1.はじめに
この報告書は、国立国会図書館が実施した「電子情報の長期的な保存と利用」についての調査研究のうち、平成15年度と平成16年度に実施したCD-ROMに代表されるパッケージ系電子出版物の利用可能性調査の結果をまとめたものである。
電子情報の利用には、それを記録した媒体と媒体に対応した再生機器が必要である。しかし、媒体の寿命は適切な環境で保存しても20〜30年程度ともいわれており、再生機器自体の寿命はさらに短い。また再生機器や媒体の規格も頻繁に変わるため、規格が旧式化したものを入手することは困難になる。パッケージ系電子出版物は電子情報を媒体に記録したものであり、再生にあたっては様々な課題を含んでいる(1)。
国立国会図書館は、国の唯一の納本図書館・保存図書館として国内で刊行される出版物を広く収集し、貴重な文化遺産として保存し、後世に遺していくという役割を担っている。近年、紙媒体の出版物の付属物としてのフロッピーディスク(以下、「FD」)やCD-ROMなどや、電子媒体を主とするパッケージ系電子出版物の増加にともない、平成12年に国立国会図書館法を改正(2)し、従来の紙媒体などの出版物のほかに国内で発行されたパッケージ形電子出版物についても、納本制度により網羅的に収集している。
国立国会図書館が所蔵するパッケージ系電子出版物の長期的な保存と利用を確実なものとするためには、その実態を把握し、長期保存対策を講じる必要性がある。そこで平成15年度には最新パーソナルコンピュータ(以下、「PC」)環境における利用可能性調査を行い、その調査で明らかになった利用上の問題を解決するために、平成16年度には長期保存のための対策といわれているマイグレーションとエミュレーションを試行し、これら対策を評価した。
平成15年度の調査では、サンプル調査したパッケージ形電子出版物(200点)の約7割(138点)に利用上の問題があることが明らかになり、平成16年度の調査では、異種媒体への移行としてのマイグレーションは容易に実施できること、エミュレーションやファイル形式の変換としてのマイグレーションについては現時点では有効な技術的な解決手段とは言いがたいことが分かった。
それぞれの調査結果について、次章以降で詳述する。
(1) 電子情報の保存にともなう課題は欧米豪の国立図書館やその他の機関では早くから認識されており、1990年代からさまざまな取り組みが行われている。いずれの国においても国立図書館が先導しており、国立国会図書館も平成14年度から調査研究を開始した。
(2) 国立国会図書館法の一部改正法(平成12年10月1日施行)。なお、これ以前からパッケージ系電子出版物を購入その他の方法で収集している。