CA1275 – スペースと資料の有効利用法−カナダその他の場合− / 木藤淳子

カレントアウェアネス
No.241 1999.09.20


CA1275

スペースと資料の有効利用法−カナダその他の場合−

『図書館雑誌』3月号でも図書館資料の除籍・保存・リサイクルが特集されたように,増大する一方の資料を限りある保管スペースの中どう扱うかは図書館にとって深刻な問題となっている。これがわが国に限った問題ではないのは言うまでもない。

今年の5月,フィンランドのクオピオで,「共同保存庫戦略による蔵書問題の解決」に関する初めての国際会議が開かれた。

「共同保存庫」といっても,参加館の範囲や対象資料はさまざまであり,その目的も変化してきている。米国シカゴのCenter for Research Libraries (CRL)は,現在では,参加館から複本や利用頻度の低い資料を預かって共同利用に供するというよりも,需要の高い資料は購入してでも収集し,むしろ文献提供サービスにふさわしい蔵書構築を行うという積極的な方針に転じているらしい。図書館間貸出(ILL)がすっかりおなじみのサービスメニューになり,収蔵能力が高い上に排架場所が即時にわかる書庫システムの実現によって,遠隔地の共同保存庫もそう不便な存在ではなくなっている。米国の大規模大学図書館の中には単館でキャンパス外に保存施設を持つところも増えており,中でもハーバード大学が開発した大収蔵書庫モデルは多くの図書館で採用されているという。ニューヨーク公共図書館,コロンビア大学図書館,プリンストン大学図書館というニューヨーク州の3つの大きな図書館の共同保存庫建築計画(CA1269参照)でも,ハーバード・モデルを取り入れる予定である。

以上の例では,参加館は,共同保存庫に置かれた資料をILLや複写によって一時的に利用する。特に館種を同じくする協力機関においては,各資料の利用頻度も類似することが多いので,これは極めて自然な方法であろう。一方,全国レベルの協力事業となると,参加館の館種が多様で資料への需要も異なる場合が想定されるので,共同保存庫よりもクリアリングハウス・サービスが有効な場合もあると思われる。

昨年25周年を迎えたカナダ国立図書館(NLC)のカナダ図書交換センター(CBEC)は後者のタイプである。CBECにはカナダの図書館及び類縁機関は館種を問わず参加することができる。参加館は無料で(ただし送料は負担)自館の余剰資料をここに送付し,必要な資料を受け取ることができる。個人も寄贈は可能だが,受け取ることはできない。対象資料の形態は限定しておらず,紙だけでなく,点字資料,録音・録画資料,電子媒体資料なども受け入れている。ただし,資料の状態は良好でなくてはならず,また,逐次刊行物のバラバラの号や商品カタログ,広報用チラシなどは対象としない。1973年の設立以来受理した資料は約3,000万点に上り,現在は300万点の資料を収蔵している。参加館の選書のために,CBECはリストを作成・送付しているが,参加館からウォントリストを送付することも可能だし,CBECに赴いて直接選書することもできる。

CBEC設立以前,1953年のNLC創設時から複本交換プログラムは存在していたが,当初は同館が所蔵する複本を処理するためのものであった。1969年に勅裁・施行された新しい国立図書館法によって,カナダ政府機関所管資料を国立図書館に移管することができるという項が新設された。ここに規定されているのは政府機関であったが,NLCが廃棄資料を受け入れているという話が図書館界に広まるにつれ,連邦政府とは無関係の図書館も余剰資料をNLCに送り始めた。大学図書館の中には,自前の複本交換プログラムをやめて,全複本をNLCに送る図書館も現れた。こうして図らずも全国規模に発展したサービスによって,1970年代初頭には,NLCの業務が圧迫され,複本の受入を一時中止せざるをえなくなる事態に陥った。

1973年,3つの部門にまたがって行われていたこの活動が集中化され,新たに余剰資料交換課が設けられた。同課ができた最初の年には,20万以上の出版物が他の図書館に再配備された。しかし滞貨の総量は3〜4万箱に上っており,保管場所の確保が急務となった。

1974年初冬,同課は現名称に改称し,オンタリオ州ネピアンの保管庫に移転した。そこでCBECは,コレクションの組織化,新しい所在情報を付した書誌記入の作成,約5万箱の滞貨資料の処理などをこなすことになった。同時に,わずか14人のスタッフでこれらの膨大な作業を行うために,業務の合理化がはかられた。1969年から1974年の間に,受理資料は6倍,再配備資料は8倍以上増大していた。

センター内は発足当初から,図書(モノグラフ),定期刊行物,官庁出版物の3つの部門に分かれている。この枠組みで,資料受理,選書,利用可能出版物リストの作成・送付,再配備などの作業を行っている。

定期刊行物部門は,CBECコレクションの最大部分約200万点の資料を担当するほか,文献の受理と各部門への配布を所掌している。官庁出版物部門は,国内外の政府・官庁出版物(逐次刊行物,単行図書とも)を扱っている。図書部門では図書資料の組織化とリスト作成を行っている。資料はまず質と状態で選別し,デューイ十進分類法を用いて分類の上リスト化する。

CBECでは1998年1月,25周年を前にして,参加館に対する全国調査を行った。調査目的は,(1)サービス再編に資するための,利用館の需要と満足度の把握,(2)代替手段の可能性調査,(3)NLCにおけるCBECの評価の向上である。調査票の配布数は971,このうち531が記入の上返送された。調査項目は,リスト(カテゴリー別)の種類と送付頻度に対する満足度,レスポンスタイムなどである。

以下に調査結果からの抜粋を挙げる。

回答者の館種は,多い順に,専門図書館(28.5%),大学図書館(16.2%),学校図書館(13.4%),単科大学図書館(12.5%),連邦以外の政府系図書館(9%),公共図書館(8.5%),病院図書館(3.8%),その他の機関(7%)である。CBEC利用法は,文献の受理のみが最も多く(45.9%),次いで,送付・受取双方(38%),送付のみが最も少ない(5.1%)。

カテゴリー別リストの種類には50%が満足または非常に満足しており,3%は満足していない。図書のフランス語リストは例外的に14%が満足していない。リストの送付頻度には48%が満足または非常に満足しており,3%が満足していない。申し込んだ資料を受け取るまでの時間には40%が満足または非常に満足しており,2%が満足していない。図書の英語リストについては例外的に21%が満足していない。CBECに資料を送付する手段について満足していない回答者はわずか1.5%だが,満足している回答者も,送付に伴う費用には問題を感じており,CBECによる費用負担を希望している。

CBECのWebサイトを見たことがある回答者は少なく(13%),大半はサイトの存在自体を知らなかった。回答者の半分以上がCBECのリストサーブの存在を知らず(57%),参加しているのは9%だけである。

以上の調査結果をCBECの沿革と現状の紹介とともにまとめた同センターのジェンドロン(Celine Gendron)によれば,CBECはさらに良質なサービスを迅速に提供し,アクセスの平等を保証する手段の確保を目指していく。すでに通信手段としてfaxや郵便のほかにe-mailサービスを実施しているが,今後は,リストのWebサイト掲載を検討しているという。

木藤 淳子(きとうじゅんこ)

Ref: Gendron, Celine. Canadian Book Exchange Centre marks its 25th anniversary. Nat Libr News 31 (1) 1-4, 1999
Canadian Book Exchange Centre. [http://www.nlc-bnc.ca/cbec-ccel/ecbec.htm] (last access 1999. 7. 12)
Solving collection problems through repository strategies: an International Conference, Kuopio, Finland, 1999. 5. 9-11. [program and reprints] 1999
[小特集]図書館資料の除籍・保存・リサイクル 図書館雑誌 93(3) 185-198,1999