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カレントアウェアネス
No.304 2010年6月20日
CA1716
図書館によるTwitter活用の可能性
シンプルなサービス「Twitter」旋風
近年、Twitter(ツイッター)というウェブサービスが話題である。本稿では、様々に指摘されているTwitterの特徴のうち一部を取り上げながら、図書館によるTwitter活用の可能性を探る。
2009年以降、Twitter旋風とも言われるほどに注目を集めているが、その正体は、「ツイート(tweet)」と呼ばれる140字以内のメッセージをウェブ上に投稿するという、至ってシンプルなサービスである。無料のユーザ登録をすれば、誰でもツイートを投稿できる。さらに、気に入ったユーザがいれば、「フォロー(follow)」することができ、ユーザに割り当てられたホームページには、自らのツイートとフォローしているユーザのツイートが時系列に表示され、それらを一覧することができる。
2006年に米国でサービスを開始したTwitterは、2009年に主要なメディアによる報道や著名なユーザの影響で急激にユーザ数を伸ばし(1)、2010年4月現在、全世界の登録ユーザ数は1億人を超えているという(2)。また、2010年4月には、米国議会図書館(LC)が、公開されている全てのツイートをアーカイブする方針を発表した(E1042参照)(3)。学術・研究目的での使用が想定されており、具体的な活用はこれからではあるが、Twitterへの注目の高さが伺える出来事だと言えるだろう。
日本においても、2009年に各界の著名人がTwitterを使い始めたことで、注目を集めた。Twitterを活用する「ツイッター議員」も増加しており、2010年1月1日には、当時の鳩山由紀夫首相がTwitterを開始し、その存在はより広く知られるところとなった。
投稿内容の自由度は高い
ツイートを書き込む投稿ボックスの上部には、「いまどうしてる?」と書かれており、自分の現在の状況を投稿することが想定されているようにも見える。しかし、実際のツイートの内容は、それにはとどまらない。特定の事象に対する自らの考え、気になったニュースへのリンク等も数多く投稿されている。また、ユーザは個人に限らず、テレビ局や新聞社等のメディアによる広報情報やニュースの配信を始め、企業による活用例も多く見られる。
図書館においても、米国を中心に、イベントの案内や休館日のお知らせのためにTwitterを利用する例が増加している(E888参照)。正確な統計情報はないが、Twitterを使用している図書館のリストがまとめられているブログで確認できるだけでも、米国で600館以上(4)、米国以外で100館以上(5)の図書館がTwitterを使用していることがわかる。
日本においては、図書館関連のユーザのまとめ(6)やユーザ検索サービスを用いて調べたところ、図書館による公式なTwitterの使用と思われる事例は、試行段階のものも含めて10館前後である。
例えば、千葉県横芝光町立図書館では、Twitterを利用し、イベント情報や新着図書、地域に関する新聞記事の紹介等をしている(7)。郡山女子大学図書館では、実験中ではあるが、自館及び福島県内市町村の新着情報を、ブログ等の更新情報を自動でTwitterに投稿できる「Twitterfeed」というサービスを利用して配信している(8)。図書館からの情報発信だけでなく、福島県の気象情報や地域のイベント情報も提供している点が特徴的である。
国立国会図書館のウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」では、Twitterを利用し、図書館界・図書館情報学に関するニュース速報「カレントアウェアネス-R」のタイトル等を配信するサービスを試行している(9)。
また、2010年9月に奈良で開催される全国図書館大会のニュースを発信するために、奈良県立図書情報館でもTwitterの利用を開始している(10)。「白鹿くん」というキャラクターがしゃべっているという形式をとっており、全国図書館大会の準備の様子や同館からのお知らせが、親しみやすい言葉づかいで発信されている。
Twitterによるコミュニケーションと情報伝播
これまで例に挙げた図書館によるTwitter利用事例は、一方的な情報発信をするものが中心であった。しかし、Twitterにはユーザ間のコミュニケーションを可能にする機能がある。図書館での活用事例や筆者自身の経験に沿って、コミュニケーションの機能を見てみたい。
神戸大学附属図書館では、神戸大学学術成果リポジトリ「Kernel」や震災文庫、新聞記事文庫等のデジタルアーカイブについての情報発信にTwitterを活用している(11)。新たに公開した資料の紹介やサービスに関するお知らせを発信する一方で、文頭に「@ユーザ名」をつけて投稿することで、他者にも公開された状態で特定のユーザ向けの投稿をすることができる「リプライ(Reply)」という機能を用いて、図書館関係者との情報交換や利用者からの質問等への対応を行なっている。さらに、他のユーザのツイートを引用して再投稿する「リツイート(ReTweet)」という機能を使って、同館のサービスのメディアへの掲載情報等を再投稿している。同館のツイート全体から見れば、リプライやリツイートの使用頻度は決して高いわけではないが、これらの機能を活用することで、図書館と他のユーザ間のコミュニケーションが生まれている。
また、筆者もTwitterユーザであり、これまで例に挙げてきたような図書館によるTwitterをフォローしている。それらのツイートの中に気になるイベント情報やニュースがあれば、自分のための覚え書きも兼ねて、リツイートすることがしばしばある。筆者をフォローしているユーザの中には、特に図書館に興味のない人、図書館によるTwitterの存在を知らない人も数多くおり、筆者がリツイートすることで、普段は図書館が発信する情報に触れることのない人が、その情報にふれる可能性が高くなる。こうしたリツイートが繰り返されれば、情報は急速に、かつ広域に伝播される。このように、1つ1つのツイートは強力な情報伝播力を秘めており、この情報伝播力の強さは、Twitterの大きな特徴の1つであると言われる。
発想を形にするための基盤を作り、より豊かな社会へ
今後、図書館によるTwitter利用は増加するだろう。ただし、Twitterはあくまでも補完的なツールであり、図書館のサービスそれ自体ではない。図書館には、蔵書や図書館員のノウハウといった知の蓄積があり、まずそれらを提供する基本となるサービスをより整備・充実させることが大前提である。その上で、これまで述べてきたTwitterの特性をふまえ、図書館によるTwitter活用の姿について考えたい。
例えば、1人の専門家によるツイートや専門家ではない複数人のTwitter上でのコミュニケーションの中から、商品やサービスについてのアイデアが生まれたとする。図書館は、そのアイデアを形にしていくための手助けをできないだろうか。ただ新着図書を紹介するのではなく、テーマをもって蔵書を紹介すれば、図書館には商品開発等に有用な資料もあることを知ってもらうことができる。調べ方のノウハウを公開やレファレンスサービスについても、Twitterを補完的なツールとして利用し、Twitter上での簡易なレファレンスサービスを展開することも考えられる。すべてを図書館で担おうというのではないが、これまでであれば些細な思いつきとして実を結ぶことのなかったアイデアが形になっていくための知的基盤の一部を担えるのではないだろうか。そうして、図書館が社会により根ざしたものとなるためのつなぎ目として、Twitterというツールを据えることもできる。
新しいツールに飛びつけばいいというものではないが、まずは、Twitterが図書館サービスをより充実させるため、そして社会がより豊かになっていくための契機になりうるか、その可能性を考えてみてもいいのではないだろうか。
総務部情報システム課:原 聡子(はら さとこ)
(1) “Inside Twitter”. Sysomos.
http://www.sysomos.com/insidetwitter/, (accessed 2010-05-20).
(2) 特集, 2010年ツイッターの旅 : 140字、1億人の「つぶやき」革命. 週刊ダイヤモンド. 2010, 98(4), p. 28-69.
(3) Raymond, Matt. “How Tweet It Is!: Library Acquires Entire Twitter Archive”. Library of Congress Blog. 2010-04-14.
http://blogs.loc.gov/loc/2010/04/how-tweet-it-is-library-acquires-entire-twitter-archive/, (accessed 2010-04-20).
(4) Brown, Lindy. “Libraries on Twitter (updated list)”. Circulation.
http://lindybrown.com/blog/2009/01/libraries-on-twitter-updated-list/, (accessed 2010-04-21).
(5) Brown, Lindy. “International Twittering Libraries”. Circulation.
http://lindybrown.com/blog/2009/03/international-twittering-libraries/, (accessed 2010-04-21).
(6) “図書館関連アカウントまとめ用(lib_list)”. Twitter.
http://twitter.com/lib_list, (参照2010-05-24).
(7) “横芝光町立図書館 (lib_yhikari)”. Twitter.
http://twitter.com/lib_yhikari, (参照 2010-05-12).
(8) “郡山女子大学図書館(実験中) (LibKGC)”. Twitter.
http://twitter.com/libkgc, (参照 2010-05-12).
(9) “国立国会図書館関西館図書館協力課 (ca_tweet)”. Twitter.
http://twitter.com/ca_tweet, (参照 2010-05-12).
(10) “奈良県立図書情報館 白鹿くん (nplic)”. Twitter.
http://twitter.com/nplic, (参照 2010-05-24).
(11) “Kobe Univ. Kernel (kobekernel)”. Twitter. http://twitter.com/kobekernel, (参照2010-05-24).
Ref:
津田大介. Twitter社会論. 洋泉社, 2009, 191p.
原聡子. 図書館によるTwitter活用の可能性. カレントアウェアネス. 2010, (304), CA1716, p. 4-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1716