CA1064 – ロシアのブックスインプリント / 酒井剛

カレントアウェアネス
No.201 1996.05.20


CA1064

ロシアのブックスインプリント

ロシアでは,計画経済から市場経済への移行にともなって,出版物市場においても自由化が進められた。ソ連時代の出版社数は約2百社にすぎなかったが,現在ではすでに7千社以上が登録されている。しかし,出版社の大部分は年間数点の書籍を発行するにとどまり,まったく出版活動を行わないものも多い。

それぞれの出版社はあらかじめ計画した部数の出版物を発行する。長期的に需要に応じて増刷する習慣がないのである。ソ連時代の出版流通機構は崩壊し,また,出版される本の情報を総合的に扱う機関が存在しない。したがって,図書館を始め,学校や専門家などは出版情報を得られないので,必要な書籍を求めることができず,特に図書館は大きな打撃を受けている。

現在のロシアの状況においては,出版物の自由化がうまく機能するために,関係者同士で出版物に関する情報のつながりを持つことが不可欠である。西側諸国の有効な情報システムの1つにブックスインプリント(BIP:用語解説T10参照)がある。ロシアでも,全国書誌作成機関であるロシア書籍院(Rossi i skaia knizhnaia palata)が刊行を計画している。これにより,買い手は総合的な出版情報を手にいれることができ,また,出版物の卸売りと小売り網の形成を促進することも期待できるであろう。

ロシア版BIP(Knigi v nalichii i pechati)は,毎月の出版を想定し,出版物のISBNや書名などの基本的なデータのほかに,発行部数,出版社名,発売価格などの販売に必要な情報を,掲載する予定である。その構成は,販売中,印刷中,出版予定のある書籍リスト,そして出版社などのリストという具合に分かれる。

刊行計画は,以下の通りである。第一段階では,モスクワなど大都市にある大手出版社の出版情報を収め,冊子体と,CD-ROMなどの電子媒体での刊行を想定している。第二段階では,90%以上の書籍の情報を収め,旧ソ連領で出版されたロシア語の出版物のデータも収録する。第三段階では,第二段階でカバーしきれなかった出版社の情報を収め,外国出版のロシア語書籍のデータも収録する。ただし,外国出版の書籍については,掲載許可を得なければならない。資金源としては,当初は国家予算などを用いるが,次第に刊行物自体からの収入をあてていく。段階を経るにつれて,専門の出版社を設立していく計画である。

酒井 剛(さかいたけし)

Ref: Popov, G, A. O sozdanii rossi i sko i natsional'no i sistemy〈Books in print〉. Biblioteka, 14-20, 1995.10
“Books in print” ili “Knigi v nalichii i pechati”. Biblioteka, 39, 1995. 12