E1936 – セミナー「研究データマネジメントの理想と現実」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.329 2017.07.27

 

 E1936

セミナー「研究データマネジメントの理想と現実」<報告>

 

 京都大学学術情報メディアセンターでは,月に1度を目安に各分野から講師を招き,セミナーを開催している。2017年5月26日には,「研究データマネジメントの理想と現実」と題したセミナーを開催した。

 セミナーの前半は,国立情報学研究所(NII)オープンサイエンス基盤研究センター(E1925参照)の山地一禎氏から,「オープンサイエンスや研究公正対策に向けた新しい学術情報インフラ」という題目で講演があった。山地氏はまず,研究データの公開や共有を目指すオープンサイエンスは,研究者による自発的な活動から始まり,今では研究資金配分機関の助成ポリシーに影響を及ぼす時代となっている,と指摘した。特に欧米においては,オープンサイエンスの推進に必要な,研究者,研究機関,政府並びに研究資金配分機関の役割を明確にした上で,研究データマネジメントの制度及びシステム基盤の整備が進められている。講演では国レベル(欧州連合,米国)での関連予算投入状況,大学単位(英国エディンバラ大,米国パデュー大)でのデータマネジメントポリシー策定,運用サポートシステムの例が紹介された。日本においては,特に研究公正の維持の視点に立った研究データマネジメント体制の構築が急がれており,オープンサイエンスはこれからの対応が重要との認識が示された。そして,NIIで現在構築中の「データ公開」「データ管理」「データ検索」の機能を持つオープンサイエンス基盤システムが紹介された。機関リポジトリの運営における経験を活かし,この基盤システムの普及・整備を全国レベルで効率的に進めたいとの展望が示された。

 セミナーの後半は,京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センターの能勢正仁氏から「太陽地球系科学分野における研究データマネジメントの一実践例と現状の課題」という題目で,2013年度から2016年度に能勢氏が民間基金から助成を受けた太陽地球系研究プロジェクトでのデータ公開の実践例が紹介された。講演の冒頭で,本研究では地磁気の変動を年単位で解析する必要があるため,長期間にわたりデータを収集できる環境の選定,測定装置の製作から始まる,といった研究現場が紹介された。そして,そのデータを公開する際に直面した多数の課題が提示された。まず,データ容量は1日あたり470MBもあり,これを自身のウェブサーバーで公開するためにはサーバーの維持に不安があることが紹介された。さらに,DOIの取得,メタデータの付与等,データセットを流通させるための付加作業が発生するが,細かな作業にまでは手が回らないことが挙げられた。これらのことから,専門性を持ったスタッフによるデータ整理,公開基盤の維持管理への協力が必須であることが指摘された。また,データセットをデータジャーナル(CA1858参照)に公開する場合,原著論文1本分の手間とリポジトリ公開費用が必要となること,データ引用のルールが未整備であるため評価に結び付きにくい等,データジャーナルにおけるデータ公開へのインセンティブの在り方についても多くの課題があることが示された。

 講演後には,日本におけるデータマネジメントの認知度,DOI取得の手続き等について,活発な質疑応答がなされ,研究データマネジメントとオープンサイエンスの現状に対する認識を深める機会となった。

京都大学情報環境機構・青木学聡

Ref:
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/events_news/department/media/events/2017/170526_1400.html
E1925
CA1858