E1912 – ぬいぐるみお泊まり会:読書活動の促進と効果の持続性

カレントアウェアネス-E

No.325 2017.05.25

 

 E1912

ぬいぐるみお泊まり会:読書活動の促進と効果の持続性

 

●研究背景

 ぬいぐるみお泊まり会は米国のペンシルバニア州の公共図書館で始まったと言われている。2007年1月の米国の新聞記事でぬいぐるみお泊まり会が紹介されており,「昨年の夏に行われていた公共図書館のプログラムからアイデアを得た」と記載されていることから,2006年頃にはすでに同様のプログラムがあったと思われる。ぬいぐるみお泊まり会では,子どもが図書館にぬいぐるみを預けて帰った後,ぬいぐるみたちが絵本を読んでいたり,他のぬいぐるみたちと一緒に遊んだりしている場面の撮影が行われる。そして,翌日以降,ぬいぐるみを迎えに来た子どもに写真と絵本が手渡され,この絵本はぬいぐるみが読んでいたと伝えられる。このような体験は子どもの読書活動を促進させるのではないかと期待されており,日本各地の図書館でもぬいぐるみお泊まり会が行われるようになった。しかし,ぬいぐるみお泊まり会が子どもたちの読書活動の向上に貢献しているかどうかは検証されておらず,効果は明らかになっていなかった。そこで,筆者らの研究グループでは,ぬいぐるみお泊まり会が子どもの読書活動に与える効果について検証を行った。

●調査概要:研究1

 ぬいぐるみ(13体)を幼稚園に提供し,ぬいぐるみに対する子どもの愛着形成が確認できた後に,ぬいぐるみお泊まり会を開催した。本研究に参加した子どもは42名(平均月齢65.2か月)であった。ぬいぐるみお泊まり会の実施方法は各図書館によって多少は異なっているが,一般的には,(1)ぬいぐるみと一緒に絵本のお話を聞いてもらい,(2)ぬいぐるみを預かり,(3)閉館後にぬいぐるみが絵本を読んでいる場面の写真を撮影し,(4)後日ぬいぐるみを返却すると同時に,(3)で撮影した写真とぬいぐるみが読んでいた絵本を紹介する,という順番で実施されていることが多い。また,絵本を紹介する際,写真を見せながら,大切にしているぬいぐるみが選んだ絵本であることが子どもに伝えられる。本研究においても,同様の手続きに沿ってぬいぐるみお泊まり会を開催した。

●調査結果

 幼稚園内の図書室で観察を行った。調査日は,お泊まり会の翌日,3日後,1か月後の3回であった。午後の自由時間になると,子どもたちは図書室へ来て絵本を選び,ぬいぐるみに選んだ絵本を読み聞かせた。ぬいぐるみに絵本を読み聞かせていた子どもは,お泊まり会参加前では42名中2名(5%)だったが,参加後では42名中21名(50%)であった。しかし,3日後に同様の観察を行ったところ,ぬいぐるみに読み聞かせを行っていた子どもは42名中4名(10%)に減少し,1か月後では42名中2名(4%)だった。本研究の結果から,ぬいぐるみお泊まり会は子どもの読書活動の促進に効果があることが示唆された。さらに,効果が持続する期間は極めて短いことも明らかになった。

●調査概要:研究2

 研究1の結果から,効果は3日以内に消失することが示唆された。効果が消失した要因として,ぬいぐるみたちが全く動いておらず,前回以降お泊まり会に行っていないように見えることが関係しているように思われた。そこで,研究1から1か月後,ぬいぐるみたちを子どもの目に触れない場所へ移動させて,再びぬいぐるみお泊まり会に行ったのではないかと子どもたちに想像させた。翌日,ぬいぐるみたちが幼稚園に戻ってきていることに気づかせて,研究1と同様の観察を行った。

●調査結果

 ぬいぐるみが再びいなくなる前後で観察を行った。ぬいぐるみが戻ってきた後,ぬいぐるみに絵本を読み聞かせていた子どもは2名から14名に増加した。

●本研究から得られた示唆

  • ぬいぐるみお泊まり会には子どもの読書活動を促進する効果がある。
  • ぬいぐるみお泊まり会の効果は短いため,お泊まり会への参加後も効果を維持できる方法の開発が必要である。本研究では,ぬいぐるみお泊まり会を思い出させることで子どもたちの読書活動が再び見られた。

●ぬいぐるみお泊まり会の実施に関する留意事項

  • ぬいぐるみお泊まり会の参加募集は,先着順による公募であることが多い。参加の決定・応募は保護者が行うため,読書に関心のある保護者の子どもが参加する可能性がある。その場合,集まった子どもたちは,相対的に読書に触れる機会の多い子どもたちである可能性が高く,読書活動の促進の効果は高くないと思われる。そのため,募集方法を工夫する必要があるだろう。
  • ぬいぐるみお泊まり会に参加すれば,子どもは必ず読書活動の促進効果が得られるとは限らない。ぬいぐるみたちが動くということに疑念を抱いている場合には,効果は期待できない。特に,小学1年生以降では空想世界と現実世界の区別ができるため,ぬいぐるみお泊まり会の世界観が通用するのは幼児までと思われる。
  • 子どものぬいぐるみが絵本を選んだり,読んだりしている様子の写真が有効と思われるため,図書館内を探検するのみの写真とならないように注意する必要がある。
  • 子どものぬいぐるみは名前が付けられていることが多く,性格や性別もあるため,参加前にぬいぐるみの性格や性別を保護者に尋ねておくと,撮影のバリエーションを増やしたり,探検のストーリーを作りやすくなったりする。
  • ぬいぐるみお泊まり会へ招待する手紙や招待チケットが届くと,子どもたちはぬいぐるみを持って図書館へ行くことを理解し,意欲的に参加する様子がうかがえたため,保護者から参加を受け付けた後,招待チケットや招待の手紙を子ども宛てに送ることを推奨する。
  • 招待の手紙などを子どもに送る際,「ぬいぐるみお泊まり会」では何をするのか理解が難しいため,「絵本パーティー」などの,子どもが理解しやすい名称に変えて手紙を送ることを推奨する。

 以上の留意点を考慮した上でぬいぐるみお泊まり会を開催することができれば,子どもの自発的な読書を促進するだけでなく,保護者と子どもの間に絵本に関する会話が生まれ,親子のコミュニケーションの機会を新たに提供することができると思われる。

岡山大学大学院教育学研究科・岡崎善弘
金沢大学人間社会研究域学校教育系・浅川淳司
専修大学ネットワーク情報学部・石井健太郎
九州大学基幹教育院・山田祐樹

Ref:
https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2017.e00252
http://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press28/press-170228.pdf
http://www.post-gazette.com/local/south/2007/01/25/Tracking-what-happens-when-stuffed-animals-sleep-over/stories/200701250313?pgpageversion=pgevoke
http://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/ja/54484
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