カレントアウェアネス-E
No.337 2017.11.16
E1972
研究データ同盟第10回総会<報告>
2017年9月19日から21日にかけて,「障壁なきデータ共有」をスローガンとする研究データ同盟(RDA;CA1875参照)の第10回総会が,カナダのモントリオールで開催された。RDAには130の国・地域から6,000人以上が登録している(第10回総会時点)。本総会には437人が参加し,日本からは14人が参加した。
オープニングの全体会は,第10回目という節目を迎えるにあたり,RDAのこれまでの歩みを振り返ると共に,今後について考える良い機会であるという,ディロ(Ingrid Dillo)暫定事務局長の言葉で幕を開けた。続く基調講演では,ディープラーニングの分野で著名な研究者であるモントリオール大学のベンジオ(Yoshua Bengio)氏が登壇し,本総会のテーマである“BETTER DATA, BETTER DICISIONS”に沿って,データ駆動型の研究における道徳的な問題やデータの信頼性確保を話題として挙げた。また2日目午後の全体会では,成熟期を迎えたRDAのこれからの拡大や連携,持続可能性の方針を盛り込んだ“RDA Strategy 2018-2020”の策定が進められていることが報告された。
RDAはBirds of a Feather(BoF),Interest Group(IG),Working Group(WG)という3種類のグループから構成されており,議論の進度に応じて,BoF,IG,WGと段階が進む。第10回総会時点ではWGが30,IGは58設置されていた。総会では,全体会の他に分科会での議論の時間が設けられている。グループ同士が協力することが推奨されており,複数のBoF,IG,WGが共催する分科会も開かれている。
個別の分科会について,筆者の参加したものから興味深かったものを2つ取り上げる。
1つは「研究データのための図書館」(Libraries for Research Data)IGの分科会である。RDAの参加者にはデータ共有に関心のある研究者が多いが,創立当初から図書館員の参加も少なくない。第2回総会でBoFとして設置され,第5回総会からIGへ昇格したこのIGは,研究データへのアクセスと長期利用保証という問題に対し,人的または制度的なネットワークの構築を目的とするものである。本分科会では,図書館における研究データに関するサービスの現状と自己評価の方法について,OCLC Research,ドイツのゲッティンゲン州立・大学図書館,米国のピッツバーグ大学,英国のデジタルキュレーションセンター(DCC),オランダのデルフト工科大学図書館から報告があった。その後のディスカッションでは,図書館が研究データに関わる意義について議論され,分野を超えたデータ共有や標準の策定には,それぞれの分野に接点を持つ図書館こそが分野間を取り持つことが可能であり,またその必要性が確認された。分科会の最後に,図書館員による図書館員のためのITスキル普及活動である“Library Carpentry”の紹介があった。ソフトウェアやデータベースの基礎的な知識を身に付けることで業務を効率的にこなし,再利用可能な形でデータを維持・管理できるようになるための活動である。この活動の有効性をどのように評価するかが今後の課題として挙げられた。
もう1つは「デジタルリポジトリ認証」(RDA/WDS Certification of Digital Repositories)IGの分科会である。データの信頼性を担保した共有には,まず信頼できるデジタルリポジトリで長期保存をする必要がある。このIGでは,リポジトリの信頼性を評価するための認証制度の確立に向け,現状確認や推奨・必須とされる要素や機能の提言が行われている。本分科会では,本総会直前の2017年9月11日に設立されたデータリポジトリの認証機関CoreTrustSealに関する説明の後,米国のコロンビア大学から認証制度の位置づけとしてISO 16363(Audit and certification of trustworthy digital repositories)認証との関係について報告があった。研究ソフトフェアの長期利用保証を行なっている機関Software Sustainability Instituteからソフトウェア認証への拡張案について,「データの利用適合性評価」(WDS/RDA Assessment of Data Fitness for Use)WGから,信頼性確保や流通促進に向けデータセットそのものに認証を付与するという拡張案についてそれぞれ報告があった。中でも,コロンビア大学の報告において,長期保存リポジトリの評価基準を定めたISO 16363という上位の認証に向けた第一歩として,CoreTrustSeal認証が位置付けられ,すでに130以上の機関が認証をクリアしていると発表された点が注目された。
事例の積み重ねによりベストプラクティスを導出し,標準化に向けた提言を行うというアプローチを取るRDAは,半年ごとの総会であっても数多くの事例報告がある。研究そのものや研究データの変化に合わせた対応には,今後も各機関の課題に応じた事例の集積が必須であると感じた。
次回(第11回)のRDA総会は2018年3月21日から23日まで,ドイツのベルリンで開催される。また,本総会のクロージングセッションでは,第12回総会が第2回International Data Weekの一環として,2018年10月にボツワナのハボローネで開催されることが発表された。
電子情報部電子情報サービス課次世代システム開発研究室・里見航
Ref:
https://www.rd-alliance.org/plenaries/rda-tenth-plenary-meeting-montreal-canada
https://www.rd-alliance.org/ig-libraries-research-data-rda-10th-plenary-meeting
https://www.rd-alliance.org/ig-rdawds-certification-digital-repositories-rda-10th-plenary-meeting
https://librarycarpentry.github.io/
https://www.coretrustseal.org/
https://www.iso.org/standard/56510.html
E1869
E1888
CA1875