2.6 資料保存対策
2.6.1 資料保存に関する方針・基準
図2−22 資料保存に関する方針・基準
地域資料の保存に関する方針・基準の有無についての調査である。
全体的にはあるが54.1%、ないが45.1%で、資料保存の方針・基準がある館が過半数以上を占めている。館種別に見ると、政令市立が93.3%と非常に高く、都道府県立・特別区立・市立(15万以上)が60%を超えており、市立(15万人未満)と町村立が40%台となっている。創立年による相違はほとんどない。
2.3.3の収集方針・選書基準と比較してみると、収集方針・選書基準がない館が21.6%に対して資料保存の方針・基準がない館は45.1%と倍以上となっている。ここでは地域資料に限定して調査しており、図書館全体の資料保存方針や基準を準用しているのでないと答えているケースもあることを考えれば、この数値は予想以上に高く、時代に応じた図書館界の努力が感じられる。しかし、資料を収集するだけでは利用が保障できないことは近年の資料保存活動によって明らかになっており、地域資料の保存の必要性の高さと、資料は酸性紙問題を始めとした様々な劣化要因に曝されていることを考慮すると、地域資料の保存に関する方針・基準の作成が望まれる。
2.6.2 資料保存の方法
表2−28 地域資料の保存方法(%)
資料保存対策としてどのような方法を実行しているかを調べているが、全体的に見ると資料の脱酸処理をしたことがあると保存環境や資料の劣化調査をしたことがあるが3%台で、それ以外は概ね20%を超えている。
館種別に見てみると、都道府県立と政令市立が全体的に高い数値を示しており、特に資料保存の措置、新聞及びその他の資料の媒体変換は、他の館種に比べて圧倒的に高い数値を示している。また、古い図書館ほど保存対策がとられる傾向があることもわかる。
資料保存の基本的な対策である保存環境の整備と保存措置についてみてみると、全体では環境整備が18.4%、保存措置が25.1%と余り差がないが、都道府県立・政令市立・特別区立で保存措置の方が環境整備より30%以上高い数値を示している。これは都道府県立・政令市立では新聞及びその他の資料の媒体変換の数値の高さと相まって、資料の状態や保存対策の必要に応じて個別の対策が進んでいる証左であり、都道府県立・政令市立の資料保存に対する意識の高さを物語っている。
2.7 出版・コンテンツ電子化
2.7.1 ホームページの地域資料コーナー
設問では、全体及び地域資料についてそれぞれ貸出冊数、レファレンスの受付件数を尋ねている。
表2−29 ホームページの地域資料(%)
図書館のホームページで地域資料のコーナーがあるかどうか尋ねたものであるが、「ない」が最も多く、193館、41.6%であった。「利用案内程度」131館、28.4%を加えると7割の図書館で地域資料は、ホームページで詳細に紹介されていないこととなる。館種別にみると都道府県立図書館の49%、政令市図書館の40%が「地域資料のコーナーがある」と回答しており、他の図書館とで差を生じている。
2.7.2 地域資料の活用
地域資料に関して、ツール、出版、デジタルコンテンツ作成等、主に、図書館における地域資料の活用面について尋ねたものである。
所蔵目録
表2−30 地域資料の所蔵目録(%)
ここではOPACを除いた地域資料の目録作成の状況を聞いている。作成手段の中で全体で最も行われているのは、「冊子目録」で105館、21.4%の図書館で行われている。次に「デジタル化(業務)」9.2%、「デジタル化(公開)」8.4%と続く。かつて郷土資料目録を冊子体で作成することは取り組まれていたが、現在ではOPACに置き換わりあまりつくられなくなっている。ここでデジタル化としているのは、OPACに入力されない資料(新聞、雑誌、地図、写真、古文書等)の目録が作成されているものと考えられる。
新着地域資料案内
表2−31 新着資料案内の作成(%)
69.8%の図書館で回答がなかった。それでも実施館(計画中を含む、以下同じ)は170館30.2%で、特にインターネットでの公開が94館と多数を占めた。ツールの性格上、業務ではあまり必要とせず、冊子では公開しにくいということがあると思われる。
人物書誌(文献目録)、索引
表2−32 人物書誌(文献目録)、索引の作成(%)
地域に関わる人物に関する書誌ツールを作成している例を聞いている。82.9%の図書館で回答がなかったが、逆にいえば2割近くの図書館で作成しているともいえる。 実施館84館、17.1%では、「冊子体での作成」が最も多く38館、ついで「デジタル化(公開)」26館、「デジタル化(業務)」18館であった。
デジタル化を計画中も11館あった。館種別にみると都道府県立図書館の6割で実施、市町村立図書館では2割から1割程度の実施と開きがある。
主題書誌(文献目録)、索引
表2−33 主題書誌(文献目録)、索引の作成(%)
ここは、地域に関する(人物以外の)事項に関して書誌を作成しているかどうかを聞いている。83.9%の図書館で回答がなかった。 実施館74館、16.1%では、「冊子体での作成」が最も多く37館、ついで「デジタル化(公開)」23館、「デジタル化(業務)」19館であった。「デジタル化の計画」も17館あった。館種別にみると都道府県立の6割で実施、市町村立では2割から1割程度の実施と開きがある。ほぼ人物書誌と同じ結果となっている。
レファレンス事例集
表2−34 レファレンス事例集の作成(%)
65.9%の図書館で回答がなかった。 それでもレファレンス協同データベース事業の影響もあるのか、実施館167館と他のコンテンツと比較して多い。「冊子体」の図書館が最も多く56館、ついで「業務用にデジタル化」56館、「デジタル化(一般)」33館であった。デジタル化の計画も48館あることも特徴である。館種別にみると都道府県立の7割強で実施、市町村立では、政令市や特別区立等大規模図書館では実施率が高い。町村立では1割程度と未だ低い。
新聞記事クリッピング・記事見出し
表2−35 新聞記事クリッピング・記事見出しの作成(%)
新聞に関するツール作成について聞いている。69.8%の図書館で回答がなかった。実施館148館、30.2%と他のコンテンツと比較すると多いほうである。「冊子体」の図書館が最も多く93館、ついで「業務用にデジタル化」39館、「デジタル化(一般)」20館であった。「デジタル化の計画」も22館ある。館種別にみると都道府県立の4割強で実施、政令市や特別区立等大規模図書館では実施率が高い。しかし、15万人未満市や町村立でも作成している割合は他のツールよりは高いという結果だった。
利用者支援ツール
表2−36 利用者支援ツールの作成(%)
パスファインダー、FAQ、リンク集などの利用者支援ツールについて聞いた。87.8%の図書館で回答がなかった。必要度は高いと考えられるが低率である。 実施館60館12.2%では、「デジタル化(公開)」31館、ついで「冊子体」10館、「デジタル化(業務)」4館であった。「デジタル化の計画」は23館あった。館種別にみると政令市での実施率が高く5割弱で実施、逆に市町村立では1割以下の実施と開きがある。
子ども向けに編集した地域資料
表2−37 子ども向け支援ツールの作成(%)
以前より、社会科の調べ学習や総合的学習などの用途のために子ども向けの地域資料の必要性が言われていたので、質問項目に含めた。92.2%の図書館で回答がなかった。 実施館38館、7.8%では、「冊子体での作成」が最も多く21館、「デジタル化(公開)」5館、「デジタル化(業務)」3館であった。「冊子体の計画」は9館、「デジタル化の計画」6館と実施館に比して多い。館種別にみるとすべての館で1割以下と開きはない。著作権の問題もあり、作成しにくい図書館が多いと思われる。人口15万人以上の市での作成が比較的多いのは、ニーズに応えようという動きの現れであろう。
古文献、古文書等(復刻、翻刻、デジタル化)
表2−38 古文献、古文書等(復刻、翻刻、デジタル化)(%)
84.5%の図書館で回答がなかった。 実施館76館、15.5%では、「冊子体での作成」が最も多く32館、ついで「デジタル化(業務)」22館、「デジタル化(一般)」20館であった。「デジタル化の計画」も16館あった。館種別にみると都道府県立の6割弱で実施、政令市で5割弱の実施、他の市町村立では2割から1割程度の実施と開きがある。
写真資料
表2−39 写真資料(%)
92%の図書館で回答がなかった。 実施館39館、8%では、「冊子体での作成」が最も多く12館、ついで「デジタル化(業務)」13館、「デジタル化(業務)」10館であった。「デジタル化の計画」も5館あった。館種別でも大きな差はない。画像の扱いや著作権等の許諾が必要なこともあり、実施面で難しさがあるようだ。
ポスター、絵はがき、古地図など
表2−40 ポスター、絵はがき、古地図など(%)
88.2%の図書館で回答がなかった。 実施館58館11.8%では、「デジタル化(公開)」での作成が最も多く22館、ついで「デジタル化(業務)」16館、「冊子体」14館であった。「デジタル化の計画」も11館あった。館種別にみると都道府県立と政令市の5割で実施、市立では1割程度の実施と開きがある。町村立では実施館がなかった。同じく画像を扱う写真資料とは違った傾向が見られた。
地域関係出版物の編集・発行
表2−41 地域関係出版物の編集・発行(%)
図書館での出版物の編集発行はかねてから行われていたものである。89%の図書館で回答がなかった。 実施館54館11%では、「冊子体での作成」が最も多く46館、ついで「デジタル化(公開)」4館、「デジタル化(業務)」3館であった。「デジタル化の計画」は1館、「冊子体の計画」は7館であった。他のコンテンツと違い冊子体での提供が有効と考えられているようだ。館種別にみても大きな差はない。
自館史
表2−42 自館史(%)
出版の一つのかたちで自館史の有無について尋ねた。82%の図書館で回答がなかった。 実施館88館18%では、「冊子体での作成」が最も多く77館、ついで「デジタル化(公開)」10館、「デジタル化(業務)」2館であった。「デジタル化の計画」2館、「冊子体の計画」5館であった。館種別にみると政令市で6割、都道府県立図書館の5割で実施、市町村立図書館の2割程度と開きがある。創立年による比較では、1945年以前の創立館では33%、それ以後では13%と若干の違いが見受けられた。
自治体HPのデジタル保存
表2−43 自治体HPのデジタル保存(%)
95.7%の図書館で回答がなく、項目中最も実施館が少なかった。 実施館21館4.3%では、「冊子体での作成」が最も多く5館、ついで「デジタル化(公開)」2館、「デジタル化(業務)」1館であった。「デジタル化の計画」9館、「冊子体の計画」5館であった。新しい分野とも考えられるが、冊子体での記録も可能であるので、比較的取り組むことは難しくない。デジタル保存となると様々な課題があり、現行実施館は希少であるが、今後NDLのWebアーカイビング事業の進展とからみ、公共図書館での実施も行われることになるだろう。また、この問題は公文書館の課題でもある。