CA1047 – ロマンス小説と図書館の冷たい関係 / 鈴木智之

カレントアウェアネス
No.197 1996.01.20


CA1047

ロマンス小説と図書館の冷たい関係

「ロマンス小説(romance novel)」はいまや米国の出版界を席巻した観があり,米国内で刊行されるペーパーバックのうち,48%までもがこのジャンルに属すると言われている。こうした隆盛を反映して,最近のPublic Libraries誌上に「ロマンス小説の世界を探訪する」と題する記事が掲載された。ロマンス小説の定義に始まり,米国の出版界における地位や米国各地の公共図書館での扱われ方,図書館がロマンス小説に関してとるべき方針について,図書館員向けにわかりやすく論じたこの報告から,ロマンス小説の世界を展望してみたい。

まず,ロマンス小説の定義だが,記事の執筆者のリンツらによれば,これは「ハッピー・エンドを迎えることになる,男女のロマンティックな関係に焦点をあてた物語」を指す。ロマンス小説は「現代もの」と「歴史もの」とに大別でき,各々はさらに,ウェスタンもの,サスペンスもの,超常現象ものといったいくつものサブジャンルに分かれている。

一方,刊行方式からロマンス小説をとらえた場合には,「単発もの」と「シリーズ・ロマンス」の二つに分類することができる。シリーズ・ロマンスは,各出版社がそれぞれの系列に沿って月に何冊か刊行するもので――日本でもお馴染みのシリーズとして,ハーレクイン・ロマンスやシルエット・デザイアなどがあげられるだろう――,各系列ごとにそれぞれの特色がある。概して,毎月大量に出回るシリーズものの方が,その分出版物としての生命も短い。例えばイングラム社では,シリーズ・ロマンスの在庫は6か月までしか置かないことになっている。

さて,これらロマンス小説は,単発もの・シリーズものを問わず,ペーパーバックでの刊行が主体であり,それゆえ書評紙・誌にも真面目に取り上げられる機会が少なかったわけだが,近年事情はやや変わりつつある。というのも,1994年にはニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストに,7冊ものハードカバーのロマンス小説が登場したからである。ハードカバー志向を強めつつあるロマンス小説界のこうした傾向について,作家のジェイン・アン・クレンツ(Jayne Ann Krentz)は,「ミステリーやSFが数十年前に吹き抜けていった自然な成熟の過程を(ロマンス小説もまた)たどろうとしているのです」と形容する。

クレンツの言葉通り,主流文学としてもその地歩を着実に固めつつあるロマンス小説だが,いったん米国の公共図書館界に目を転じ,図書館の中でロマンス小説がどう取り扱われているかに関心を払う時,しばしば直面するのは,ロマンス小説への冷遇とも呼べる事態である。

特にペーパーバックの扱いは冷淡で,まったく所蔵しない,あるいは寄贈本だけしか所蔵しない図書館が見受けられる。目録のとり方にしても,ハードカバーのロマンス小説は他の図書同様目録にとるが,ペーパーバックの方は無視する,という図書館は多い。マッキンレー記念図書館(オハイオ州)のように,ペーパーバックのロマンス小説については貸出記録を取らない,というところもある。利用者は図書館のスタッフを経由せず,借出・返却を自分で行うわけである。

こうした実態が浮き上がらせるのは,米国の図書館ではジャンルを問わず,伝統的にハードカバー本が偏重されているという事実である。変化のきざしが見えてきているとは言え,まだなお大部分がペーパーバックで刊行されるジャンルであるロマンス小説にとっては,これは不幸な事態と言わねばならないだろう。

さらにまた,ロマンス小説冷遇のもう一つの要因としてリンツらが指摘する論点,すなわちロマンス小説に対する図書館員の偏見にも,注意を払う必要がある。ロマンス小説を,カバーのデザインを一瞥しただけで「馬鹿げた,とるに足らない本」と見下し,「図書館とは知識と文化の砦であり,読むべき本を推奨する場なのだ」と信じる図書館員の差別意識は,図書館での冷淡な扱われ方や,さらには図書館員の態度にまで表れている――リンツらはそう批判しつつ,図書館におけるロマンス小説の復権を,次のように訴えかけている。「図書館は,人々が何を読んでいるのかを見つめるべきである。読むべきだと図書館員が考えている本を,ではなく,人々が実際に読みたいと望んでいる本を,だ。」

鈴木 智之(すずきともゆき)

Ref: Linz, Cathie et al. Exploring the world of romance novels. Public Libr 34(3) 144-451, 1995