CA1250 – ストライキに揺れる英国図書館 / 松井一子

カレントアウェアネス
No.236 1999.04.20


CA1250

ストライキに揺れる英国図書館

英国図書館(British Library: BL)は3月8日〜20日,セント・パンクラス新館の閲覧室を閉鎖した。公共・商業事業組合(Public and Commerce Service Union: PCS)に加入している職員(出納員)100人がストライキを決行したためである。22日からは,貴重書等BL独自のコレクションのみを提供するという方針で,一部の閲覧室を開室し,全館的にサービスが復旧したのは29日であった。また,24日に予定されていた科学レファレンス・情報サービス室の開室は6月に延期された(部分的なサービスは4月8日から開始されている)。4月6日現在,当局と組合は,問題の解決に向けて労働条件の見直しを行うこと,この問題について今年中はストライキを行わないこと,の2点で合意したと公表している。

争議の論点は以下の4つである。1) 劣悪な労働環境:書庫内は図書運搬車の騒音がひどく,怒鳴らなければ会話ができないほどである。休憩所には椅子が4脚しかなく,そこでも騒音のひどさは変わらない。書庫内の温度にも問題がある。また,エレベータが故障がちで,30分間中に閉じこめられた職員もいる。2) 賃金カット:一説によれば,109人の出納員のうち45人の賃金が1,000ポンドカットされるとのことである。当局は,カットされるのは新館移転に伴う特別手当であり,移転完了後は支払われないものだと説明している。3) 労働時間の延長:契約の際労働時間が明確に規定されていないため,出納員たちは週日1日12時間という長時間の労働を強いられている。4) シフト制の問題:当局の提案するシフト制に従うと,出納員のうち何人かは,一日中地下の書庫で作業をしなければならない。

1) と3) に関連して,書庫を地下に設置したセント・パンクラス新館の設計も問題となっている。しかし,設計者のサンディ卿(Sir Colin Alexander St. John Wilson)は,設計に際しては職員との意見交換を行っており,問題はないとしている。既報のフランス国立図書館のストライキ(CA1225CA1233参照)でも新館の建物の不便さは問題となっていた。

このBLの混乱に対して,不便で困るとの苦情が大勢を占める一方,職員に同情する声も寄せられている。オーストラリアの女性解放運動家グリーア(Germaine Greer)は,ストライキへの支持の表明として自著書の出版パーティを中止するという声明を出した。彼女はこう語っている。「作家も出版社も,調査や編集事務,自分たちの権利保護に関して,図書館員のサービスに頼るところが大きい。BLの管理上の失敗は,出版にたずさわる者すべてに影響を及ぼすだろう。」

また,サービスの質の低下を憂慮する意見も見られる。2月21日付のObserver紙は,専門知識のない補助職員が,グーテンベルク聖書を貴重書用の特別書庫(strongroom)から持ち出して一般資料と同じように利用者に閲覧させてしまったため,ベテラン職員が憤激していると報じた。BLはこれを否定している。また,同じ記事で,ある職員は館内の混雑ぶりを「マクドナルドと同じだ。利用者が長い列をなし,デスクの向こうで我も我もとひしめきあっている」と語っている。

フランスに続く今回のBLのニュースは,図書館サービスの拡充とサービスの質を維持すること,またそこで働く職員の労働条件を両立させることの難しさを感じさせる。

松井 一子(まついかずこ)

Ref: St Pancras Reading Room closures: update. [http://www.bl.uk/information/news/strike.html] (last access 1999.3.16)
Re-opening of reading rooms from Monday 29 March. [http://www.bl.uk/information/news/reopen.html] (last access 1999.4.6)
PCS: Public and Commercial Services Union. [http://www.pcs.org.uk] (last access 1999.4.6)
The Times 1999.3.8; 1999.3.9
The Guardian 1999.3.8
The Observer 1999.2.21