第1章 米国の図書館の概況(はしがき)
本章においては、アメリカ合衆国の図書館界とそれを構成するALAなどの関係団体、各館種の図書館の沿革と現況、図書館サービスと活動について、その全体像を多面的に描き出そうとした。図書館はいま、図書や雑誌といった伝統的な紙媒体資料を中心とした資料やそこで確認できる情報をライブラリアンを通じて提供する実在的な図書館(physical libraries)から、時空を超えるネットワークを通じてデジタル・コンテンツへのアクセスを提供する仮想的な図書館(virtual libraries)への過渡的な「ハイブリッド・ライブラリー」の姿をとっている。『数値で見る米国の図書館』は、このハイブリッド・ライブラリーの現実を、関係する年鑑やハンドブック、連邦政府のホームページなどを渉猟し、それらを具体的な数字で示すことに努めた。
図書館にとどまらず、資本主義社会において一定の社会的な機能の発揮を期待される施設は、そこに配置されその職務を遂行する「ヒト」と、その人の日常的業務の展開に不可欠な「モノ」、そしてそれらの人を雇用し物を維持・調達するための「カネ」を必要とする。ヒト、モノ、カネといった資源を合理的に割り当てる役割をになうのが法と制度である。しかし、法と制度を小手先でいじってみても現実が大きく変化するわけではない。状況を打開する効果的で適切な「チエ」が求められる。それだけではない。アメリカの図書館をアメリカの図書館らしくしているのは、図書館の法と制度を支える「図書館文化」である。アメリカの図書館のもつ良いところを表面的に真似ようとしても、文化がついてこなければ図書館サービスの改善にはつながらない。
本章の解説、統計等から、皮相的な図書館の現実にとどまらず、アメリカの図書館文化まで学び取っていただければ、幸いこれにすぐるところはない。
(山本 順一)