CA1822 – 大学間共同利用言語・文化図書館(BULAC)-欧州随一の言語・文化図書館- / Clotilde Monteiro

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カレントアウェアネス
No.320 2014年6月20日

 

CA1822

 

 

大学間共同利用言語・文化図書館(BULAC)-欧州随一の言語・文化図書館-

Bibliotheque universitaire des langues et civilisations:Clotilde Monteiro
(翻訳 収集書誌部逐次刊行物・特別資料課:本間渚沙・ほんまなぎさ)

 

1.ドキュメンテーション・多言語教育のための新たな施設

 大学間共同利用言語・文化図書館(BULAC)(1)は2011年12月12日、建築家イヴ・リオンの設計による新たな建物内に開館した。ここにはフランス国立東洋言語文化研究所(INALCO)(2)も同居しており、パリ13区のフランス国立図書館からほど近くの場所にある。

 BULACを設立するにあたっては、旧東洋語大学共同利用図書館(BIULO)と、4つの大学(パリ第1大学、パリ第3大学、パリ第4大学、パリ第7大学)(3)、そして5つの高等教育・研究機関(高等研究実習院、社会科学高等研究院、INALCO、フランス極東学院、フランス国立科学研究センター)が連携した。その設立により、これまでパリ及びその近郊14か所に分散していたコレクションが一か所に集結することとなった。そのコレクションの一部には今まで一般に公開されていなかったものもあった。BULACの蔵書が扱う範囲は、バルカン半島、中央・東欧、マグレブ、中近東、中央アジア、アフリカ、アジア、オセアニア諸国といった文化圏から、ネイティブアメリカン文明(南北アメリカ、グリーンランド)にまで及んでいる。つまり西欧の文明・言語や西欧に由来するものを除いた全世界を対象としているのである。

 

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BULAC外観の遠景写真
(C) Gregoire Maisonneuve / BULAC

 

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BULAC外観の近景写真
(C) Gregoire Maisonneuve / BULAC

 

  構想期間中(4)、司書や教員、研究者らは、その各文化圏について、資料収集方針の共有や書誌情報の交換を行うため、そして特にBULAC全体の収集方針を調整するために、定期的に参集した。最終的に、特徴ある研究・教育部門には、研究対象の文化・言語の多様性のために、並外れた規模(150万冊)の蔵書が集められた。そしてこの蔵書により、この新たな文献施設は、国際的なレベルの研究ツールとなっているのである。

 

2.BULACで利用可能な蔵書

 当館の閲覧室で利用可能な蔵書は以下のリストの通りである。なおBULACの目録は、リストに記載した資料だけを載せているわけではないという点に留意する必要がある。実際、この目録はBULAC計画の参加機関がそれぞれの施設で保管することを選択した非西洋語の蔵書も含んでいる。

  • BIULOの蔵書:パリ及びイル・ド・フランス地域の別々の5つの地から集められた最大規模のコレクション
  • ソルボンヌ図書館のスラヴ語コレクション(パリ第1大学)
  • ロシア語、ベラルーシ語、ウクライナ語コレクション(パリ第4大学スラヴ研究センター、スラヴ研究所)
  • インド学者ジュール・ブロック(Jules-Bloch)及びイラン学者ジャーム・ダルメステテール(James Darmesteter)のオスマン・トルコ語、フィン・ウゴル語派コレクション(パリ第3大学)
  • 韓国語コレクション、途上国社会研究センター(SEDET)コレクション(パリ第7大学)
  • インド学者シャーロット・ヴォードヴィル(Charlotte Vaudeville)とマドレーヌ・ビアルドー(Madeleine Biardeau)のコレクション(高等研究実習院)
  • 社会科学高等研究院の各研究センター(アフリカ研究センター、ロシア・カフカス・中欧世界研究センター、近現代中国研究センター、インド・南アジア研究センター、日本研究センター、朝鮮研究センター)の主要な蔵書、定期刊行物及び個人コレクション
  • フランス極東学院のチベット語コレクション、クメール語、中国語、日本語等の定期刊行物

  

3.多言語かつ多種文字体系の目録

 以上の蔵書には、約350の異なる言語(そのうち90の言語についてはINALCOで教えられている)と、既知のほぼ全ての語族に及ぶ数十種の文字体系で書かれた資料を含んでいる。それらの蔵書を移転しながら、規模が様々で多少なりとも互いに重複した東洋学コレクションを統合するためには、出来うる限りの正確さでそれらを同定していかなければならなかった。それが総合目録構築の目的である。この総合目録においては多言語かつ多種の文字体系によるデータを集約し、しかも利用者に対してそれらを同時に表示しなければならないため、全くもって独特なものといえる。この重要な課題は、世界の何処においてもまだ十分に達成されてはいないのである。しかしながら、万国共通の文字コード体系であるUnicodeの発達により、今日知られている大部分の文字体系でこの課題は達成可能になっている。BULACは構想当初から、この多種の文字体系を扱う目録の開発を重要な任務の一つとしていた。2005年以降、学生や研究者はこのツールを利用し、BULACの目録を構成している資料の書誌記述を、翻字と同時にオリジナルの文字によっても見つけることが可能になったのである。

 

4.研究者のための図書館

 BULACの主な目的の一つは、研究者にとって蔵書を利用しやすいものにし、彼らに蔵書構築や管理に関して実質的な発言力を持たせることであった。そのことはBULACの当初のコレクションを豊かなものにしていた蔵書のほぼ半数が、国際的に著名な研究者らにより直接組織された図書館や資料センターに由来するものだということからもうかがえる。資料方針に関する継続的な共同作業が実施され、そこでは資料収集の優先度を決定したり、例えば外国で活動する研究者による資料の購入を可能にしたりするような資料編成を実現することが図られた。BULACにおける教育・研究連携ミッションはこの精神によって確立されたのである。教育・研究連携ミッションは、BULACと同館が対象とする地理言語学分野の研究者との交流を活発化させるために設立されたBULACにとってまさになすべきことである。その目的は、研究者と司書との交流を奨励すること、図書館蔵書を活用すること、研究者にとってBULACの施設を利用しやすくすること、研究者に対し資料を届ける仕組みをつくること、BULACを研究ネットワークに組み込むことである。このミッションが想定する利用対象者は世界の文化的、政治的、経済的に多様な分野について研究する教員、研究者、博士課程学生、ポスドクとなっている。

 研究者は図書館において自らのニーズに合った作業スペースを自由に使うことができる。閲覧室、個室(閲覧者が連続した複数日を予約することが出来、人を招いたりもできる個人閲覧室)、グループ用研究室とも、24時間、予約、利用が可能である。

 

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グループ用研究室の写真
(C) Gregoire Maisonneuve / BULAC

 

 だがBULACはこうした研究者の利用者に向くことをだけを重視しているわけではない。計画の考案者であるモーリス・ガルダン(Maurice Garden)は2007年に行われた対談の中で次のようにはっきり述べている。「私たちは学生のための図書館と研究者のための図書館との間の矛盾、つまりどちらかが多くなればどちらかが少なくなり、どちらかが利用しやすければもう一方はしにくくなるという矛盾を常に認めてきました。私はBULACにおいて研究に必要なツールを提供しつつも、教育課程の学生に開かれた図書館にすることで、こうした考えを克服することをしきりに奨励してきたのです。」BULACは開館以降2万5千人の閲覧者を受け入れてきた。週6日間、10時から22時まで開館しており、18歳以上であるという唯一の条件をクリアすれば登録により無料で全ての人が利用できる(18歳に達していない場合はバカロレアの資格を取得しているか、高校で西洋語以外の言語を一つ学んでいれば利用可能である)。利用はBULACの設立母体に由来する学生や教員、研究者が優先されている。一般利用者は資料を借りる権限はないが、書庫資料の閲覧や電子情報源、キオスク(5)、外国語学習ツールの利用、パソコンの貸与、本に関するシンポジウムや交流会といったホールでの文化活動への参加等多くの無料サービスを優先利用者と同じように館内で受けることが出来る。

 

5.BULACの日本コレクションについて

 最後に、パリに立ち寄りBULACを利用しようと考えている日本人のために、日本分野に関するいくつかの情報を提供しよう。

 日本の国文学研究資料館の研究者らが、2001年3月から2005年11月まで和古書目録を編集するために年に数回訪れており、目録は2006年3月に出版された。そこにはBULACが所有している刊本(冊子・地図)と約30の写本が収められている。タイトルは『パリ東洋語図書館蔵日本書籍目録:1912年以前』である。目録には1605年から1912年の間に日本語や欧州言語(フランス語、ドイツ語、英語、ロシア語)で作成された1,691の書誌情報が記載されている。

 BULACはフランスの中で最も古く、最も大規模な日本コレクションを収蔵している。この分野における蔵書は書籍6万2千点(うち4万点は日本語資料)、雑誌147タイトルから成っている。この分野が実際に創設されたのは、1853年の日本の開国と、1863年に東洋語学校で日本語の授業が開始されたことの結果である。そしてこのコレクションは日本が高度経済成長を経験していた1960年代に飛躍を遂げた。コレクションに含まれる主な分野は、アイヌ語を含む言語学、文学、歴史、次に哲学、社会科学となっており、一次資料(全集、アンソロジー、国及び地域の歴史資料)もまた含まれている。書庫には、特定の条件を満たせば利用することが出来る貴重資料があり、例えば「婚礼大嶋台」などが収蔵されている。

 

(1) BULAC. http://www.bulac.fr/, (accessed 2014-05-19).

(2) INALCO. http://www.inalco.fr/, (accessed 2014-05-19).

(3) パリ大学を構成する大学のうち、パリ第1大学(パンテオン・ソルボンヌ)、パリ第3大学(新ソルボンヌ)、パリ第4大学(パリ・ソルボンヌ)、パリ第7大学(ドゥニ・ディドロ)。

(4) 構想は2000年7月にさかのぼる。この時世界の言語・文化のための図書館の建設とINALCOの建替え・拡張の決定について定めた国/地域圏計画契約第11条が公示されたためである。また、建設工事の開始通知は2008年7月にかわされている。

(5) BULACが対象とする全ての国の雑誌や新聞を読むことが出来る交流スペースとなっている。

 


Clotilde Monteiro. 大学間共同利用言語・文化図書館(BULAC)-欧州随一の言語・文化図書館-. カレントアウェアネス. 2014, (320), CA1821, p. 5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1821

Clotilde Monteiro.
(Translation: Honma Nagisa).
La Bibliotheque universitaire des langues et civilisations (BULAC): Une bibliotheque de langues et civilisations unique en Europe.

Acknowledgement:
Aude le Moullec Rieux helped to write this article during her internship.