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カレントアウェアネス
No.278 2003.12.20
CA1507
ネット上での合同レファレンスシステムと文献資源共有との関係
−上海図書館と知識ナビゲーション合同ネットワークサイト−
情報技術の飛躍的な発展と図書館業務の絶え間ない拡大によって,ネット上のレファレンスサービスは新しい図書館業務として発展しつつあり,国内外で広がりをみせている。海外で著名なネット上のレファレンスサービスには,米国のQuestionPoint,24/7,VRDがある。[中国]国内では,国家図書館,上海図書館,広東中山図書館などが,ネット上でレファレンスサービスを展開している。なかでも上海図書館の知識ナビゲーションサイトは,[上海市]中心図書館のネットワーク運営モデルをよりどころに,大きな特色と活力を発揮している。
2001年から,上海図書館では上海市中心図書館システム計画を展開している。すなわちこの計画は,上海図書館を本部,要するに中核の図書館として,上海市内の各公共図書館や大学図書館,科学研究図書館を分館と位置づけることで,文献資源の共有システムを構築するという事業である。2001年5月の開始から28館が順次加わり,その内訳は区・県レベルの公共図書館が21館,大学図書館が5館,専門図書館が2館という構成になっている。そして中心図書館は以下の3種類の運営モデルを採用している。
(1)公共図書館モデル:
主に,共通カードによる貸出計画。すなわち利用者がメンバー館を1枚のカードで利用できるシステム。2003年10月までにすべての区・県レベルの図書館で実用化する。(2)研究図書館モデル:
外国語およびネットワーク上の資源によって,研究資源の利用効率を上げる。例として,上海図書館,上海交通大学図書館,上海生命科学院図書館など13の研究図書館が共同購入しているOCLCのNetLibraryがある。(3)専門図書館モデル:
本館と専門図書館(分館)の情報を組み合わせて,専門情報の共有サービスシステムを構築する。
上海市中心図書館は2001年5月28日から「知識ナビゲーション合同ネットワークサイト」計画を実施している(図1参照)。この計画の主旨は,[上海市]中心図書館の蔵書と専門家の情報を十分に利用し,各図書館の強みを相互に発揮させて,利用者にネットワーク上でレファレンスサービスを提供することにある。
この計画は上海図書館が多数の図書館の参加を得て立ち上げたバーチャル・レファレンス・デスク(Virtual Reference Desk: VRD)である。2001年の創設期には,上海市の7つの著名な図書館の16名のレファレンスライブラリアンによって構成され,今日までに上海図書館,復旦大学図書館,同済大学図書館,上海交通大学図書館,華東師範大学図書館,上海社会科学院図書館,上海生命科学図書館,東華大学図書館,上海水産大学図書館,第二軍医大学図書館,上海第二医科大学図書館,上海戯劇学院図書館,上海杉達学院図書館など13の図書館が参加している。そして20数名のレファレンス専門家が志願して,このサイトを担当している。なお2003年初頭,香港嶺南大学図書館,シンガポール国立図書館委員会(CA1499参照),マカオ中央図書館もこのネットワークに参加した。参加館とレファレンス専門家,およびサービス分野をまとめたのが表1である。
機関 | 人数 | サービス分野 |
---|---|---|
上海図書館 | 4 | 自然科学,社会科学 |
復旦大学図書館 | 2 | コンピュータ科学,情報科学,数学,生物学,物理学 |
同済大学図書館 | 3 | 工学,管理学,土木工学,測量,土地情報 |
[上海]交通大学図書館 | 3 | 工学技術,情報学,物理学 |
華東師範大学図書館 | 2 | 管理学,情報学,化学工業,教育学,心理学 |
上海社会科学院図書館 | 1 | 社会科学 |
上海生命科学図書館 | 2 | 生物学,医学,農学,化学 |
東華大学図書館 | 1 | 紡績材料学,工学 |
上海水産大学図書館 | 1 | 漁業,食品,海洋学 |
第二軍医大学図書館 | 2 | 医学,薬学 |
上海第二医科大学図書館 | 1 | 医学 |
上海戯劇学院図書館 | 1 | 演劇 |
上海杉達学院図書館 | 1 | 実用科学 |
香港嶺南大学図書館 | − | 香港および海外の文学・歴史・哲学,社会学,商学 |
シンガポール国立図書館委員会 | − | シンガポール・海外の多方面の情報調査 |
マカオ中央図書館 | − | マカオの歴史,文物,風土人情 |
ところで上海市中心図書館は年月を経て星型の組織を形成し,21の区・県レベルの図書館が共通カード計画によって,上海のあらゆる図書館業務で提携している。すなわち資源の共有を実現しているのである(図2参照)。
さらに,各区・県の経済発展の不均衡が原因で,各分館の蔵書やサービスにも格差が生じている。このことはレファレンスサービスの力量にも明らかに現れている。こうした状況はいずれ社会の発展要求を満たすことができず,先進国の公共図書館システムに比べて大きく立ち遅れることになるだろう。米国のニューヨーク市クイーンズ地区は人口約220万人,公共図書館は69館,そのうち中央館が1館で68館は分館である。各分館は中央館の下に置かれている。各分館は少なくとも1,2名のレファレンスライブラリアンを(米国では図書館情報学の修士号を持つ者がレファレンスサービスを担当しなければならない)配置し,クイーンズ地区だけで少なくとも150名のレファレンスライブラリアンがいる。上海の公共図書館は明らかに数が少なく,レファレンスサービスが手薄である。「知識ナビゲーション合同ネットワークサイト」では,中心図書館が研究図書館と専門図書館の特色を発揮して,ネットを通じて上海市民にレファレンスサービスを行っている。
この2年間,「知識ナビゲーション合同ネットワークサイト」は専門家によって維持され,こうした専門的知識の案内サービスは,一般利用者に歓迎されている。上海の一部の公共図書館は365日サービスを行い,「知識ナビゲーション合同ネットワークサイト」の立ち上げ以来,月毎に相当数の質問に6分以内で回答している。多くの利用者が礼状をよこし,当サイトの手助けに感謝している。サイトに寄せられる質問の50%以上は科学研究文献の検索に関する内容で,その次に多いのが生活全般に関する質問(約20%)である。多くの市民がこのサイトを学習や研究に不可欠な手助けと考えているだけでなく,日常生活での良き師,良き友と考えている。2003年9月30日までのデータによれば,質問数は計2,985件,入庫総数(FAQ)は2,187件,1日平均9.8件,平均回答時間は48.97時間となっている。なお入庫総数とは,質問が適切で図書館のFAQに登載することになった件数をいう。
特に2003年4月から5月にかけての「非典」(新型肺炎:SARS)流行期間には,積極的に利用された。4月の質問数は414件,5月は519件,1日平均15.5件であった。参考までに2003年の月別の質問数を示したのが,図3である。
社会の発展に伴って,専門家が個別に1対1でサービスするという方式は,広く利用者に歓迎されるようになった。このため,当サイトは専門家グループによる案内サービスの分野の拡大を目指している。たとえば,経済,通信,電子商取引,物流,体育,万国博覧会情報,バイオテクノロジー,法律など国内で急速に発展する産業に広げる努力をしている。また,今年4月に上海博物館が米国から得た北宋の『淳化閣帖』最善本や,2003年10月の中国人を乗せた有人ロケットの打ち上げといった話題についてもネット上でレファレンスサービスを行っている。
中心図書館の業務は,分館の支持を得て拡大し,ネット上のレファレンスサービスも同じように図書館界の注目を集めている。「知識ナビゲーション合同ネットワークサイト」は独特な分散式の共同運営方法によって,中心図書館の資源共有ネットワークに頼るだけでなく,上海市全体の主要な公共図書館,研究図書館の蔵書資源を組み合わせ,かつ上海の情報学界の優秀な専門家を集めて,効率のよい迅速なネット上レファレンスサービスの提供を実現している。
中心図書館ネットワークの存在と発展が,「知識ナビゲーション合同ネットワークサイト」の後ろ盾となって,活発な広報効果も生じている。同時に同サイトの発展も,中心図書館に効率的なサービスの提供を保障している。現在このサイトは,こうした強みによって各分野の専門家の参加を増やし,市民への周知を積極的に行ってサイトの社会的知名度や影響力の拡大に努め,社会へのさらなる貢献を目指している。
上海図書館利用者サービスセンター副主任:金 紅亜(きんこうあ)
上海図書館知識ナビゲーション合同ネットワークサイト管理員:張 軼(ちょうよく)
訳 京都大学大学院教育学研究科:川崎 良孝(かわさきよしたか)
Ref
Virtual Reference Desk.(online),available from < http://zsdh.library.sh.cn/ezsdh/ >,(accessed 2003-11-04).
金紅亜, 張軼. ネット上での合同レファレンスシステムと文献資源共有との関係
−上海図書館と知識ナビゲーション合同ネットワークサイト−. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1507