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カレントアウェアネス
No.292 2007年6月20日
CA1631
中国国家図書館の新しい人材養成プログラム
1. はじめに
中国国家図書館(以下,「国家図書館」と略す)では,現代化・国際化された国立図書館を目指して,2005年に「人材興館」,「科技強館」,「服務立館」という3大戦略を策定した。人材,科学技術,サービス(服務)を国家図書館の事業を支える3大要素として捉えるとともに,とりわけ人材を事業の推進・発展に必要不可欠な要素として認識するに至った。そこで国家図書館では,「人材興館」戦略の実施方法と「2006-2010年人材発展計画」,「館員継続教育管理方法」,「創新人材計画」などの新しい人材養成・育成計画を立案・実施している。本稿では,国家図書館の新しい人材採用・育成・評価といった一連の人材養成の新政策について紹介する。
2. 人材の採用
人材の採用では,採用ルートを多種化し,その条件を高くすることで,新たに採用する正館員の「質」的向上を目指している。これまで国家図書館では,大学卒業生を正館員として採用するのが,ほぼ唯一のルートであった。今後は大学卒業生はもちろん,企業のサラリーマン,学術機関の職員,政府の公務員など既卒在職者からも募集し,要件に合う人材を正館員として採用する方針とした。これら職歴を有する館員が,館員全体の知識や経験を豊かにすることを狙っている。このほか正館員以外にも,人材会社に依頼して「派遣館員」を大幅に増加させる計画も立てている。
また正館員の採用に関して,国家図書館では学士号を有する大学卒業生を主に採用するのが慣例であったが,2005年度からは条件を高め,修士号・博士号の取得者を主に採用するようになった。また応募者は「中央政府機関公務員試験」のほかに,「全国外国語能力試験」(6級)と「全国コンピュータ能力試験」(1級)に合格することが条件となっている。
国家図書館は今後7年間に,250名の正館員が退職する局面を迎える。その一方で2008年には,新館開館を予定しており,事業の維持・発展のために正館員の採用に力を入れている。2005〜2007年までの3年間で,約18,000名の応募者の中から200名の新館員を採用した。学位の内訳は,博士号取得者が15名,修士号取得者が150名,学士号取得者が35名である。ただし学士号取得者でも,多数が2科目の学位を有している。
3. 人材の養成
人材の養成では,館内での定期的な配置換え,在職学歴教育,管理職の公開招聘,業務職(1)のサブジェクト・ライブラリアン(SL)制度,全職員研修などの新制度を導入し,能力主義と実績主義の雰囲気を作り,館員全体の能力向上を図っている。国家図書館ではポスト管理化(2)して以来,館内で管理職と業務職の定期的な人事異動を常態化し,職員の視野を広げ,経験を豊富にさせている。
在職学歴教育とは,館員が図書館に在籍したまま大学に入学し,学歴と学位を取得する教育制度である。この制度により,館員は知識を再構築し,館員自身の素質向上を図ることができる。この活動を保障するため,学歴や学位に応じた助成金を支給する制度も導入している。
管理職の公開招聘制度とは2004年に導入した,公開,かつ平等な競争により館内外から管理職を採用するシステムである。公開招聘は3年ごとに行っており,外部からの応募で合格したものも4名いた。
業務職の面では,SL制度の導入を開始した。SLは館内外から公募によって選ばれ,特定の主題分野の専門家として,その分野の最先端情報や文献資料を体系的に把握・評価し,選書や蔵書構成,情報リテラシー教育とレファレンス・サービス等に責任を持ち,研究者の調査研究と情報の整理を支援する。研究者およびその関連分野の窓口となる館員と位置づける。この制度により,図書館蔵書の向上とサービスの強化を図る。
全職員研修は,新知識及び新技術が次々と現れ,知識のライフサイクルが短くなりつつあるという新たな趨勢に対応すべく,全館の職員を対象に,図書館の専門知識を把握させる一方,新たな情報技術にも習熟した全方位的な図書館員の育成を目的としている。これにより,高度な新技術を充分に活用したサービスの拡大や,質の向上が可能となる。
4. 人材の評価
当館はポスト管理の一環として人材の評価を重要視している。人材評価については,館員評価の標準を改善し,評価項目は「徳・能・勤・績」に分けた。評価の原則は客観的,公正的,民主的,公開的,実績の重要視,定性的と定量的方法の兼用である。評価は業務年度と任期年度(3年間)との2種類がある。管理職は館員からの評価を重要視し,業務職は図書館界からの評価を大切にする。部局長レベルの管理職は館長からの評価の他に,業務年度末と任期末にそれぞれ仕事の報告を提出し,全部局スタッフの質問・回答をし,全員の評価を受ける。
これらの政策に加えて,2006年から国家図書館は「創新人材計画」を実施している。「創新人材」は3段階に分けられ,主席専門家10名,学術リーダー20名,業務中堅50名からなる。主席専門家は図書館業務に高度な熱意と責任を持ち,創新的精神と能力を有し,図書館情報学の先頭に立ち,図書館内での関連の業務分野をリードする,図書館界で影響力を持つ専門家を指す。学術リーダーは,図書館情報学の知識に造詣が深く,実務にも精通していて,図書館及び関係分野で理論的あるいは実践的な業績を持ち,中国国内における図書館界とのパイプ役を果たせる人材のことである。業務中堅とは図書館資料の管理,サービス提供,業務サポートなどのポストで業務の調査・研究を尽くす,館内のエリートである。
「創新人材」では,各段階ごとに選抜条件,プロセス,養成方法,任務,研究経費と学術休暇の保障が,規定されているとともに,淘汰制度が導入され,動態的に管理されている。評価は3年サイクルで実施され,評価委員会への業務および学術活動の成果報告と,それに基づく面接審査が行われる。またアンケートによって館員からも評価が行われる。それらを総合して,優秀,合格,一般(基本的に合格),不合格といった結果が下される。
5. 結び
これからの国家図書館は,国民の生涯学習推進の中核的な拠点として,国民の学習ニーズの高まりにこたえて,広範な情報を提供し,自主的な学習を支援する施設として一層発展することが期待されている。図書館員が幅広い図書館活動の推進のために重要な役割を担うものであり,養成方法の改善・充実を図ることで,国家図書館は未来に向かって,さらなる発展を目指している。
中国国家図書館報刊資料部:王 志庚(おう しこう)
(1) 図書館のポストは,管理職と業務職の2種類に分けられる。管理職は人事,財務,庶務,広報などの事務系のポストを指し,業務職は,図書館資料の収集・整理からサービス提供までの一連の業務系のポストのことを指す。
(2) ポスト管理とは,人的資源の管理を中心的内容とする従来の人事管理に替わって,ポストの管理を核心とする。つまり,業務の必要に応じてポストの設置をし,ポストによって能力のある者を選び,等級に応じて優秀な者を選ぶという人材使用の方法である。
王志庚. 中国国家図書館の新しい人材養成プログラム. カレントアウェアネス. (292), 2007, p.9-11.
http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/ca/item.php?itemid=1068