E1983 – 「デジタルアーカイブ」と「研究データ」の出会い<報告>

カレントアウェアネス-E

No.339 2017.12.21

 

 E1983

「デジタルアーカイブ」と「研究データ」の出会い<報告>

 

 2017年11月6日,国立国会図書館(NDL)は,国文学研究資料館(国文研)と人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)の後援を受けて,東京本館で報告会「「デジタルアーカイブ」と「研究データ」の出会いシンポジウム~データの保存と活用へ,ライブラリアンとアーキビストの挑戦」を開催した。本報告会は,NDLが共同運営機関を務めるジャパンリンクセンター(JaLC)の研究データ利活用協議会(RDUF)平成29年度第1回研究会という位置付けでもあった。

 本報告会のテーマは「出会い」である。デジタルデータの保存・管理・活用について,デジタルアーカイブ関係者と研究データ関係者との間で,分野を超えた出会いから生まれた事例等の情報交換や,人的交流を深める場となることを期待して開催した。前半は,第10回研究データ同盟(RDA)総会(E1972参照)及び第14回電子情報の長期保存に関する国際会議(iPRES2017)の2つの国際会議の報告,後半は国内事例の報告があり,最後にフロアを交えたディスカッションが行われた。当日は研究者や図書館員,学芸員等179名の参加があった。

 前半は,最初にRDA総会参加報告があった。RDUF副会長である情報通信研究機構の村山泰啓氏から,5周年を迎えたRDAの意義やオープンサイエンスにおいてRDAが果たす役割について報告があった。RDAによる永続的識別子等に関する4つの提言が欧州委員会(EC)のICT技術標準として認定を受けたことが挙げられ,世界に向けて影響力を発揮していることが紹介された。続いて科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の林和弘氏から,化学の結晶構造の研究データを共有するために利用されてきたCIFフォーマットをもとに,結晶化学以外の分野においても相互運用可能な標準フォーマットを策定する取組等について紹介があり,コミュニティに認められた共通フォーマットを策定することがデータ共有の鍵になると指摘があった。

 次に,iPRES2017参加報告があった。筑波大学の杉本重雄氏から会議の概要について紹介があった。長期保存を俯瞰的に捉えて,保存対象となる領域固有の要件と領域間共通の要件を把握する必要性や,保存内容の長期にわたる利用を可能にするという視点をもってデジタル長期保存技術の研究開発に取り組む必要性があると指摘された。続いて国立極地研究所の南山泰之氏から,FAIR(研究データの再利用を促進するための原則)やCoreTrustSeal(データリポジトリの信頼性認証機関)といったデータリポジトリ認証に関連する動向や,研究データ管理のためのツール開発といった海外の研究紹介のほか,iPRES2017での自身の発表内容であるオープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)研究データタスクフォースの活動の紹介があった。

 国内事例報告では,デジタルアーカイブと研究データの双方の視点から5つの機関の取組が紹介された。

 国立情報学研究所(NII),CODHの北本朝展氏からは,デジタルアーカイブと研究データの出会いの事例として,CODHが制作した江戸料理レシピデータセットの紹介があった。デジタルアーカイブを構築・運営する上で考えるべき価値として,基礎価値・付加価値・長期価値の3つを挙げ,保有するコンテンツからどのように付加価値を生み出すかを考える役割を果たすデジタルキュレーターが必要であると指摘があった。

 国文研の山本和明氏からは,同館の新日本古典籍総合データベースにおけるデジタルオブジェクト識別子(DOI)の付与とその意義について紹介があった。DOIの付与により論拠となる作品画像への安定的アクセスが実現し,検証可能な人文学研究の構築に寄与すると指摘された。

 国立科学博物館の神保宇嗣氏からは,自然史標本データベースについて,同館の標本・資料統合データベースとサイエンスミュージアムネット(S-Net)の紹介があった。自然史標本データベースの課題として,利活用事例を増やす努力やデジタルアーカイブ担当者の人材育成が挙げられた。

 国立公文書館アジア歴史資料センターの佐野豪俊氏からは,同センターの設立経緯や目的のほか,同センターのデータベースにおけるテーマ別検索のナビゲーション機能であるアジ歴グロッサリーや,表記ゆれ等に対する検索機能の向上について紹介があった。

 NDLの川鍋道子からは,国立国会図書館デジタルコレクションによるデジタル化資料提供,インターネット資料収集保存事業(WARP)等を紹介した。また,NDLによる研究データアーカイブへの積極的関与の例として,利活用促進に向けたデジタル化資料へのDOI付与,WARPの仕組みを用いた他機関作成の研究データの長期保存等の紹介があった。

 最後に,RDUF会長であるNIIの武田英明氏による会場に向けたRDUFの活動紹介の後,北本氏を司会にフロアを交えてディスカッションが行われた。ディスカッションでは,研究対象となる資料がデジタル化されることでデジタルアーカイブと研究データが不可分になっており一体として考える必要があること,研究データは特定の利用者層が想定されうるがデジタルアーカイブは想定がないこと,その一方で,両者ともにデータの利活用に向けてはデジタルアーカイブに関する学会やメーリングリスト等,異分野と出会うための社会的な仕組みが必要であることなど,活発な議論があった。出会いを増やす工夫として,直接会って話すことが重要であり,イベント等を開催し,互いの理解を深めて潜在的な利用を掘り起こすのがよいとの意見があった。

電子情報部電子情報サービス課次世代システム開発研究室・青池亨

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/201711rda.html
https://japanlinkcenter.org/top/material/index.html
http://japanlinkcenter.org/rduf/index.html
https://www.rd-alliance.org/plenaries/rda-tenth-plenary-meeting-montreal-canada
https://www.rd-alliance.org/supporting-public-procurement-europe-4-rda-recommendations-open-data-sharing-now-published-ict
https://ipres2017.jp/
https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/
http://codh.rois.ac.jp/edo-cooking/
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http://db.kahaku.go.jp/webmuseum/
http://science-net.kahaku.go.jp/
https://www.jacar.go.jp/glossary/
http://warp.da.ndl.go.jp/
E1972