学習指導要領における「学校図書館」関連の記述”. 全国学校図書館協議会.
http://www.j-sla.or.jp/material/research/post-46.html, (参照2014-05-01).
(24) 文部科学省. 高等学校学習指導要領解説 情報編. 2010, p.4.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/01/26/1282000_11.pdf, (参照2014-05-01).
(25) 藤間真, 志保田務, 谷本達哉, 西岡清統. 「情報」科目テキストにおける「図書館」. 図書館界. 2004, 56(2), p. 120-126.
(26) 後藤田洋伸. 普通教科「情報」と図書館. VIEW POINT. 2003, (3).
http://www.ctc-g.co.jp/~caua/viewpoint/vol3/index.htm, (参照2014-05-01).
(27) 文部科学省. 高等学校用教科書目録(平成26年度使用). 2013, p. 34.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/mokuroku/25/__icsFiles/afieldfile/2013/04/26/1333777_03.pdf, (参照 2014-05-01).
(28) 情報検索の能力は、小・中学校段階である程度育成された前提で、高等学校段階からは削減されたものと考えられる。その他、新課程における各単元の取り扱い状況の変化は以下に掲載されている相関表を参照されたい。
“共通教科「情報」Q&A”. 愛知県総合教育センター.
http://www.apec.aichi-c.ed.jp/project/joho/H21/q_and_a/index.htm#qa_1_14, (参照 2014-05-01).
“ 共通教科「情報」Q&A ”. 愛知県総合教育センター.
http://www.apec.aichi-c.ed.jp/project/joho/H21/q_and_a/index.htm#qa_1_14, (参照 2014-05-01).
(29) しかし、利用者名が匿名化されていない生の履歴データのまま処理を行っている処理例もあり、あたかも実社会の図書館でも同様なことを行っているかのような誤解を与え、プライバシー保護の指導と矛盾する記載となってしまっている場合もある。このような教科書においては、年度ごとの微修正の中で、図書館の自由に関する宣言への言及や、あくまで仮想データを用いた例題である旨の注釈が追記されたものもあり、年々向上されているようである。
(30) 青山比呂乃. 司書教諭のいる学校図書館と情報教育の可能性 : 1つの事例報告. 情報の科学と技術. 2000, 50(8), p. 425-431.
(31) 萩原環. 教科「情報」とのコラボレーション授業. 現代の図書館. 2004, 42(1), p. 59-63.
(32) 藤間真, 志保田務, 谷本達哉, 西岡清統. 「情報」科目テキスト等における「図書館」(その2). 図書館界. 2005, 57(2), p. 112-119.
(33) 久野靖. 高校教科「情報」のこれまでとこれから(前). 情報処理. 2011, 52(4・5), p. 559-562.
(34) 中園長新. 高等学校における情報教育と学校図書館 —教科「情報」の実践事例を参考に—. LISN. 2011, (148), p. 1-4.
[受理:2014-08-11]
小野永貴. 教科「情報」と図書館. カレントアウェアネス. 2014, (321), CA1832, p. 22-27.
http://current.ndl.go.jp/ca1832
Ono Haruki.
Senior High School Subject “Information” and Libraries.