第2章 図書館 (2.1 図書館の概要、2.2 地域資料サービスの体制)

第2章 図書館

 

 以下の分析は質問紙調査をもとにしている。対象図書館は、都道府県、政令市、人口15万人以上の市は全数、人口15万人未満の市、東京都特別区は半数、町村は5分の1を抽出している。以下で、「全体」としているのは、それら対象図書館からの回答の合計を指している。必ずしも日本の図書館の全体像とは一致していないことに注意されたい。

 

2.1  図書館の概要

 この項目は、本調査の基礎的資料として、図書館名、電話番号、記入者名、記入者の所属部門、図書館の創立年、所属する都道府県名・市区町村名・自治体コード、自治体人口、合併の有無について調べた。そのうち、地域資料との関係が深い創立年と合併の有無の2項目について述べる。

 

2.1.1 図書館の創立年

図2-1
図2−1 図書館の創立年(無回答館は追加調査して反映)

 図書館の創立年については、6館が無回答であったが、『図書館年鑑』で追加調査をし、設立年を創立年と見なして集計結果に反映した。

 ここでは、館種別の設置傾向を分析するため、1944年まで、1945〜1969年、1970〜1989年、1990年〜の4つの年代に区分して分析した。

 全体的な傾向としては、1970〜1989年が約30%近いが、4つの時期でほぼ同じくらいの数の図書館がつくられている。都道府県立は1944年までが62.7%、1969年までには80%が創立されている。市立は1970〜1989年に創立した館が多いが、戦前にできた館も一定数あり、人口15万人以上の市では半数、15万人未満の市では4割が1960年代までにできていることがわかる。町村立は1990年以降が59.1%、1970〜1989年が30.3%となっていて1970年以降が89.3%を占めている。

 創立年代は館種によって顕著な違いが見られる。総じて規模の大きな自治体ほど古くから図書館をもっており、人口が少ない市や町村は1970年代以降にできている。これは公立図書館史の傾向と符合していて、本アンケート調査との整合性が確認できるものとなっている。

 以下の分析で創立年代別の分析については、紙面の関係ですべての図や表を示していないが、説明のなかで「設立の古い図書館」とは1969年以前に創立した図書館、「設立の新しい図書館」とは1970年代以降に創立した図書館を指している。その数の内訳を次の表で示しておく。

表2−1 新旧の設立時期別の図書館数(実数)
表2-1

 

2.1.2 合併の有無

図2-2
図2−2 合併の有無(無回答を除く)

 合併については、都道府県及び特別区では実施されていないが、市立の内人口15万人以上の46.2%と内人口15万人以下の49.8%の図書館で自治体の合併があったと回答しており、回答館の内市立の半数近くと町村立の15.2%で自治体の合併が実施されている。

 『全国市町村要覧 平成18年版』によれば、2000年4月に3,229だったものが2006年10月には1,817となり43.7%の減となっている。また、『日本の図書館 統計と名簿2006』によれば、2006年の図書館設置率は市立97.9%、町村立51.6%になっている。

 

2.2 地域資料サービスの体制

2.2.1 地域や郷土に関する資料コレクションの名称

図2-3
図2−3 地域や郷土に関する資料コレクションの名称(無回答を除く)

 今回の調査対象資料の名称を尋ねたものであるが、「郷土資料」と回答した図書館が73.2%と最多であった。次に「地域資料」9.4%で、「郷土行政資料(行政郷土資料を含む)」、「地域行政資料(行政地域資料を含む)」の順となる。「その他」5.7%では、自治体等の地域名を付けている図書館が多い。

 館種別では、全体との差異が見られ、都道府県立図書館で「地域資料」の名称が13.7%と増え、「郷土行政資料」という名称は使われていない。また、政令市では「その他」が26.7%と多くなり、「郷土行政資料」は20%と比較的多い。町村立図書館では「郷土資料」の名称が89.4%と比較的多く、「行政」という言葉はあまり使われていない。

 創立年別では、「郷土資料」と回答した図書館が設立の古い図書館で76%、新しい図書館が70.4%、「地域資料」の用語は古い図書館で8.3%、新しい図書館で10.1%であった。新しい図書館ほど「地域」や「行政」という言葉を名称に取り入れる傾向はみられるが大きな差はない。「郷土資料」という名称は、図書館で長年使われていることもあり、今回の調査でも使用している図書館が多かったが、歴史的な資料というイメージがあり、行政資料や比較的広域的な資料を収集したいと意図する図書館は、他の名称を使用していることもあると思われる。

 

2.2.2 地域資料の施設の有無

表2−2 施設の有無(%)
表2-2

 地域資料の施設について尋ねたものであるが、「開架フロア」が61.6%と最も多い。 次に「書庫」31.8%で、「独立した部屋」、「共有の部屋」、「貴重書庫」の順となる。

 館種別では、全体との差異は少ないが、都道府県立図書館は、「書庫」が78.4%と多く、「貴重書庫」も37.3%と比較的多い。政令市では、「書庫」66.7%、「貴重書庫」53.3%、「独立した部屋」40%と多い。町村立図書館では「開架フロア」が75.8%と多い。

 創立年別では、「独立した部屋」が設立の古い図書館で27.6%、新しい図書館が18.4%となり差が見られる。「書庫」の設置は古い図書館が新しい図書館の2倍、「貴重書庫」については古い図書館は新しい図書館の3倍の設置率になっており、かなりの違いがある。

 これらの結果から見ると、図書館全体の施設面積が影響していること、比較的古い地域資料を持っている図書館が地域資料の専用スペースを持っていることが推察される。

 

2.2.3 地域資料の提供カウンター

 地域資料用のカウンターについて尋ねたものであるが、「レファレンスカウンターと兼用」が46.3%と最も多く、次に「その他」39.8%で、ほぼ同数である。「その他」では、貸出カウンターとの兼用が多く見られる。「専用のカウンター」は7.6%と少ない。

 館種別では、都道府県立図書館では、専用、レファレンス、その他がほぼ同数となる。 政令市、15万人以上、特別区では「レファレンスカウンターと兼用」が多く、町村立図書館では「専用のカウンター」が0%、「レファレンスカウンターと兼用」30.3%と少なくなる。

 創立年別では、「専用のカウンター」が設立の古い図書館で11.1%、新しい図書館が4.9%となり差が見られる。

 これらの結果を見ると2.2.2 の設問(施設)と同様の傾向が見られる。

図2-4
図2−4 地域資料の提供カウンター

 

2.2.4 地域資料担当者の配置

図2-5
図2−5 地域資料担当者配置率(複数回答可)

 地域資料の担当者の配置について尋ねたものであるが、「兼任」が66.9%と最も多く、次に「嘱託」22.2%、「専任」は、17.6%、「臨時職員」15.7%となる。館種別では、都道府県立図書館、政令市では、「専任」が多く、市立図書館、町村立図書館では「兼任」が多くなる。

 設立年別では、設立年の古い図書館で「専任」が32.2%であるのに対し、新しい図書館では13.3%となっていて差が見られる。

 複数回答可としているので、正確なことは言えないが、各図書館の職員総数が影響していること、比較的古い地域資料を持っている図書館では、専任の職員が担当していることが推察される。

 これをもっと詳しく把握するために、全国の地域資料担当者の数と司書率を職員の種類別に一覧にしてみた。専任職員の配置率は都道府県と政令市以外高くはないが、実際には県立図書館に100人、政令市に26人、市立図書館76人、特別区6人、町村立2人の計210人の専任図書館員が配置されていることがわかる。同じように、兼任職員は県立に99人、政令市に19人、市立図書館に596人、特別区に57人、町村に83人の計854人である。さらに、これに司書率が高い嘱託職員として、県立に68人、政令市に31人、市立に166人、町村に14人の計279人、臨時職員として、県立に13人、政令市に2人、市立に114人、特別区に3人、町村に25人の計279人が加わる。

表2−3 地域資料担当者数と司書率 (注 回答の関係で司書率は250%になる)
表2-3

 標本の抽出率と回収率(表1−1参照)を勘案して、全国の公立図書館で地域資料を扱う職員の総数を推測してみよう。そうすると、専任として330人ほど、兼任として2,200人ほどの正規職員がおり、さらに嘱託職員550人、臨時職員480人の非正規職員がいると計算できる。合わせると全国で3,500人程度になる。

 回答しなかった図書館は地域資料の職員体制が十分でないとも考えられるから、これはやや乱暴な計算で、最大に見積もってという数値である。平均してみれば、1自治体で正規職員が2人と非正規職員が1人担当しているかいないかというところである。しかしながら、地域資料を担当する専任職員が全国で300人、兼任職員が2,000人以上いるというのは予想外に多いと思われた。こうした職員のパワーをどのように生かすかが大きな課題になるだろう。

 

2.2.5 地域資料の予算

表2−4 地域資料の予算(%)
表2-4

 地域資料の予算について尋ねたものであるが、「予算配分はない」が44.1%と最も多く、次に「予算書の中に予算費目はないが、資料費全体の中から配分をうけて購入している」37.1%(以下「配分をうけている」)、「予算書の中に地域資料図書費等の名目で予算費目がある」は7.1%(以下「予算費目がある」)となる。

 館種別では、全体計と差異があり、都道府県立図書館は、「予算費目がある」が21.6%と多く、「配分をうけている」も56.9%と多くなる。特別区も予算配分を受けている図書館が多いようである。逆に政令市と町村図書館では「予算費目がある」が0%である。市立図書館では「予算配分はない」が多い。

 創立年別では、「予算費目がある」が設立の古い図書館で11.5%、新しい図書館では、3.7%となり差が見られる。

 設問1.1から1.6までは図書館の基盤である人、施設、資料費について尋ねたものであるが、館種別や創立年により同様な傾向を示したことがわかる。

 

2.2.6 地域資料サービスの重点領域

 設問の8.1に、サービスが歴史的資料を中心としているか、現代的資料を中心としているかを聞いた。これは、それぞれの館の課題を問う前に改めてサービスの自己認識を問うたものである。

図2-6
図2−6 サービスの重点

 都道府県立図書館、政令指定都市では9割以上、全体でも7割の図書館が歴史的な資料と現代的な資料の双方に力を入れていると答えている。歴史的な資料に力を入れていると現代的な資料に力を入れていると回答した図書館の数は拮抗している。町村立および人口15万人未満の市で1割前後の図書館が地域資料に関するサービスに力を入れていないと答えている点が注目される。

 また、設立が古い図書館は歴史的な資料と現代的な資料の双方に力を入れているところが多く、新しい図書館は地域資料に力を入れていない、あるいは現代的な資料のみに力を入れていると答えるところが多くなっている。