E2108 – 第20回灰色文献国際会議<報告>

カレントアウェアネス-E

No.364 2019.02.28

 

 E2108

第20回灰色文献国際会議<報告>

 

 第20回灰色文献国際会議(Twentieth International Conference on Grey Literature:GL20)が2018年12月3日と4日の2日間にわたって米国のニューオーリンズで開催され,13か国から約40人が参加した。

 主催するGrey Literature Network Service(GreyNet)は灰色文献に関する研究およびその実践,コミュニティ醸成のために活動する国際的な組織である。灰色文献は,会議録やテクニカルレポートといった資料種別でイメージしがちである。しかし,GreyNetは2014年のピサ宣言において「膨大な知識と情報は,幅広い主題領域と専門分野の組織,政府および産業界において生み出されるが,商業出版のような流通ルートには乗らない。これらの出版物,データおよび資源は灰色文献と呼ばれ,学術コミュニケーション,研究,ビジネス,産業,専門職の実務,市民社会の政策決定において不可欠な資源である」と位置づけている。技術資料も研究データも,同様に灰色文献なのである。

 本会議では過去にも研究データが取り上げられてきたが(E1382E1787参照),GL20では「研究データは灰色文献を刺激し支える(Research Data Fuels and Sustains Grey Literature)」のテーマのもと,「研究データとオープンアクセスのコンプライアンス」「データ管理と図書館員の役割」「灰色文献における現在の研究動向」と研究データを主な焦点としてセッションが設けられた。基調講演に続いて15件の口頭発表と15件のポスター発表があり,研究データの管理・公開やその支援,図書館員の役割について事例報告等が行われた。筆者はポスター発表において,会議録を中心としたパッケージ系電子出版物の長期アクセス保証と保存に関して,国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)図書館の状況を報告した。ほかに,機関リポジトリのコンテンツ収集や家庭医学分野での分類法開発についての報告のように,灰色文献を視座として学術資源における検索・利用可能性向上に関する多様な発表が行われた。

 国際原子力機関(IAEA)のサビック(Dobrica Savić)氏は研究データを記録,価値,帰属,持続性,利用,公開,査読の観点からWhite(open)/Grey/Dark dataと定義し,このうちGrey dataとは利用,公開,査読の点で不十分なものであるとした。Grey dataが増えるほど加工・配布・管理・利用する方法に影響があり,高度な信頼性が求められること,Grey dataの持続可能性を高めるには環境と技術,財政的な側面と同様にデータを収集・管理する組織の方針等も考慮すべきであること,利用と保存,価値の維持には提供者への技術的教育,幅広い協力と適切な管理が必要であることを述べ,Grey dataの検索と利用可能性の向上を促した。

 イタリア・情報科学技術研究所(Institute of Information Science and Technologies)のジャンニーニ(Silvia Giannini)氏らはデータライブラリアン像を描くべく事例を調査し,(1)研究データを扱うスタッフや学生を支援するためのサポートを行う例,(2)フロントオフィス-バックオフィスと分けて研究データのキュレーション,管理や保管およびそれらに関する研究者への直接サービスを行う例,(3)図書館およびITサービスと研究者を支援する技術的サービスを行う例,並びに必要なスキルを概説した。デジタルリソースを取り扱う図書館員の役割はコレクション構築やメタデータ作成といった従来の業務やスキルの再解釈と見なせるが,データライブラリアンの役割は従来の業務・能力と新たに獲得するスキルとからなる複合的なもので,世界でも様々な状況や背景がある,と現状を述べるにとどまり,データライブラリアンの役割が複雑で定義するのが困難だとしても,理想郷や実現不可能な立場として捉えるべきではない,とまとめた。

 データ管理と図書館員の役割に関するセッションでは,研究データのライフサイクルにはデータポリシーやデータ管理計画の策定,データの収集,生成・分析,公開・共有,再利用など様々な場面があり,図書館員は従来の経験や役割を拡張し,他部署と協働しながら研究データのライフサイクルに応じた様々な役割を担うことができることが示唆された。一方で,図書館員の役割や求められるスキルセットが多様化している現状やその対応に必要なバックグラウンド,研究者や学生への教育まで担えるのか,といった点について活発な意見交換が行われた。

 世界的にオープンサイエンスの取組みは進展している。日本では2018年6月に閣議決定された統合イノベーション戦略において国立研究開発法人に対してデータポリシー策定が求められており,JAEAも検討を進めているところである。GL20を通して,研究データを管理・公開することの重要性は認識されているものの,そのための実際の手続きやライセンス付与といったGreyな状態からの脱却や図書館員の貢献については,いずれも試行錯誤が続けられていることがうかがえた。国際動向を注視しながら自機関に適したあり方を構築することとなる。そのためには,国内外および組織内外における協働や研究者とのコミュニケーションが一層必要となろう。

 GL21は「オープンサイエンスは新しい灰色文献の形を包含する(Open Science Encompasses New Forms of Grey Literature)」をテーマとして2019年10月にドイツのハノーバーで開催を予定しており,発表募集が行われている。

日本原子力研究開発機構・熊崎由衣

Ref:
http://www.textrelease.com/gl20program.html
http://greyguide.isti.cnr.it/pisa-declaration/
http://greyguide.isti.cnr.it/greynet-international-business-report-2019/
https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/index.html
http://www.textrelease.com/gl21callforpapers.html
E1382
E1787