CA1694 - 動向レビュー:今日のトップ・ニュース「米国の新聞が絶滅危惧種に指定されました!?」 / 水野剛也

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カレントアウェアネス
No.301 2009年9月20日

 

CA1694

動向レビュー

 

今日のトップ・ニュース
「米国の新聞が絶滅危惧種に指定されました!?」

 

「私たちが地域や国、世界を学ぶ源だった新聞が、今や絶滅危惧種のようなありさまだ。」

ジョン・ケリー(John Kerry、米連邦議会上院議員、元民主党大統領候補者)(1)

「テレビニュースは優れた新聞の代わりにはならない…(中略)…。国民がニュースの情報源をもっぱらテレビに依存するようになれば、民主主義の屋台骨が危うくなると言っても過言ではない。」

ウォルター・クロンカイト(Walter Cronkite、元CBSニュース・アンカー)(2)

 

はじめに

 本稿の目的は、最近の米国新聞界の動向、とくに現在ある「新聞」という形式の媒体が深刻な危機に直面している現状を、いくつかの具体的事例やデータにもとづき、できるだけ簡素に報告することである。

 現状報告(本稿執筆時は2009年6月末)であるため、普遍性のある学術的知見を示すことはできないが、それでも米国における新聞産業の苦境を本誌で紹介する意義はけっして小さくない。それは、大きく以下の3つの理由による。

 第1に、米国ほどではないにせよ、日本の新聞業界も後退期に入っていることは明白であり、日本の新聞の将来を考える上で米国の事例は有用な判断材料や教訓を提供してくれる可能性がある。

 第2に、活字媒体の代表的存在である新聞を読むという行為には、単に新聞だけにとどまらず、印刷物を読むという、より大きなレベルの知的文化活動を支える重要性がある。日常的に新聞を読むという習慣が廃れれば、直接的・間接的に、人類の「読む文化」にさまざまな形で変化をもたらす。この意味で、新聞という媒体の危機について考えることは、活字文化、および出版文化そのものの未来について考える作業につながる。

 第3に、日米の多くの識者が指摘しているように、新聞の衰退はその社会の民主主義のゆくえを左右する重大な問題をはらんでいる。なぜなら、これまで新聞は政府官憲をはじめ権力をもつ者の不正を暴いたり、重要な社会問題について人々に共通の知識や意識をもたせたりすることで、民主社会が健全に機能する上で不可欠な役割をはたしてきたからである。もちろん、新聞だけが民主主義を支えてきたわけではないが、ジャーナリズムの中枢でありつづけてきた新聞の後退は、社会・国家全体のあり方に重大な影響を及ぼしかねない。

 以上の問題意識を背景にすえながら、本稿は米国の新聞業界が直面している現状をレビューし、その上で新聞の衰退がもたらす社会的弊害について指摘する。

 

恐竜化しつつある新聞

 現在、米国の新聞界はきわめて苦しい状況にある。あらゆる面で、成長する余地は限りなく小さく、明るいきざしは見えない。少なくとも米国についていえば、「新聞を発行・配達する」という意味での新聞事業は、完全に衰退期に入っている。

 そのことを端的にあらわしているのが、首都ワシントンD.C.の有力紙『ワシントン・ポスト』(2009年2月22日付)に掲載された1枚の風刺漫画である。新聞の売り子が配っている号外には、経営難に苦しむ自動車大手3社(ビッグ3)を「困った恐竜」(Dinosaurs in Trouble)と揶揄する見出しが躍っている。しかし、そう報道する新聞の売り子も同じ「恐竜」だという内容である(3)

 笑っている場合ではない。なぜなら、この漫画の描く世界がすでに現実化しはじめているからだ。その約2か月後、ビッグ3の一角クライスラーが連邦破産法第11章の適用を申請し、経営破綻した。米国・カナダ両政府は、約100億ドルの融資を追加し、経営立て直しのための支援をつづけることを決定した。さらに、それから2か月もしないうち、次はゼネラル・モーターズ(GM)も破産法の適用を申請した。同社の場合、米国政府が一定期間、新GMの株式の過半数を取得し、形式的には「国有化」される事態になった。

 新聞もほぼ同様で、伝統ある新聞社の経営破綻や廃刊があとをたたない。見方によっては、ビッグ3よりも新聞の方がはるかに絶滅の危機に瀕しているといえる。新聞の場合、政府の経済的支援を受ける可能性は相当に低いからである。市民を守る番犬として政府と距離をとることを運命づけられたこの恐竜は、文字通り自力で生き残らなければならないのである。

 

No News is Good News

 本来は「知らせがないのは、よい知らせ」という意味だが、今の米国新聞界には「よい知らせは何もない」としか読めないだろう。実際に、悪いニュースは枚挙にいとまがない。いみじくも、ボストンに本社を置く高級全国紙『クリスチャン・サイエンス・モニター』のコラムで、ある教育史学教授はこう述べている。「今日、新聞を開いて、新聞について悪いニュースを読まない日はない」(4)

 さらに皮肉なのは、このコラムを掲載した『クリスチャン・サイエンス・モニター』自体が、もう「開いて」読む新聞ではなくなっている事実である。2009年4月から、同紙は「紙」媒体の発行を基本的に停止し、報道活動の中心をウェブサイトに移した。部数が低迷しつづけ、赤字が累積した末の経営的判断であった。もはや、「新聞」という媒体と「新聞社」は、イコールではなくなっている。

 それでも多くの新聞社は「新聞」を発行しているが、肝心の部数は減少をつづけ、下げ止まる気配さえ見えない。主要な新聞の公式部数をとりまとめているABC(米国発行部数公査機構)のデータ(2008年10月〜2009年3月)によると、395の日刊紙(平日版)の総発行部数は約3,444万部で、前年の同時期と比べ7%も減少している。「7%」という数字だけを見れば、さほど深刻でないように思えるかもしれないが、部数はここ数年連続で減りつづけており、しかもその減少率は悪化している。2008年4-9月期の減少率は前年同期比で4.6%であった。主要紙のなかには2桁の減少率を記録している社もめずらしくない。唯一、そのなかで部数を微増させているのは、経済専門紙の『ウォール・ストリート・ジャーナル』だけである(5)

 部数の減少と連動して、当然、広告収入も下降している。NAA(米国新聞協会)が集計したデータによれば、2008年の新聞の総広告収入は前年に比べ16.6%も落ち込んだ。集計をはじめた2003年以来、堅調に伸張してきたオンライン広告でさえ、1.8%の減少を記録した(6)。サブプライム・ローン問題を契機とする経済悪化が大きな影響を及ぼしている。2009年も広告収入の低下が加速することはほぼ確実である。広告収入よりも販売収入を主とする日本の新聞社に対し、米国の新聞社は広告収入を主としてきた。それだけに、広告収入の不振によるダメージは甚大である。

 なぜこのような現状を招いたのか、さまざまな要因が指摘されている。主要なものをあげると、インターネットの発達と浸透、無料紙の出現、世界的な経済の停滞、人件費・印刷費・配達費など経費の上昇、とくに若い世代の新聞離れ、販売収入よりも不安定な広告収入への過度の依存(総収入の70〜80%)、これらの問題への対応の遅れ、などがある。しかし、いずれも単独で新聞業界を苦しめているわけではなく、それらすべてが相乗的に作用し「スパイラル」で問題を悪化させている。だからこそ、その連鎖を断ち切るのは一層困難になっている(7)

 

対策も効果なし

 当然、どの新聞社も懸命に生き残り策を講じている。ここ数年でとられた対策例としては、吸収・合併、買収・売却、解雇など人員削減、国内外の支局の閉鎖、給与カット、年金など福利厚生の凍結、発行頻度の縮小、宅配の縮小・停止、別刷りの縮小・廃止、ページ数削減、オンライン版への移行、編集作業の一部外注、資産の売却、ネットニュースの有料化、などがある。

 しかし、それら対応策のほとんどは後手にまわった対症療法にすぎず、問題を根本的に解決するにはいたっていない。その証左として、解雇や給与削減をくり返したあげく、廃刊に追いやられるケースがあとを絶たない。2009年中の主要な事例では、コロラド州デンヴァーの日刊紙『ロッキー・マウンテン・ニューズ』の廃刊がある。実に150年の歴史をもつ名門紙であったが、経営難の末、買い手を見つけることができず、2009年2月27日号を最後に発行を停止してしまった。その結果、200人以上の社員が職を失った。それから1か月もしない3月17日には、創刊146年目となる『シアトル・ポスト=インテリジェンサー』も輪転機をストップし、翌日からオンライン版だけで存続することになった。

 それでも、大都市の主要紙の多くはかろうじて廃刊を免れているが、社の存続をかけて人員削減をくり返した結果、珍妙な現象が起きるようにもなっている。2009年5月、ロサンゼルスで1人の新聞記者が解雇されたことで、大リーグの名門球団・ドジャースを担当する地元記者がついに1人になってしまったのである。10年前には、実に8人の記者がドジャースを専門に追っていたという。巨人や阪神を取材する記者がたった1人しかいない。そんな想像しがたい事態が、米国では現実に起こっているのである(8)

 しかも、スポーツ報道だけならまだしも、首都ワシントンD.C.を取材する記者数さえも削られつづけている。連邦議会から取材許可を得た新聞記者数は、1997年から2009年の間に約30%も減ってしまった(9)。なお、この傾向は新聞だけでなくテレビの3大ネットワークにもあてはまり、その結果として、奥村信幸が指摘しているように、報道される社会問題が極端に限定されるようになってしまった。報道内容の多様性が失われることは、民主主義を健全に維持する上で大きな障害となりえる(10)

 

あの『ニューヨーク・タイムズ』も

 米国の新聞ジャーナリズムを引っ張ってきた『ニューヨーク・タイムズ』(以下、『タイムズ』)とて、けっして例外ではない。この事実に、米国の新聞界が直面している危機の深刻さが集約されている。

 『タイムズ』といえば、米国はもとより、世界でもっとも影響力のある報道機関の1つであり、そのニュース・論評の質の高さは自他ともが認める高級紙である。その証左として、各年でもっとも優れた報道に贈られるピュリツァー賞の受賞回数で、『タイムズ』はライバル紙を圧倒している。2009年4月に受賞した5つを含めて、通算で101回もピュリツァー賞を獲得している(11)

 ところが、そのジャーナリズムの最高ブランドさえもが、生き残るためにもがき苦しんでいる。前述したABCによれば、2009年3月までの半年間の部数は約104万部で、これは前年同時期に比べ3.6%の減少である。『タイムズ』自身が公表した2009年第1四半期の決算報告でも、不調を示す数字ばかりがならんだ。販売収入こそ前年同期比で1%増であったものの、それは購読料の値上げの効果によるものであり、広告収入は28.4%も減少し、総収入は18%強のマイナスとなった。同四半期における損失額は7,450万ドルであった(12)

 2009年に入ってから発表された経営立て直し策を見ても、明るさはまったく見えてこない。主だった対策を紹介すると、1月からは本紙1面にカラー写真つきのビジュアル広告を掲載するようになった。「大恐慌以来最悪の収入減に対する譲歩」であった(13)。3月には、2007年に完成したばかりの本社ビルの自社保有分の一部を売却した(14)。さらに同月、ほとんどの社員の月給を2009年いっぱい5%カットすると発表した。日本の主要紙も経営に苦しんでいるが、ここまで切迫している社は少ない。冒頭の引用でジョン・ケリー上院議員が憂慮したように、米国の新聞ジャーナリズムが「絶滅危惧種」に指定される日が、本当にくるかもしれない。

 

新聞の衰退がもたらす社会的弊害

 しかし、より本質的な問題は、新聞界の不振が単にある1つのニュース媒体の凋落にとどまらず、民主社会そのものを弱体化・空洞化させる危険をはらんでいることである。これまで新聞がになってきた重要な機能、たとえば、市民として最低限知るべき情報の取捨選択や社会不正の告発や権力監視をネットや他のメディアが完全に代替できるなら、問題はさして深刻ではない。しかし、少なくとも現在のところ、新聞が抜けた穴を他のメディアが埋めることは、現実としてかなり困難であるといわざるをえない。同じことは日本社会にもあてはまる。

 新聞の衰退がもたらす社会的弊害は多いが、日米に共通するとくに重要度の高い3点を指摘して、本稿を締めくくる。

 第1に、人々が新聞を避け、もっぱらネットで興味ある情報だけを摂取するようになると、社会が過度に分裂してしまう。この問題は、『ニューヨーク・タイムズ』のジョン・マルコフ(John Markoff)記者が次のように指摘している。「いまや私たちは、おなじ経験を共有する代わりに、サイバー空間に置かれた何百万もの個人的な書き込みという無秩序と向き合っている。結果として、私たちは互いに一層孤立し、共通体験はほとんど失われ、社会的な結びつきが弱まってしまった。いまでは、どんなニュースを読むのかも自分の好みに設定できるため、外界や世界との接点は広がるというよりも、その逆に劇的に狭まってしまった」(15)。市民社会をまとめる紐帯である新聞がなくなれば、人間社会は解体してしまうかもしれない。

 第2に、新聞が機能しなくなると、市民の「知る権利」が十分に満たされなくなる危険がある。なぜなら、現場でニュースを取材し、それを社会全体に伝えることで、新聞は情報のインフラを支えているからである。この問題については、ITジャーナリストの佐々木俊尚が次のように論じている。「ブロガーをはじめとするインターネットの情報発信者は、論考・分析は得意であるけれども、一次情報の取材・報道は困難だ」(16)。別言すれば、新聞の衰退は、長大な河川の「水源」が枯渇することを意味する。確かなニュースを発掘する新聞があればこそ、ネットやその他のメディアもその特性を発揮できるのである。

 第3に、以上の2点とあわせて、新聞の不調は権力の乱用や腐敗を許す危険性がある。市民の「番犬」・「第四の権力」ともよばれる新聞は、歴史的に権力者を監視し、不正を厳しく告発・批判することで、民主主義の健全化に貢献してきた。権力の監視役が退場すれば、不正が横行しやすくなる。この問題について、ノンフィクション・ライターの野村進は、「新聞や雑誌の存在意義すら脅かしつつある潮流には、ここで歯止めをかけないと相当に危うい」と警告している(17)。野村が論じているのは日本の現状であるが、冒頭で引用したウォルター・クロンカイトも危惧しているように、同じことは米国についてもいえる。

 このように、新聞産業の衰退は、単にある1つのマス・メディア業界の問題を越えて、民主社会全体に打撃を与える看過できぬ問題である。

東洋大学:水野剛也(みずの たけや)

 

(1) 立野純二, 堀内隆. 時時刻刻 経営難、もがく米新聞 創刊146年、ネットに特化. 朝日新聞. 2009-06-26, 朝刊, 2面.

(2) クロンカイト, ウォルター. 20世紀を伝えた男クロンカイトの世界. 浅野輔訳. 東京, ティビーエス・ブリタニカ, 1999, p. 482.

(3) Funny Business. Washington Post. 2009-02-22, F2.

(4) Zimmerman, Jonathan. “Professors could rescue newspapers: A hundred years ago professors wrote for the press – free of charge”. The Christian Science Monitor. 2009-03-09.
http://www.csmonitor.com/2009/0309/p09s01-coop.html, (accessed 2009-05-12).

(5) Saba, Jennifer. “New FAS-FAX Shows (More) Steep Circulation Losses”. Editor & Publisher. 2009-04-27.
http://www.editorandpublisher.com/eandp/news/article_display.jsp?vnu_content_id=1003966601, (accessed 2009-05-15).

(6) “Advertising Expenditures”. Newspaper Association of America.
http://www.naa.org/TrendsandNumbers/Advertising-Expenditures.aspx, (accessed 2009-07-24).

(7) “The State of the News Media 2009: An Annual Report on American Journalism”. Project for Excellence in Journalism.
http://www.stateofthemedia.org, (accessed 2009-05-12).

(8) 地元紙担当記者、わずか1人に 新聞不況…名門ドジャースでさえ. 朝日新聞. 2009-05-12, 夕刊, 9面.

(9) THE NEW WASHINGTON PRESS CORPS: As Mainstream Media Decline, Niche and Foreign Outlets Grow. Project for Excellence in Journalism. 2009-07-16.
http://www.journalism.org/sites/journalism.org/files/The%20New%20Washington%20Press%20Corps%20Report%20UPDATE_0.pdf, (accessed 2009-08-10).

(10) 奥村信幸. ジャーナリストが消えていくワシントンで見たこと、聞いたこと:「2009年米ニュースメディアの現状」報告から. Journalism = ジャーナリズム. 2009, (228), p. 62-67.

(11) The Times Wins 5 Pulitzer Prizes. The New York Times. 2009-04-21, A23.

(12) Pérez-Peña, Richard. Times Co. Posts a Loss of $74.5 Million. New York Times. 2009-04-22, B6.

(13) 白川義和. 一面写真付き広告 NYタイムズ解禁. 読売新聞. 2009-01-06, 夕刊, 2面.

(14) NYタイムズ本社売却 07年完成したばかり. 東京新聞. 2009-03-10, 朝刊, 9面.

(15) マルコフ, ジョン. ネットメディアの混沌と未来 エージェント・ソフトは現れるのか. 朝日新聞グローブ. 2009-03-16.
http://globe.asahi.com/mediawatch/090316/01_01.html, (参照 2009-07-24).

(16) 佐々木俊尚. 特集 ネットの潮流を考える: インターネットにおける世論形成の可能性. AIR21: media & journalism reports. 2008, (219), p. 12.

(17) 野村進. 休刊時代のメディア考 上. 朝日新聞. 2009-05-20, 夕刊, 5面.

 


水野剛也. 今日のトップ・ニュース「米国の新聞が絶滅危惧種に指定されました!?」. カレントアウェアネス. 2009, (301), CA1694, p. 11-14.
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