CA1698 – これからの学校図書館―新学習指導要領と教育の情報化をめぐって / 森田盛行

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カレントアウェアネス
No.302 2009年12月20日

 

CA1698

 

これからの学校図書館―新学習指導要領と教育の情報化をめぐって

 

新学習指導要領と学校図書館

 1997年の学校図書館法改正以来、学校図書館が変わり、現在の社会の変化によりさらに大きく変わろうとしている。1997年の法改正に伴い、2003年4月1日より12学級以上の学校には司書教諭の配置が義務づけられた。これにより、全国の小・中・高等学校約2万校に司書教諭が配置された。さらに、司書教諭講習規程の見直しが行われた。従来は7科目8単位であったが、科目を整理統合し内容も現代化を図り、単位数も2単位増加した。

 21世紀は、新しい知識・情報・技術が社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す「知識基盤社会」とされている(1)。これを前提に学習指導要領も社会の変化に対応し2008年3月に改訂された。

 すでに学校現場では一部で先行実施されている新学習指導要領は、2011年度(高等学校は2013年度)から全面実施される。学校図書館については、小学校学習指導要領の総則では、「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り、児童の主体的、意欲的な学習活動や読書活動を充実すること」と規定し、他の校種も児童と生徒の表記が異なるだけで記述は同じとなっている(2)。この記述は、1998年に改訂された現行学習指導要領と同じである。これまでの改訂ごとに学校図書館に関する記述が充実してきた経緯から見て、さらに先を見通した内容に改訂されることが予想されたが、現行のままで変更がなかった。しかし、文言こそ以前と変わりはなかったが、実際には今回の改訂により、学習指導や読書指導において学校図書館の果たす役割は一層重要なものとなった。

 今回の改訂では、以下の三点を基本方針とした。

①教育基本法改正等で明確となった教育の理念を踏まえ「生きる力」を育成すること。

②知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視すること。

③道徳教育や体育などの充実により、豊かな心や健やかな体を育成すること。

この内の②の方針を受けて、総則の「指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」に「各教科等の指導に当たっては、児童の思考力、判断力、表現力等をはぐくむ観点から、基礎的・基本的な知識及び技能の活用を図る学習活動を重視するとともに、言語に対する関心や理解を深め、言語に関する能力の育成を図る上で必要な言語環境を整え、児童の言語活動を充実すること」(下線は筆者)とした(3)。これを受けて各教科においても各種の言語活動を行うこととなり、学習指導要領解説の総則編では、前述②の思考力・判断力・表現力等を育むために各教科において「記録、要約、説明、論述といった学習活動に取り組む必要がある」とした(4)

 総合的な学習の時間は、時間数こそ減ったが、旧学習指導要領での総則の一部としての扱いから、独立した章に格上げとなった。総合的な学習は教科横断・総合的な学習や探究的な学習であり、まさに学校図書館を必要とするものである。

 これからは各教科・領域で全校の教員が言語活動の指導を行うことになる。これを教科書だけで行うことは困難であり、豊富な図書を有する学校図書館が各教員をサポートすることになる。文部科学省は、2009年度からの「学校図書館の活性化推進総合事業」の一つとして「教員のサポート機能強化に向けた学校図書館活性化プロジェクト」を行っている。これは学校図書館に教員用の図書を用意するだけではなく、司書教諭・学校司書が担任と協力して教材研究や教材の作成を行ったり、教育実践上の有用な情報を提供したり、そのためのスペースとして専用の教材図書室やコーナーを設けたりすることの有用性を調査するものである(5)

 

学校図書館評価基準の活用

 これからの学習指導や読書指導には、教科書やICTだけではなく、学校図書館の活用が欠かせない。その前提条件として、学校図書館の環境が整備されている必要がある。学校図書館メディア、施設・設備等のハードの面は各種の基準で整備できるが(6)(7)、経営・運営等のソフトの面は学校図書館担当者の経験やこれまでの慣習等で行っていた感が強い。これからの学校図書館は従来の運営だけではなく、組織を経営(マネジメント)する視点が必要となる。近年、経営学の手法であるPDCAサイクルが学校経営にも取り入れられてきた。そのサイクルでは評価(Check)が重要となる。評価のための標準的な基準として全国学校図書館協議会により「学校図書館評価基準」が2008年に作成された(8)。この基準の作成に携わった須永は、学校図書館の経営・活動・環境などの改善点を提案し、サービスの向上を目的とする、と基準の作成意図を述べている(9)。この基準で各項目を数値化することにより、弱点、課題等を客観的にとらえることができ、今後の年間経営計画や改善計画に役に立つものと期待されている。

 

学校図書館の情報化

 情報技術の発展と共にコンピュータの高性能化、小型化、低廉化及び高速・大容量通信網の普及が進み、社会の情報化が一挙に進展した。2008年末の我が国のインターネット利用人口普及率は75.3%であり、まさに国民の大部分がインターネットを利用していることになる(10)

 教育の面においても情報化が進むことになった。1999年に産学官の体制で新しい産業を生み出す大胆な技術革新に取り組むミレニアム・プロジェクトが立ちあがった。その中の一つが「教育の情報化」である。2005年度までに全ての学校がインターネットにアクセスでき、校内LANが整備され、全ての学級のあらゆる授業で教員及び生徒がコンピュータを活用できる環境の整備を目指すことになった(11)

 こうした施策の下、学校図書館においても情報化が図られた。当初は高等学校で学校図書館の事務処理を主な目的としてスタンドアロンでコンピュータの導入が始まった。次いで、インターネットの利用と校内LANの整備も進み、コンピュータ室だけではなく、学校図書館にも情報コンセントが設置されてきた。

 文部科学省は学校図書館の蔵書のコンピュータ管理等の実証研究を目的とする、以下のような学校図書館の情報化を進展させる施策を展開した。

①「学校図書館情報化・活性化モデル地域事業」(1995~2000年度)

②図書等の共有化を研究する「学校図書館資源共有型モデル地域事業」(2001~2003年度)

③学校図書館のネットワーク化を目指す「学校図書館資源共有ネットワーク推進地域事業」(2004~2006年度)

これらの一連の施策により、学校図書館担当者が持つ、学校図書館にコンピュータが置かれることに対する違和感が払拭されていった。

 コンピュータの用途は、小中学校では貸出・返却、資料検索、蔵書点検が多く、高等学校はインターネットの利用が最も多い。これからの学校図書館はレファレンス用資料を中心にインターネットにより情報資源にアクセスすることが多くなるが、小中学校の現状では、まだ環境が整っているとは言い難い。全国学校図書館協議会の行った2008年度の調査(12)によると、学校図書館においてコンピュータを導入している学校の割合は、小学校52.0%、中学校57.5%、高等学校89.6%であり、小中学校での導入が遅れている。1校あたりのコンピュータの平均台数は、小学校1.7台、中学校1.8台、高等学校3.8台と少ない。導入が遅れている原因の第1位は予算不足、第2位は専任の図書館担当者がいないこと(高校を除く)をあげている。学校図書館の情報化においても「人」の問題が隘路になっていることがわかる。

 学校図書館では従来、学校図書館の利用法を指導する「利用指導」が行われてきたが、これからは学校教育において一層重視されてきている情報活用能力の育成が大きな課題となる。教科等で情報活用能力の育成指導を行うのは各教員だが、司書教諭・学校司書は、その指導法を各教員に伝えたり、チーム・ティーチング(TT)として共に指導したりする。しかし、学校図書館として児童生徒への指導法、教員への支援の方法についてはまだ十分確立しておらず、学校現場で実践が積み重ねられているところである。堀川らは、これらに対応するために司書教諭は常に情報に関する新しい知識、技術を評価し取り入れることの重要性を指摘している(13)。これまで図書を中心に経営・運営をしてきた学校図書館にとっては、社会の情報化に遅れて対応するのではなく、先取りした形で行うことが要求されることになる。

全国学校図書館協議会:森田盛行(もりた もりゆき)

 

(1) 中央教育審議会. 我が国の高等教育の将来像(答申). 2005, 189p.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05013101.htm, (参照 2009-10-13).

(2) 文部科学省. “第1章 総則”. 小学校学習指導要領. 東京書籍, 2008, p. 17.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/sou.htm, (参照 2009-10-13).

(3) 文部科学省. “第1章 総則”. 小学校学習指導要領. 東京書籍, 2008, p. 16.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/sou.htm, (参照 2009-10-13).

(4) 文部科学省. “第1章 総説”.小学校学習指導要領解説 総則編. 東洋館出版社, 2008, p. 2.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16/1234931_001.pdf, (参照 2009-10-13).

(5) 文部科学省. “16. 学校図書館の活性化推進総合事業(新規)”. 文部科学省事業評価書 -平成21年度新規・拡充事業等-. 2008, p. 69-74.
http://www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/kekka/08100105/020.htm, (参照 2009-10-13).

(6) “学校図書館メディア基準”. 全国学校図書館協議会.
http://www.j-sla.or.jp/material/kijun/post-37.html, (参照 2009-10-13).

(7) “学校図書館施設基準”. 全国学校図書館協議会.
http://www.j-sla.or.jp/material/kijun/post-38.html, (参照 2009-10-13).

(8) “学校図書館評価基準”. 全国学校図書館協議会.
http://www.j-sla.or.jp/material/kijun/post-44.html, (参照 2009-10-13).

(9) 須永和之. 学校図書館評価基準(成案)策定について. 学校図書館. 2008, (699), p. 47-48.

(10) “平成20年通信利用動向調査の結果(概要)”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/main_content/000016027.pdf, (参照 2009-10-13).

(11) “ミレニアム・プロジェクト(新しい千年紀プロジェクト)について”. 首相官邸.
http://www.kantei.go.jp/jp/mille/991222millpro.pdf, (参照 2009-10-13).

(12) 全国学校図書館協議会研究・調査部. 2008年度学校図書館調査報告. 学校図書館. 2008, (697), p. 51-53.

(13) 堀川照代ほか編. インターネット時代の学校図書館. 東京電機大学出版局, 2003, 173p.

 


森田盛行. これからの学校図書館―新学習指導要領と教育の情報化をめぐって. カレントアウェアネス. 2009, (302), CA1698, p. 3-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1698