カレントアウェアネス
No.194 1995.10.20
CA1032
中国図書館情報学教育の発展
1987年以来,中国の図書館情報学教育は急速に発展してきた。これは,文化大革命が終わり,中国政府が政策転換を図る中で,図書館情報学教育が注目され始めたことによるだろう。すなわち,中国社会の近代化を早めるためには,図書館情報サービスの発達が必要とされ,その充実が求められるようになったということである。
ある報告によれば,1980年当時,図書館員で多少とも図書館教育を受けているものは全体の40パーセントに過ぎず,大規模図書館でも司書資格を持つ職員は5パーセントを超えない。つまり,専門知識を備えた図書館職員は大変少なく,その水準はかなり低いものだった。さらには,図書館員養成という面でも立ち遅れており,そのための教育施設も少なく貧弱だった。
1980年代に入り,このような状況を改善して図書館情報学教育の強化を図るための施策が次々と打ち出されていった。1980年5月の中国共産党中央書記処第33回会議において「図書館業務報告堤綱」が承認された。堤綱では大学教育の充実,図書館中等専門学校の創設,在職者に対する教育などが提言されている。さらに,1983年9月には,教育部から図書館情報学教育のありかたを規定する文書が公表された。こういったさまざまな提言を受けて,大学教育や図書館中等教育の充実が図られ,ラジオ・テレビ大学や通信教育を初めとする在職者のための教育も始まった。その結果,1978-90年の間に図書館学の履修者数は,1949-77年の期間のおよそ10倍に達した。また,この1978-90年の間には,実に中国国内の19の大学に図書館学の修士課程が開設された。さらに1991年には,北京大学に図書館学の,また,武漢大学に情報学の博士課程がそれぞれ開設され,1994年7月,最初の博士を6名誕生させるに至った。
このようにして中国の図書館学教育は拡大を続けてきたが,近年は,市場経済の発展と情報化の進展を反映して,従来の伝統的で画一的な教育から,社会の変化を反映した多様な教育を展開する方向に向かっている。情報化への取り組みという点に関していえば,上海大学,北京大学,北京師範大学,南京大学,中国科学技術大学,安徽大学など,大学の図書館学部が,情報管理学部というように名称変更を行うところが増えている。また,政府機関や企業の情報管理部門や,ソフトウェア会社などの情報産業に就職する修士課程修了者も増加している。これら近年の図書館情報学教育の変化の背景には,経済発展が続く中で,情報管理知識のある人材に対する需要が増え続けていることがある。
量的な増大と学習機会の多様化,そして伝統的な書誌学中心の図書館学から情報学への重点の移行は,中国の図書館情報学教育に大きな変化をもたらした。しかし,まだまだ課題も多い。特に問題なのが,基盤整備の立ち遅れである。西側諸国では当たり前となっているインターネットなどの通信ネットワークは,主として金銭的な問題により中国では普及していない。加入・利用・メンテナンスすべての料金が高額すぎて,とても一般人が支払える額ではないからである。中国政府は大学のネットワークを充実させ,情報学を学ぶ学生達が公共のネットワークやデータベースを利用することができるよう,何らかの資金援助をする必要に迫られている。しかし,こうして一般の人々が西側諸国の情報に自由にアクセスし,また西側諸国の人々と自由に討論したり,情報交換する機会を中国政府が積極的に提供するかどうかはわからない。図書館情報学教育の将来もこれによって大きく違ってくるのではなかろうか。
伊東敦子(いとうあつこ)
Ref: Wu, X.M. Library and information education in the People's Republic of China. Education for Information 12(2)247-257, 1994
Lu, S. Graduate education in library and information science in China. Journal of Education for Library and Information Science 35(4)350-355, 1994
富窪高志 中国の図書館情報学教育 情報の科学と技術40(5)351-357, 1990