CA1066 – 鍵っ子へ向けた図書館サービス−米国公共図書館の取り組み− / 長嶺悦子

カレントアウェアネス
No.201 1996.05.20


CA1066

鍵っ子へ向けた図書館サービス
−米国公共図書館の取り組み−

1991年の米国政府の調査によると,160万人の子供達,すなわち米国の就学年齢に当たる子供の8%が鍵っ子であり,そのうち12歳以下の子供は50万人に上ると報告されている。これらの子供達の生活を把握し,子供達に対する地域のケアの質を改善することを目的として,アメリカ教育省は鍵っ子とその家庭のための児童教育・擁護プログラムを夏休み期間中に2年間試行した。また,学校やYMCAなども放課後のプログラムを設定している。

このように鍵っ子に向けた取り組みがなされる中で,図書館もその例外ではない。平日の午後の図書館には,大人に世話されることなく過ごしている子供達が見られるため,これら鍵っ子たちへ向けたサービスが提供されてきた。鍵っ子向け図書館プログラムの調査は1988年と1990年に行われているが,その後4年間でプログラムにどのような変化があったか,再評価の結果が報告されたので紹介する。

まず,4年間でサービスを行う分館の数を増やしたり,サービス内容を広げた図書館プログラムがある。その内容は主に,宿題の援助などの学習活動,工作,ゲームといったレクリエーション的活動を柱としている。また,コンピュータと子供向けの適切なソフトウェアが注目すべき役割を果たしている。プログラムは関係者,親,子供達から好意的に受け止められているが,これらは児童担当の職員はもちろん,ボランティアの力を活用して運営されている。特にロサンゼルス公立図書館の“GAB”(Grandparents and Books)では,退職したお年寄りをボランティアとして募り,子供達へのサービスを行っているが,ボランティアのお年寄りには子供達との交流の楽しさを与え,一方図書館側はお年寄りのおかげで以前ほど職員が館内風紀に注意を払わずに済むようになった。

プログラムを修正した図書館もあった。修正には,絵をかいたり手芸をするといったクラブ活動的なものから読書活動中心にするなどの,単なるプログラム内容の変更のほか,プログラム内容の削減も含まれる。削減は,学校が同様の放課後プログラムを始めたこと,他に鍵っ子向けの新しいサービスを行うため,内容を見直す必要があったことなどを理由としている。さらに,プログラム自体を中止した図書館もあった。大きな理由として,職員の不足や資金難があげられる。人員不足でいったん児童担当の図書館員がいなくなると,その後復活させても経験の蓄積がないため,プログラムの再開は難しい。また,参加者が少ない場合も活動を切り詰めなければならない。その一方,学校やYMCAが同様の放課後プログラムを開始したため,図書館のプログラムが必要なくなることもある。

一方,長年の協力関係の結果,学校と図書館が共同で教室でのマルチメディアの説明をしたり,YMCAと図書館が共同で夏休みの読書会を催すなど,これらの組織が共同で活動を行うようになった例も見られる。今後,有効なプログラムを提供するために,図書館とこれらの組織との連携,共同作業が重要な要素になってくるだろう。

このように,サービスを広げた図書館と,中止した図書館との間に,プログラム内容や実績に大きな違いはない。むしろ,図書館における人的,財政的要因がプログラムの存続を左右している。図書館の置かれた状況は厳しい。しかし,鍵っ子がどの地域にも存在している今日,他組織との連携を視野に入れつつ,地域ぐるみでプログラムを設定し,サービスを提供していく必要性が指摘されている。

長嶺 悦子(ながみねえつこ)

Ref: Dowd, Frances. Public library programs for latchkey children. Public Libraries 34(5) 291-295, 1995
Rosanne Cerny. An after-school solution. School Library Journal (40) 42, 1994