E1984 – ボーンデジタル資料の法定納本政策や実務に関する調査

カレントアウェアネス-E

No.339 2017.12.21

 

 E1984

ボーンデジタル資料の法定納本政策や実務に関する調査

 

   国際図書館連盟(IFLA),国際インターネット保存コンソーシアム(IIPC),米・ミズーリ大学ドナルド・W・レイノルズ・ジャーナリズム研究所(RJI)及び同大学図書館からなる研究グループが,2017年7月中旬から8月末にかけて,各国のボーンデジタル資料の納本政策や実務に関する調査を行なった。そして,独・ザクセン州立図書館兼ドレスデン工科大学図書館で開催された,第83回IFLA年次大会(E1974参照)のニュースメディア分科会のサテライトミーティングにおいて,調査実施にあたっての調査の最適化のための取組や,欧米を中心とした18か国19館が回答した段階での中間集計の結果を報告している。本稿では,当日の予稿からその内容を紹介する。

●納本政策

   17館で法定納本制度が整備されており,デジタル著作物も対象であるのは14館である。そのうち,出版者に納本義務があるのは6館で,4館では,例えば電子版修士・博士論文など資料の種類により納本義務がある。納本制度の対象外であっても,デジタル著作物の寄贈を受けている館のほか,オンライン著作物のコピーが認められている館,有料のオンライン著作物に図書館からアクセスできる規定がある館,フェアユースに基づきウェブ情報を収集する館もある。 

   14館では図書館等によるウェブ情報の収集が認められており,そのうち11館では有料のものも対象である。ウェブ情報の収集ソフトウェアが守るべき規約を記述するrobots.txtファイルの内容を無視して事前通知なしに収集することが法的に認められている館や,出版者にデジタル著作物のコピーの提出を要請できる館もある。

●実務

・収集方式
   14館が出版者からデジタル著作物の送付を受け入れており,その方式はFTP10館,物理媒体7館,電子メール4館,共有フォルダ3館,RSS1館である。OAI-PMHや,ファイルのアップロードが可能なウェブフォームやウェブサイトを構築している館もある。対応フォーマットは,PDF14館,EPUB12館,TIFF9館,JPEG8館,MOBI3館,OpenDoc2館で,MP3・MP4(マルチメディア),XML(雑誌記事),ZIP(研究データ)に対応している館もある。3館では送付された全デジタル著作物の受け入れが義務付けられており,4館は義務づけられていないが全てを受け入れている。また,担当者が選定して受け入れているのは4館である。FTPや電子書籍の流通事業者を通じ,契約を締結した出版者からの一括収集を実施している館もある。

・提供方法
   収集したデジタル著作物を館内のみで公開しているのは8館,館外公開が3館,一定の利用不可期間後の館外公開が2館である。著作権者・出版者との契約により館外公開する館,ウェブアーカイブは館外公開する館や,公的助成を受けた研究成果の館外公開のため研究機関と契約する館,出版者に決定権がある館もある。館内のみでの公開の場合,閲覧は専用端末で,複写は紙のみといった制限があることが多い。

・ウェブアーカイブ
   18館がウェブアーカイブを実施し,有料ウェブサイトは4館が収集対象としており5館では選択して収集している。収集データは,10館が全データを,12館は担当者が選定して保存している。12館には,著作者の出身地・出版地,著作物の言語,トピック・テーマ,利用者からのリクエスト等といった選定基準がある。収集頻度は,月1回4館,1日1回4館,週1回3館,1日数回2館,週数回・月数回が各々1館の順となっている。選択収集は包括収集より収集頻度を増やす館が多く,政治家や政府機関のTwitterを,その更新頻度に合わせて収集する館もある。電子新聞の収集頻度は,1日1回6館,1日数回・月1回が各4館,週1回3館,週数回2館,月数回1館の順であり,3館では未実施である。容量の問題から社説のみ収集する館もある。デジタル著作物の公開情報の把握方法は,ウェブサイトの目視が7館,RSSの購読が3館で,8館では確認していない。

・保存
   17館がデジタル著作物の保存が求められていると回答しており,うち15館には保存に関する義務規定があり,2館は保存を実施しているものの法的義務はないと回答している。

●まとめ

   同研究グループは,2014年に初回調査を実施し,世界的にデジタル著作物に対応するための法制度が未整備であることや,北欧諸国の先進性といった指摘を行なっている。本調査は,その後の動向把握を目的としており,実施にあたり,今後の関係機関による調査の重複実施を避け,定期調査による動向把握を可能とするため,過去12年間に,IFLA,欧州における視聴覚資料保存のための研修(TAPE),英国図書館(BL),IIPC,オランダ王立図書館(KB),米・国家デジタル管理連盟,RJI,ユネスコ等が実施した類似調査を分析し,調査の最適化を試みている。回答率の低下防止のため単一回答方式を導入するとともに,コンテンツや技術に関する設問では包括的かつ有用な情報を得るために回答項目を複数用意し,自由記述欄も設けるなど,設計上の工夫もなされているほか,オンライン調査ツールを採用し,回答者の負担軽減も図っている。今後は,調査の包括性を高めるため,英語に加え,他の国際共通語での調査票の作成が計画されているほか,IFLAとIIPCでは,同調査を支援する共通基盤の構築を検討してもよいと考えているという。同研究グループによる調査は,引き続き注目する必要があるだろう。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
https://www.slub-dresden.de/en/about-us/cooperations/ifla-2017-news-media-satellite-conference/
http://library.ifla.org/1905/
http://library.ifla.org/1905/1/S18-2017-zarndt-en.pdf
https://www.ifla.org/files/assets/clm/publications/13_-_2015_an_international_survey_of_born_digital_legal_deposit_policies_and_practices.pdf
E1974
E1639
E1960