カレントアウェアネス
No.234 1999.02.20
CA1238
英国公共図書館におけるコミュニティ・インフォメーションのネットワーク化
−CIRCEプロジェクト−
webページなどによって英国の公共図書館の活動状況を見ると,そこで提供されているコミュニティ・インフォメーション(以下CI)とは,日本でいう郷土資料よりも,収集の対象が幅広く,市民生活に密着したアクティブな性格を持つという印象を受ける。
現在このCIに関して,英国図書館研究開発センター(British Library Research and Innovation Centre)は,18ヶ月にわたるCIRCE(Community Information Research resourCE)プロジェクトを進行中である。このプロジェクトは,他の図書館と情報を共有しつつ,同時に各図書館が独自のCIのデータベースを維持するという方向で,CIのネットワークの構築方法を探求することを目的としている。
プロジェクトでは,まずこれまでの関連研究を検討し,CIをサバイバル情報と市民活動情報という2種類に分類するという考え方に着目している。サバイバル情報とは個人の特定の問題を解決するための情報であり,例えば学校やレジャーセンターのリスト等がこれに当てはまる。市民活動情報とは,市民の社会的政治的権利を守るために必要とされる情報である。そして現状では図書館によってサバイバル情報は十分に供給されているが,市民活動情報の収集は不十分であると結論づけている。
次に個人の生活圏が自治体を超えたものになっているという実状,経済や文化の振興,自治体の行政情報の流通,図書館に対するイメージアップや図書館にアクセスする手段の多様化,CI提供における費用対効果など,CIのネットワークを構築する意義について,さまざまな角度から提案している。
そしてCIのネットワークの実現にあたって取り組むべき主要な課題として,次の7つを挙げている。すなわち,1) 自治体との協力の必要性,2) 複数のデータベースを横断的に検索できるデータベースソフトの開発やプロトコルやタグの標準化などの技術的問題の解決,3) 使用するMARCやシソーラスの統一,4) インターネットを利用したシステムの開発,5) 資金調達や計画立案,図書館以外の情報プロバイダとの交渉などを行う管理機構の確立,6) 行政区域にとらわれずに市民の意見を取り入れた地理的境界の設定,7) 将来のCIネットワークのあり方の検討,である。将来のあり方については,図書館のネットワーク化が実現した暁には,CIのネットワークはより大きな情報ネットワークのひとつとして柔軟に対応した構造をとる必要があることを指摘している。
これまでの研究成果として,CIの範囲,ネットワーク化による利点が明らかにされた一方で,CIのネットワークの実現にあたっては,具体的なシステム開発以前に解決すべき課題が累積していることが指摘された。なお今年5月にこのCIRCEプロジェクトは終了し,最終報告書の発表が予定されている。
昭和女子大学短期大学部:須賀 千絵(すがちえ)
Ref: Project CIRCE-networking community information (last update1999.1.7)[http://www.gloscc.gov.uk/circe/] (last access 1999.1.26)