E1732 – 第63回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.292 2015.11.12

 

 E1732

第63回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム<報告>

 

 2015年10月18日,学習院女子大学を会場として,第63回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム「情報資源組織化が切り開く未来:RDA,新NCR,BIBFRAME,Linked Dataがもたらすもの」が開催された。閉会時の主催者挨拶によると150名近くの参加者があり,テーマへの関心の高さがうかがえた。

 最初にコーディネータの谷口祥一氏(慶應義塾大学)から開催趣旨の説明があった。(1)情報組織化に関連して近年話題となっている様々なキーワードとその動向への理解を深めること,(2)そうした動きの中で,将来の情報資源組織化がどのように変わるか・変えていくかを参加者と登壇者で考えていくこと,の2つが目的であることが述べられた。

 シンポジウムの前半は各パネリストからの講演で,情報資源組織化のいくつかの主要なトピックに関する動向が説明された。最初に日本図書館協会目録委員長でもある渡邊隆弘氏(帝塚山学院大学)から,RDA(CA1767参照)と現在改訂作業中の新しい日本目録規則(以下新NCR;E1496参照)について説明があり,(1)両者ともにこれまでの目録規則と比較すると典拠コントロールを重視していること,(2)出版流通の段階でも様々なメタデータが作られる中で,質の良い典拠コントロールこそが図書館のメタデータの独自の価値であること,などが述べられた。続いて高久雅生氏(筑波大学)からLinked Data(CA1746参照)とBIBFRAME(E1386参照)について解説があった。図書館がこれまで作成し整理してきた書誌や典拠のデータは,高い品質で管理されているためLinked Data化しやすいことが説明された。また,図書館の書誌や典拠のデータを図書館以外の世界でも使ってもらうためには,まずはOPACなどのウェブページが,一般のサーチエンジンでもヒットしやすくなるような工夫をしてウェブ上でのプレゼンスを高め,図書館関係者以外の人たちの目に触れるようにすることが大切であるという主張がなされた。最後に佐藤義則氏(東北学院大学)から,国立情報学研究所が実施したNACSIS-CATに関する調査結果などを基に,図書館におけるメタデータ作成作業の変化について説明があった。また,図書館資料のみにとどまらない多様な資料のメタデータが様々な機関によって作成され流通するようになると,それらの中から必要なデータを効率よく発見するためには,関連性の高いメタデータを一つにまとめていく名寄せの技術・作業がより肝心となることなども述べられた。佐藤氏は,図書館には新しい目録規則への対応が求められていく一方で,NACSIS-CAT参加館でも目録担当者が減少している現状について説明し,「今後のメタデータ作成については,より一層図書館間でのガバナンスを強化し,品質の高いメタデータを効率よく作成できるようにする必要がある」との考えを示した。

 後半は参加者からの質問カードに登壇者が回答を行う形式でパネルディスカッションが行われた。以下,興味深かった質疑を抜粋して紹介する。

◯典拠コントロールの強化によって,各図書館が得られるメリットはあるか

    渡邊氏:特定の著者や主題に関する情報資源を網羅的にリスト化する「集中機能」の強化に直結するだろう。 

    谷口氏:典拠コントロールを強化するという方針は,「図書館の目録は今後も構造化された品質の高いメタデータとして作成していくべきだ」という意思表示でもあると思う。 

◯図書館員は詳細なメタデータを作成することの重要性を理解できるが,利用者にとってのメリットはあるか

    高久氏:RDAや新NCRの考え方の基礎となるFRBR(CA1480参照)が利用者のタスクに基づいて整理されたものであるため,書誌情報の「エレメント」や「関連」を充実させることで,利用者の利便性を高められるだろう。 

    佐藤氏:RDAも新NCRも印刷体資料のイメージが前提となっている。電子的に提供されている学術雑誌などを利用しやすくするためには国内のナレッジベースを整理するなど,印刷体資料のメタデータ作成以外の領域での努力も併せて行っていく必要があるだろう。 

◯今後の書誌作成作業はどのようになっていくか

    佐藤氏:出版流通の段階でのメタデータも充実してきているので,図書館が1から10まで作らなくてはいけないというわけではない。また,メタデータの相互運用性を高めていくことが大事で,それが高まれば,どこまでを図書館が作るかといった境界は曖昧になってくるだろう。図書館以外(民間のMARCを作成する会社など)が書誌データ作成の主体となる可能性も考えられなくはない。 

    渡邊氏:メタデータ作成が効率化されたとしても,特別コレクションや地域資料のメタデータ作成作業は残り続ける。品質の良いメタデータを作って,それらが世界に広く流通するよう,各図書館単位を超えた国家規模の仕組み作りが必要である。

◯ORCID(CA1740参照)による研究者管理等と個人名の典拠コントロールとの接点をどのように考えるか

    高久氏:学術情報流通の分野でもLinked Data化の動きが並行して進んでおり,それらと図書館のメタデータは結びついていくだろう。 

    佐藤氏:図書館情報学で考えられてきた典拠コントロールの考え方などを他分野に広めていくいい機会であり,もっと図書館側が図書館の外の世界にアピールしていくべきである。

 「図書館における目録担当者の確保について,日本図書館情報学会でも取り組んでいくべきではないか」という質問に対しては,登壇者全員が同意した。

 情報資源組織化のための目録規則やメタデータ形式といった部分では,大きな変革が実りつつあるが,新しいメタデータを「どのような体制で作成・維持管理していくか」「どのように流通させ,活用していくか」といった領域には,まだまだ色々な面から議論される余地が残っている。谷口氏のまとめの言葉のとおり「それぞれの立場から議論をしていくことが必要」であるということが再認識されたシンポジウムであった。

電子情報部電子情報サービス課・安藤大輝

Ref:
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/project/catwg_last.html
http://www.jslis.jp/conference/2015Autumn.html
E1496
E1386
CA1767
CA1746
CA1480
CA1740
CA1837