カレントアウェアネス
No.201 1996.05.20
CA1065
曲がり角に来たロシア・東欧との国際交換
1989〜1990年のソ連・東欧の政治変動は,同地域の出版物にも大きな影響を与えた(CA762参照)。良くも悪くも政府の傘下にあった出版そのものが次々と民営化し,従来発行されていた逐次刊行物の休・廃刊も相次いだ。これまで,西側の図書館が購入のほかに,この地域の資料を効果的に入手するために行ってきた方法に,(この地域の図書館と直接資料を交換し合う)国際交換がある。しかし,こうした変化の中で,この方法は今後も有効な手段でありうるのだろうか。
イリノイ大学スラブ東欧センターのオルセンは,1990年以降,同大学での交換によるロシア・東欧関係資料の入手は13%落ち込んだとしている。そしてスラブ・東欧コレクションを持つ大学に対し,スラブ関係図書館員の電子メールネットワークを通じて,資料入手についてのアンケートを行った。回答を寄せたのは17機関,アンケートの数字としては満足のいくものではないが,そこからうかがえる問題点はわれわれにも参考になるだろう。
オルセンが挙げているのは次のような点である。
1) 交換は果たして購入より安価なのか?交換業務にかかる手間を単純に計算するだけで,雑誌の場合,購入よりも25%も割高になるという結果が出ている。さらにロシア・東欧の場合,相手方の郵便事情から生じた欠号にまで責任を負わねばならないことさえある。それでも行う理由として,前から行っているから,交換を通して相手を援助したいからという回答が寄せられている。
2) 受理記録の不備のため,交換の全体像が判然としない。資料の受理は,他の国々からの資料とともに本館の交換寄贈担当係で行われるケースが大半である。昨今チェックインシステムが普及しているが,スラブ資料はキリル・アルファベットであるため,ローマン・アルファベットが主流のシステムからこぼれ落ちてしまい,手作業で行っている。このため,交換資料の適・不適を判定する材料が得られない。
3) 交換が対等な立場で行われていない。かつてソ連・東欧の為替レートは,国家管理の下で高いレートを維持していたが,現在はかなり下落している。しかしそれがそのまま図書館間に適用されるわけではなく,ロシア・東欧側の主張するレートが法外に割高な場合もある。かと言って,経済危機に苦しんでいる相手方の状況を考えると,敢えてレートに異議を唱えるわけにはいかない。
このように問題は山積みになっており,必要な資料を効果的に収集するためには,これまでただ漫然と行われてきた交換業務を見直すべき時期に来ているのではないかと,オルセンは指摘している。
軽部 運代(かるべかずよ)
Ref: Olsen, Margaret M. The end of the Cold War and its effects on Slavic and East European Collections in the West. Int Inf Libr Rev 27(1) 89-112, 1995