CA1058 – コンピュータによる利用調査の活用 / 田邊智子

カレントアウェアネス
No.199 1996.03.20


CA1058

コンピュータによる利用調査の活用

コンピュータの普及は,かつて多くの時間と労力を必要とした大量のデータの解析を容易にし,得られた情報を業務に活かすことを可能にした。図書館でも例外ではない。すでに多くの図書館で,貸出業務の機械化によって得られるようになった詳細な利用統計を収集活動に反映する試みが行われている。それらの取組の中から,今回はデイ(Day)とレヴィル(Revill)による,英国のリヴァプール・ジョン・ムアーズ大学図書館における調査を紹介する。

彼らは,新規に購入した本について分野別の利用状況を比較する調査を1994年から実施している。調査の概要は以下のようなものである。まず同図書館で受け入れた本を42の分野に分け,受入後1年間での個々の本の貸出回数をリストアップし,各分野毎に「1回以上貸出のあった本の割合」,「1冊当たりの平均貸出回数」を出して比較する。貸し出された割合80%・一冊当たり4回以上の分野は利用度が高く,40%・1回以下の分野は利用度が低い,というのが彼らの設定した基準であり,これまでの調査の平均では,最も利用の多い心理学で82.1%・4.25回,最も少ない行政学で39.58%・0.83回という結果になっている。基準の妥当性の判定は難しいが,指定図書の利用状況や蔵書に対する苦情の件数などから,概ね妥当であろう,としている。調査は四半期毎に定期的に行う予定で,報告の時点で第3回までがまとめられている。

この取組は,大学全体の予算の制約が強まっていく状況下で,限られた予算でより需要にあった収集を追求する必要から生まれた。調査は今後の収集業務に実際に活かしていくことになる。分野別の利用度の格差が意味するのは,利用度の高い分野では利用者の需要に対し本の供給が不足しており,反対に利用度の低い分野では需要に対し供給が多いかまたは資料の購入に無駄がある,ということである。このため調査結果は,具体的には分野間の予算配分の見直しと選書の改善のために利用される。

この調査は,同図書館の既存のシステムに手を加えないという制約のもとで行われている。デイ達は調査にあたってピースグッド(Peasgood)の例を参考にしているが,それは彼らの調査より詳細なものだった。それに対し,デイ達は既存のシステムから得られるデータのみを用いたため,分析の枠組みは比較的シンプルなものとなっている。

一般に,集計された利用統計は利用のある側面を切り取ったにすぎないため,的確に利用状況を把握するためには多面的な分析が欠かせない。この調査の場合は,データの制約から判断にあたって留保すべき点が特に多くなっているが,彼らはその限界を認識した上で分析の信頼性について様々な角度から検証と考察を行っている。このように限られたデータであっても注意して扱えば有効な情報を引き出すことができるが,より正確に利用傾向をつかむためには,システムを調査に合わせて調整することが望ましい。さらには,こうした制約を避けるために,システムをつくる段階から必要な利用統計のことまで考えて設計しておくことが重要となるだろう。

この報告以前に,ペイン(Payne)は同様の調査例を紹介し,調査を現実に活かすためには,一回限りではなく継続的に行う必要があることを指摘している。個々の資料やある分野全体の利用状況を正確に把握するためにはある程度長期の分析が必要であるし,調査結果をもとに選書や予算配分を改善した場合に,その効果をはかりさらに改善していくためにも継続的な調査が必要となるからである。デイ達はこうした点をふまえ,調査を定期的に行い日々の業務の一環として位置付けている点が注目される。このような頻度の高い利用調査は,膨大なデータを瞬時に加工できるコンピュータだからこそ可能なものだといえるだろう。

国立国会図書館の現在のシステムでは,個々の資料の利用状況までは把握することができない。しかし,外国資料など購入によって収集している部門については,限られた予算の中で効果的な蔵書構築をめざしていく必要があることは一般の図書館と同様であり,そのために利用統計を活用する効果は大きいはずである。現在,新来館利用者サービスシステムの開発がすすんでいるが,こうした点についても十分に考慮する必要があるのではないだろうか。

田邊 智子(たなべさとこ)

Ref: Day, Mike et al. Towards the active collection: the use of circulation analysis in collection evaluation. J Librariansh Inf Sci 27 (3) 149-157, 1995
Peasgood, Adrian N. Towards demandled book acquisitions? Experiences in the University of Sussex Library. J Librariansh 18 (4) 243-256, 1986
Payne, Philip et al. Using management information in a polytechnic library. J Librariansh 21 (1) 19-35, 1989
Ephraim, P.E.A review of qualitative and quantitative measures in collection analysis. Electron Libr 12 (4) 237-241, 1994